第11話 私が私であるために
「ねえ、確か貴方の国は今戦争中よね?」
私の唐突な発言に、一瞬戸惑いの表情を見せたがすぐに意味を察したのか頷くエリン。…やはりね。
「はい!あの憎き穢れと土埃の卑劣な猛攻に耐え、同胞は「そういうのはいらないわ。」。。。え?」
「そういうのは要らないのよ。」
ここで森人と、エルフの違いについて説明しよう。
森人とは種族の包括名。すなわちⅢ型純人の事を指し、それは二つの種族を含むのだ。その二種族とは白森人と黒森人。
それで、だ。エルフの国はダークエルフとドワーフと戦争中。いわゆる三つ巴。互いに殺気MAXで殺し合っている。奴隷商でさえも彼の三種族を同じ檻には入れない。延々と殺し合い始めるからね。質が下がっちゃう。
「要らないって。私達がしているのは聖戦であって!それを!」
「喚くな。」
「!?」
意思に反して口を噤むエリンを横目に、私は椅子にもたれかかる。防音結界がきちんと作動してくれて良かったよ。お陰で煩わしい声を聞かなくて済む。
私にとってはどうでもいいのだ。
戦争の理由なんてものは知らないし、知る気も無い。いつだって戦争の理由はそんなものだ。重いようで軽くて、複雑なようで単純な理由から戦は始まる。一度始まると失ったものを取り返そうと必死に藻搔いて、奪って、奪われて。どんどん泥沼に嵌っていく。
皆がそれを不毛だとしりつつも、もう抜け出せない。知識として知っていても、感情が抜け出すことを許さない。
それが戦争。
私が最も唾棄しているもの。
だから。
だからこそ。
「その争いを絶対に持ち込むなって話なのよ。」
きょとんとした顔のエリンが話を把握しおわるのを待たずに言葉を畳みかける。
「これはそのまんまの意味よ。お前らの諍いに、どんな事情があろうと王国が巻き込まれることは許さない。王国は絶対にエルフの争いに首を突っ込まないわ。」
これがお前の来た理由だろ?
王国をその泥沼の戦争に関わらせようとは思っていることは知っていたが、先ほどのエリンの話を聞いて確信した。エルフの森の女王は始めから分かっていたわけだ。帝国なんかより王国の方が話を交渉事に弱くて、口先で援助を取り付けることができると。
でもそれは絶対に許さない。
「でも正義は私達に。。。」
防音結界を解析し、沈黙作用を無効化。流石、森の賢者と言われるだけはある。並外れた技能を発揮したエリンは、先ほど親交を深めたからか、戸惑い気味に私を見る。
「フォー様。相手は悪なのですよ…?」
しかし私は、そんな戯言に耳を貸す気は無い。
「王国に何かあったら報復としてお前らを消すために私は殲滅軍を放ち、エルフ占領に全身全霊で励む。」
「な!?」
驚愕するエリン。そうね、驚くわよね。けれどね、こっちも譲る訳にはいかないの。
「ファイーブ個人までなら許す。愚弟を個人的に、王国に一切関係ない形で貴女に連れていくことまでは許すわ。」
「ファイーブは王族ですわよ!?そんなこと不可能ですわ!!」
だからそういう意味でいってんだよ。分かれよ。
「もしも、もしもの話よ。貴女が王国民にその穢れた戦火を持ち込んだ時、王国を巻き込んだ時貴女は絶対に殺すわ。」
「な!?」
「貴方の幼馴染モーノも、その恋人ジーも、母トーリも、父テトーラも、叔母ペーンタも、妹ヘーキサも、弟ヘプータも、兄オクータも、姉ノーナも、乳母デーカも、全員奴隷商に愛玩動物として売り飛ばすわ。」
脅迫の材料はちゃーんと調べてある。私の影は優秀なのよ。
「そ、それは私への宣戦布告と捉えますわよ!正式に訴えますわ!」
体を震わせながらも、毅然とした態度で抗議する王女ちゃん。よくいったわ。民を、大切な物を守る意思がある。でもね。。。。
「ご自由にどうぞ。でも王国で私に裁判で勝てるとは思わないようにね。」
ここは王国。
王国が味方するのはエルフなどという異種族ではなく王国民。もっというなら国の主たる王族よ。王国裁判は私に味方するに決まってるし、貴方が勝訴できるわけないでしょ。
逆にエルフが王国を紛争に巻き込もうと暗躍してるて訴えるわ。
「そんな道理に反したことが通る訳…!!」
「貴方、先ほど自分がいった事を忘れたの?」
「は…??」
ポカンと口を開くエリンを見て思わずため息と吐いていしまう。呆れたわね。まさか本当に忘れているとは。
「王国はね、排斥行為が著しく強いのよ。道理や筋なんか関係無いわ。」
「な‥!?それは!?」
「断言するわ。貴女の発言は揉み消され、王国は余所者のエリンではなく私を支持する。」
だから引っ込んでろよ余所者が。
と勝ち誇ったことを考えていたのが悪かったのだろうか、この娘何か魔術編んでいるぞ!?
