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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
実兄怖いし嫌い
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第7話 これは普通なほう 

いやー、姉上に張り合うためだけにここまでするなんて尊敬しますね、流石兄上。私にはとても真似できない。


「この人気なら姉上も追い越せますよ!頑張って下さい!」


「べ、別にあんな奴のこと意識しとらんわ!」


意識してるじゃないの。


私の冗談めかした言動に動揺しているのが良い証拠。椅子から立ち上がるまでの狼狽ぷりもみせている。


ワーン兄上は姉上を嫌ってる。けどそれは軽蔑と怒りだけじゃない。これもまたコンプレックスの裏返しなんだ。




「天才に張り合うなんて疲れるだけですのに。」




「煩い!」



ドン、と拳で机を叩く兄上だが、構わず私は言葉を紡ぐ。軽やかに、そして揶揄うように。兄上に言葉の刃を突き付ける。



「姉上はおかしいですものねー。今の騎士隊長は大体が騎士となって40年のベテラン。戦の経験も、知識も、技能も、魔術も、武力も、信頼も、40年間の集大成で騎士隊長だというのに、その中で姉上だけはほんの6年足らずで就任しましたし。」



たった6年だ。王族の箱入り娘のたった6年が、歴戦の戦士の一握りが座る地位にまで押し上げた。


は????だよね。


こんなのありえないし、考えられない。姉上は努力したなんて言っているけれど、そんなの皆している。努力しているけどなれないのが騎士隊長なのだ。努力は彼女だけの特権ではないのだ。


彼女は自分の努力の量が、質が、他の何十分の一だということに一生気付かない。彼女の才能が、身分が、周りの人間が、にそれに気づくことを許さない。




だからスタート地点も、道のりも、何もかも。前提としてその全てが人とは違うということに弟も姉も決して気付かない。



兄上はそのことを、姉上の過程を知っている。それだけの知力に加えて、騎士隊長を務めるほど身体能力にも優れていることを当然知っている。


「ふん。ただの忖度だろうが。」


ふんぞり返り、気にしていない体で振る舞っていても、知っている。



「認めているくせに。」


「認めておらん。」


頑なに認めない兄上に、私は止めを刺すべく言葉の弾を発射する。


「口に出したら悔しいですからね?」


「煩い。」


ぎろりと鬼をも射殺すような鋭い目付きで私を見るが、これで口を閉じるわけがない。迷惑をかけてきたのはそっちからなのだ。なら当然、私が掛ける迷惑にも付き合ってもらう。


「悔しくて悔しくて、姉上を憎んでいる兄上。自分は誰よりも王になりたくて、誰よりも国民を守りたくて、誰よりも王国を愛しているのに、それだけの才能は無い兄上。血反吐を吐いて、生まれが早くて、身分があって、やっと一つの王座しか手に入れない兄上。」


なのに弟や姉上にはある。圧倒的な才能が、彼女達にはある。軽い努力で、薄っぺらい信念で、王になんかなりたくない癖に自分より優れた王になる資質が。知性も武力もカリスマも、生まれた時から持っている。


「・・・うるさい」


「そんなにも認めたくありませんか?」


「黙れ!!」


そんな奴が「なりたくないけど仕方がないから王になる」なんて兄上は許せないのだ。彼の20年は決してそれを許容しない。許容できない。彼の20年はそんな軽くない。



当然兄上だって分かっている筈だ。桁外れた才能は、それ相応の苦労を伴う。それぐらい、彼にだって分かっている。



でも、それでも嫉妬を止めれない。

この感情は、そういうことで抑えられるものではないのだ。





姉上は兄上に執着し、兄上もまた姉上に固執する。姉は兄に打ち勝つことで己の逃げを正当化し、兄は姉を打ち負かすことで己が努力を証明したい。互いが互いのコンプレックスなのだ。




