第6話 クッキー!✓
「王国の歴史って物騒なんだね。」
そう呟くサーシャ様。その言葉に私は短く返す。
「血にまみれた悲しい記録です。。。」
そう思ってくれる人がいるだけで私は嬉しい。
スリーなんて「え?だからどうしたの?」だからね。寧ろあれが当たり前と思っている節すらある。というか、王国の王族の思考は大抵あんなものだ。思考が王位継承戦に特化しているんだよね。
「だからこそ私は、王国に流れる血を少しでも少なくするために努力するつもりなのですよ。」
「それって嘘ですよね。」
「まぁそうね。」
当然の如くシェードに突っ込まれたがその通り。なんで私が赤の他人の為にそこまでせねばならんのだ。自分の身を守るのに精一杯だっていうのに。
「王国自体は何かあっても影が守ってくれるでしょ。」
「過度な期待を私達に寄せないでくださいよ。」
「できないの?」
消極的な意見を言うシェードを挑発するように問いかけると、肩を竦めて口を開く我が側近。
「所詮は人間ですので。まぁ、影長がいるので大丈夫でしょうけど。」
「理由は?」
「影長は人間じゃありませんので。」
「影長て地獄耳だけどアンタ大丈夫なの?後でまた折檻されないの?」
「あっ。」
慌てて口を塞いだシェードだが手遅れでしょ。
因みに影を作ったのは女帝ハオだ。元々存在していた暗部をベースに、女帝ハオ様が化物影長の一部をスカウトし、2代目女王が化物度を洗練するような訓練を課していったかららしい。
何してくれてんだと思うが、継承戦でこんなに国が傾いているのに王国が王国として存在できるのは影の尽力によるもの。帝国や教会の工作員と始末し、他国に牽制しているから安心して内輪揉めできる。
きっと二代目国王陣は、王位継承戦のデメリットをちゃんと見据えてこんな化け物集団を作ったのだろう。王位継承戦を作ったのも二代目だった気がするけど。
盛大なマッチポンプである。
「そう言えばフォー様。」
「なに…え何してんの!?」
私に声を掛けたシェードの方を振り向けば、クッキー焼いていたわ。
‥‥アンタ静かにしてると思ったらそんなことを。
影長関連で絶望していると思ったのに。
「オリジナルクッキーいります?」
「…何それ?」
「先ほど焼いた『匂いがしない消臭クッキー』です。」
道理で臭いがしないと‥いや何故そんなもの作った!?
やっぱり影というのは意味の分からないことをする生き物なのね。
サーシャ様がおそるおそる手を伸ばして食べている。あの笑顔を見る限り不味くはないようね。私はそんな得体のしれないもの食べないけれど。
サーシャ様がもきゅもきゅとクッキーを頬張る様子を後目に、シェードは私に問いかける。
「ところで質問に戻るのですが、フォー様は件の第二皇子に会ったことあるのですか?」
「愚問ねシェード。貴女は何年私の側近をし続けているのかしら?」
シェードが作ったクッキーを私はインク様に渡す。戸惑いながらもそれを食べるインク様。…うん、やっぱり毒は無いようね。
「ということは?」
シェードの合いの手とともに私は口を開く。
「会ったこと無いに決まっているじゃない。シェード、貴女は会った記憶があるの?」
「‥‥それで結婚しろて。流石に無茶振りじゃないですか?」
それは知っている。会ってすぐ結婚だものね。逢瀬させろというわけじゃないけれど、もう少し手順を踏んでもいいと思うの。
「だから明日会う予定なのよ。愉しみねシェード。帝国の皇子様よ。」
「え!?そんなの聞かされていないのですけど!?」
「だって言ってないもの。」
因みに私は昨日知らされた。上層部は報連相て言葉知っているかな?
でも私は雑魚王子だからね。上層部に文句言う度胸も力もないのである。
「ところでシェード。」
「なんです?」
「どうしてこんなクッキー焼いたの?」
インク様とサーシャ様はモグモグ食っているけど、何故急にクッキー?
「ああそれはですね、フォー様の式の食事でスイーツを私が担当するからですよ。」
「それでクッキー!?」
「それでクッキーです。式でもクッキーを出す予定です。」
こいつ。。。。!!
「上層部にチェンジしろって言わなきゃ。」
「何故ですか!?」
言わなきゃ駄目かな?