「この凡人が調子に乗って!後悔しますわよ!」
もしかして室内でぶっ飛ばす気!?頭の中蛆虫湧いてるの!?
しかもこの魔力量、魔術式、、マズイ!?
「私はエルフの国の王女として。我が民にあだなす存在を討つ責務がある!!」
・・・・いいからはやく撃てよ。今の間でお前7発は殴れたぞ。
「『上式火術:エンブレム・フ『沈黙』。。。。!!!!』」
そして残念。魔術は発動しない。
『中式無術:沈黙』。兄上が、裏稼業が好む超狭域魔法。強制的に口を閉めさせるというシンプルな効果。当然声も音も出せない。
それにしても凡人、かあ。
「全くもって私は凡人だわ。中式までしか短縮できないし、貴女に比べれば路端の石ころね。」
「・・・・!!」
でも私が勝っている。相手は私を舐めすぎたんだ。
王女の上式火術を詠唱省略を可能にする実力には目を瞠みはるものがある。けれど、私だって簡単な魔術なら詠唱破棄ぐらいできる。どちらが早く発動されるかなんて一目瞭然。
愚弟の無詠唱みたいな馬鹿げた才能は無いけれど、これぐらいなら私だって出来るのだ。
「今は私が優勢ね。ふふふ、手加減してくれたの?確かに弱かったものね貴女。」
「・・・・!!!」
おお、キレてるキレてる。馬鹿にされて怒っているのねー?確かに貴方の得意魔術と性格の情報、そして私の無術との相性が無かったら危なかったかもね。まぁ、情報があれば対処できる程度だったというわけだけど。
ましてやここは王城。王族血統者の能力値は上昇する。
全ては王族に味方する。
「驕るなよ森の民。ここは王城だぞ?ここで一番強いのは王族だ。魔に愛されたお前らエルフじゃないんだよ。」
「・・・・・!!!」
睨めども喋れない。怒れども喋れない。怯えども喋れない。それが沈黙。相手に強いるは沈黙のみ。
防音結界の拡張機能とは質が違うのだ。
「もう一度言うわよ?お前が戦火をこちに持ち込めば、幼馴染モーノと母トーリはダークエルフに売り飛ばし、恋人ジーと叔母ペーンタはドワーフに送り、父テトーラと乳母デーカは魔領で競りにかけ、妹ヘーキサと姉ノーナは王国の屑共の夜伽として売り払い、弟ヘプータと兄オクータは獣国にて飼われることになる。」
ギリリッと唇を硬く噛みしめる王女。睨みつけても無駄。そんなんじゃ私は怯まない。
「己が行動に、覚悟を持ってくれるわよね?」
「・・・・。」
「私はさ、|宣言したことは絶対に実行するからな《・・・・・・・・・・・・・・・・・》?」
宣言通りにしないと舐められるから絶対に実現させる。このポリシーだけは絶対に守る。例えそれが兄弟を傷つけようとも、だ。
同じ理由でおいそれと宣言なんてしないけどね…と。
「あら、どこ向いているのかしら?」
「・・・・!」
「無駄よ。」
王女サマは助けを求めようと愚弟を見るも、叶わない。援軍を出させるなんてそんなヘマやらかすと思うか?今シェードが死角に誘導し、雪巫女と談笑しているんだ。アイツの位置から貴方は決して見えないよ。
「なんなら今、見せしめに一人やっとくか?」
「・・・・!!!」
「残念だけど、何言っているのか分からないわ。それは肯定の意を込めているのかしら?」
「・・・・!!!!!!」
怒り、悲しみ、混乱。全てに感情がごちゃ混ぜになった表情を浮かべるエリン。
「なーんってね。冗談よ。」
『沈黙』解除。
「ファイーブと仲良くしてあげてね?」
「・・・・・・・・・」
「いいわよね?」
「・・・・・・」
…まったく。
「返事は?」
「・・・・・はい。」
すねちゃってカッワイイー。
エルフの王女
女王の娘として名をエリンという。上に3人ほどの姉がいる。従来のエルフとは異なり、人一倍好奇心が強く、保守的なエルフからは疎まれていた…と勘違いしている少女。
普通に用事している時に質問しないで欲しいと思っていただけで、疎まれていたわけでも何でもない。よくある思春期の「自分嫌われている病」を患っているだけである。
女王からの命令で王国からの支援を取り付けてもらうようにファイーブにくっついた工作員。の筈が、王国に馴染めなかった所をファイーブに助けられて恋に落ちたチョロイン。何してんだお前?
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