だから互いに蛇蝎の如く相手を嫌う。めんどくせー関係なのだ。


私とは関係無いとこでやってくれたらニコニコ笑って観戦するけどね。見る分には面白そうだし。でも、私の目の前でやられるのはちょー迷惑。


巻き込まれる私の身にもなってくれ。


「いやー、凄いですわ白銀。カッコイイですわ白銀。」


「。。。。」


「何が凄いって名前のチョイスですわよね。白!銀!!」


「う、ぐぐぐぐ。」


歯を食いしばって私を見ている兄上だが、私は兄上の秀逸なネーミングセンスを褒めているだけ。なぜそんな顔で見られるのか理解が出来ないわ。


「一体どうしてそんな名前に?小さい頃から考えていたんですか?『ボクが考える最強の名前ノート』に書いていたんですか?」


「そ、そんなの無い!!」


もしや図星か。

声を震わす兄上を見て私は大仰に手を振り、掌を合わせる。


「すみません白銀サマ!いや白銀お兄様!白銀のようなお顔を曇らせるなんて、やや!!私めはなんということを!!」


「お、お前、いい加減にしないと・・」


唇をわなわなと震えていらっしゃるが、どうかしたのだろうか。きっと妹を兄妹喧嘩に巻き込んだ罪深さを自覚し慄いているのだろう。


ならば仕方あるまいね。メタクソに煽ってやらないと。


「え?え?なんですか??私はただそこらの淑女と同じように白銀の一ファンとしての意見を述べただけですよ???まさかそれに対していちゃもんをつける気ですか??」


「ぐ、、ぎ。このぉ・・・!!」



スカッとするわぁ。


「うわぁ。。。。。」



・・・・ドン引きしないでよシェード。




この後も一通り煽り、後はもうお帰り頂くだけ。そんな雰囲気が流れ出した中、兄上は姿勢を正して私を見る。その眼は真っ直ぐと私を捉えている。



「・・・・それでフォー。そろそろ本題に入ろうか。」




「本題、ですか?」


私の言葉を聞いていないのか、即座に続きの言葉を張り上げる兄上。



「そろそろ返事はくれるのだろうな!」



「はて、なんの返事でしょうか?」



何も知らねえって顔ですっとぼける私。仕方ない。だって本当に面倒だし。

兄上も案外身内には甘いからいけるはず。


期待を込めて兄上を見れば…あ、駄目ね。ぷっつん切れていらっしゃる。


「お前それ50回目だからな!?それをずーと使い続けるなんて隠す気ないな!?お前このままはぐらかし続けるつもりだろ!」



「メンタリストかよ。」


なぜ分かったし。


「本当に隠す気ないな!!少しは否定しろ!」



「てへぺろ。」


すっとぼけていたら真面目な顔で私を見てくる兄上。さっきまで獣のように吼えていたのに、今はちょっとシリアスな顔。



「・・・お前このまま蝙蝠でいる気か?」



その顔は自身の利益だけではなく、(わたし)のことも心配しているようで。。

だから私もちょっとだけ真面目に返す。




「いいえ、物見遊山感覚で観戦してます。参戦は決してしませんからご安心を。」




「そうか、ならいい。」



いいんだ。


返答した私がいうのもなんだがいいんだね。



私の返事を聞いて真剣な顔をする兄上。どうやってファイーブ派を崩すか思考しているのだろう。兄上は姉上には劣るけど、やっぱり秀才だ、だからすぐに優れた案を思いつくだろう。




まあ、それを超えるのが姉上達という天才なのだが。


「・・・よし、策はある。」


見事な前フリ。失敗するって私は確信しているよ。


「・・・・なんだその顔。」


「いいえ何も。私は見ているだけですから。」


「・・・・そうか。」


釈然としない顔で私を見るも、すぐさま頭の中で作戦を煮詰める兄上。


きっと失敗するんだろうなぁ…兄上だしなぁ…


失敗しても骨は拾ってあげよう。



と言い忘れていた。兄上の思考に耽っている様を見ながら私は思い出す。

これだけは、王宮の為にも私の為にも、言っておかなければいけない。



「兄上。私だって味方する人はいますからね。もしその人達を傷つけたら。。」


私が言い終わる前に、兄上が口を開く。


「分かっている。文官だろう?スリーにも口煩く言われている。」



分かっているならいい。


「私にだって子飼いがいますから。」


「当然手は出さないぞ。」


「有難うございます。」




「ああ、別に俺に害をなす奴らじゃないからな。」


今の王子の子飼いはそれぞれ特性がある。兄上(ワーン)は貴族、姉上は正義、実兄(スリー)が悪、ファイーブのは高能力。



私の可愛い手駒たちは?


それは文官や使用人、門番など、争いで吹き飛ぶ人間。そんなモブ達が私の手駒。大きな才能の前には無力で、権力には勝てなくて、どこまでも平凡な子達。争いで一番とばっちりを受ける子達だ。



例えるなら物語の序盤で消える名前すら載せて貰えない犠牲者達。



彼等が私に仕える理由は簡単。私が権力から守ってあげるから。あの子達は吹けば飛ぶような身分で、争いの余波で一番人生が狂わされる。だから庇護を誰よりも求める彼等に、私は手を差し伸べただけ。


そんな子達を守って中立を保っていたらドンドン増えて今では王城での最大勢力になっていた。



そんな雑魚とモブの集合体である私の派閥だが、結構力ある。執務の最終段階を担うのは兄上や父王だけど、そこまでの過程は殆ど私の子飼いが担っているからね。あくまで最終手段だけど。まあ抑止力としては十分あるよ。



兄上もそれを分かってくれたのか、手を出さないことを約束してくれた。なら私が言う事はもう…いやあった。


「それと兄上。私の子飼いから苦情も来てますよ。執務を口喧嘩で中断しないで欲しいそうです。」


「・・・あ、ああ。善処する。」


妹からマナーを注意されて気恥ずかしいのか、決まり悪そうに頷く兄上。だが残念。まだまだあるのだ。


「それと怒って扉を叩かないこと。」


「あ、ああ。」


「剣を地面に引き摺って床を傷つけないこと。」


「うむ。」


「足音が大きいこと。」


「そうか。」


「魔力を漏らして周囲に威圧していること。」


「気を付ける。」


「食事中に喧嘩する時間が長いから料理を運ぶタイミング側が分からない、とのことです。」


「真摯に受け止めよう。」


それ改善する気ない奴のセリフじゃん。



「それから次に執務室における態度ですが。。。。」


「待て。」


突然制止をかける兄上。そんな兄上の行動につい私は頭を傾げる。難しい事は言っていないつもりなのだが。


「何か?」


「まだあるのか?」


「ええ。」


「‥‥そうか。」


「では、続けますね。まず、執務室にて。。。」




皆言えないだけで不満が募っているのよ。


言えないだけで、ね。

<誰得設定>


中立派閥



私達は弱い。だから私達を争いに巻き込まないで。





____________________________________________________



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誤字脱字の指摘も是非、お願いします。

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