第9話 優秀なせいで国が亡びる
その後教会の聖女と聖闘祭に出るとか、エルフの王女と一緒に精霊の儀を行ったとか色々話してくれた。内容についてはツッコまない。シェードがきっと何とかしてくれるだろう。
何せ話の殆どがデリケートな話題だ。シェードは対応せざるを得ない。
(頼むわよシェード。)
(・・・・・いやだぁ。)
(いやだぁを拒否します。)
(そんな!?)
だってそれが貴女の仕事じゃないの。
そして影が出しゃばらなければいけない案件を黙っていた王子がいるらしいわ。そいつはきっと、『報告する必要があるとは知らなかった』とかいう言うに違いない。
根拠はある。
文官が呪詛を吐く相手は大体こう言い、そして文官に嫌われている王子オブザイヤーをぶっちぎりで受賞し続けているのがファイーブなのだ。
性格いいのに嫌われるて。可哀そうにね。
(あのクソ王子。。。報連相もできないとかマジで本当に。。。)
あらま。もう既に呪詛を吐かれてるわ。
シェードの恨み事に付き合っていると、ファイーブが鞄を手に取り机の上に置く。よく見れば鞄は動いている。どうみても中に何かいる。
なんなら鳴き声すら聞こえている。。。
(シェード、あれ何だと思う?…シェード?)
アイコンタクトをシェードに送ったのが、コイツ‥‥。目をつぶって現実逃避してやがるし。そんなことしてどうすんのよ。そんなので現実が消えるなら私だって毎日してるっての。
そんな私達の気持ちを踏み躙るかのように、太陽のように眩しい笑顔を私達に向けるファイーブ。その手は鞄の封を開け始めている。
「実は姉上に見て頂きたいものがあります」
見たくないなぁ。知りたくもないわよ。けど知らないとヤバい気がする。
「・・・何でしょう?」
十中八九その鞄のことだろう、と思ったら鞄から動物が出てきた!?
「ワン!!」
ファイーブが鞄から連れ出したのは狐系魔獣のような見た目の生物。普通の狐系と違うのは尻尾の数。ファイーブが今抱えている狐は尾が4つ程ある。
…それ害ないわよね?後そういうのも前もって言ってね。
「見てください姉上!」
モフモフを持ち上げ、私に見せるファイーブ。
「カワイイわね。どうしたのそれ?」
「この子は学園で拾ったコンです!『惑わしの森』で拾いました!」
『惑わしの森』?たしか幻獣九尾を盟主とした学園附属の大森林。
・・・いやそいつ幻獣の子供。かわいいけども。でも幻獣だよね?
まさか王国と盟主との盟約をご存じないのかな?それを破った愚かな貴族の末路も知らないとか?
「ファイーブ。」
「はい!」
相も変わらず明るい声で返事するファイーブ。彼の声に反比例するかのように、私の心は真っ暗だ。それでもと。一縷の望みをのせて私は質問する。
「その子は何の魔物かしら?」
御伽噺の乗る程の悲劇を招くような真似をしていないと、流石に信じたいが。ファイーブだからなぁ‥‥。ファイーブだしなぁ。。。
「コンはコンです!姉上も撫でてみて下さい!」
ふっ‥‥。
ファイーブて馬鹿なのかな、て時々思うわね。何で聞いたのか一切理解してない。触るけどね!モフモフだし。つぶらな瞳だし。可愛いし。
手を頭にかざし、いざなでなでを‥‥。
「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」
「・・・・」
そっと頭を撫でようとしたら、狐に滅茶苦茶睨まれた。親の仇のように私を見て、唸り、騒ぐ。まるで私を警戒しているみたい。なぜ?しかも鳴き方犬みたいだ。
ファイーブは申し訳なさそうに私を見る。
「あの、その普段は大人しいのですけど。」
「失礼。」
そう言ってシェードは私の肩を掴んで私を狐から遠ざける。何よそれ。まるで私が原因みたいに。。。。
「くーん。ワンワン!」
ファイーブに甘える獣。とても可愛らしい。
一歩近づく私。
「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」
「・・・・」
スッ。(一方後ろに下がる)
「くーん。ワンワン!」
甘える獣。
サッ(一歩近づく私。)
「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」
「・・・・」
周囲に居たたまれない空気が流れる。ファイーブはどうしようこの空気って顔してるわ。分かる。本来ならキャッキャして狐を撫でる筈だったもんね。今は和やかな空気とは程遠い。
何でよ。私のどこが怖いのよ。
「・・・・姉上。その、あの。。。」
「なんだい愚弟。」
「愚弟!?いや、その、なんていうか。。。」
「・・・・・その狐。」
「は、はい!」
緊張した表情のファイーブだが、私は気にせず口を開く。
「不敬罪」
「「「「!!!」」」」
「冗談よ。」
「「「「「ホッ」」」」」
ねえそれどういう意味?本当に私がすると思ったの?ねえシェード?なんで貴女もそちらにいるの?そこまで動揺するかな普通?
けどいいの。私はそこまで気にしていないから。そんなことを一々気に留めるような小さな女じゃないの。
「別に、動物に嫌われてもいいですし。ただの動物ですもの。これっぽちも、全く、全然悲しんでいませんわ。獣にも相性があるのでしょうしね。私とは少し合わない部分が合ったのでしょう。ええ、きっとそうでしょう。だからちっとも辛くないわ。」
思えば幼い頃から動物に嫌われてきた気がする。私が何かしたのだろうか。逆にあの実兄はあんな汚い心なのに動物に好かれている。
あれ、なんか目から汗がでてきた。
「・・・・姉上。」
「フォー様。。。」
「なによ?いいわよ貴方達で私の向こうで遊んできても。ええ、いいわ。主人をほっぽるシェードも、姉を置いて、ペットと遊ぼうとする愚弟にも、これっぽちも思う所は無いわ。」
「あ、姉上。。。。」
なによその可哀そうな者を見る憐憫の眼差しは?寂しくないって言っているでしょう!?
「ぎゃううう!!ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん!!ぎゃいいいい!!ぎゃんぎゃん!!グルルルル!!」
・・・・コイツマジで空気読まねえな。私近づいていないのに何故吼える?
というかお前はちゃんと家出の許可取ってるのでしょうね!?迷子とかだったらお前のママが王国滅ぼしに来るのよ!?頼むから帰ってくれないかな。
「・・・・・あの、私フォー様とお話したいことがあるのですわ。」
「あ、ずるい!?私もフォー様と是非話をしたいのに!!」
「それって抜け駆けよね!?駄目って言ったじゃないの!!」
「あれれれ?そんなのあったかしら?」
そしてここにも空気を読まず声をあげる少女達。
もうやだぁ。
<誰得設定>
惑わしの森
王国国立学園に付属する大森林。初代校長と盟約を交わした真祖、幻獣九尾の住処である。初代校長亡き後、学園の校長は大森林の世話をするという条件で実習などにこの森を使っている。多様な生態系を含む豊かな自然を有し、訓練に適した様々な地形を持っていることから騎士団も使うことがある。
かつてこの約束を破った校長がいたそうだが、そいつは裸踊りを披露して生徒の目前で首吊りを披露したらしい。それ以来この約束を破った者はいない。
なお、これは九尾に技とは全く関係無く。この校長を恨んだ職員による仕業だったのだが、九尾としては良い抑止力になったのでちゃっかり使わせてもらっている。
____________________________________________________
皆さまの感想、意見、アドバイスお待ちしております。
誤字脱字の指摘も是非、お願いします。




