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第4話 売れ残り ✓

「どうですサーシャ様。なぜ私が選ばれたのか納得いきました?」


「うん。」


ここまで懇切丁寧に説明したところ、サーシャ様は理解したよう。一方でインク様が意外そうに目を丸くする。


「へー。私を庇う交換条件じゃなかったんだ。」


「ワーン兄上との交換条件は『結婚時の面倒事における全面的なサポート』ですよ。流石に『結婚させてやるから自分のママを保護しろ。』なんていう恥知らずな条件兄上は出しませんよ。」


「恥知らず・・・!」


頬をひくひくさせている第一王妃様。そういった表情でさえ可愛くなるのはやはりスペックの違いなんだろう。


さて何故私の部屋に第一王妃様がいるのか。まだ詳しい説明をしていなかったかな。


といっても理由は簡単。押し付けられたのだ。


いや、この言い方は違うか。兄上もインク様がここまで盛大な計画を建てているとは思わなかったと言っていたし。


なにせ実はワーン兄上を冤罪にして、抵抗組織(レジスタンス)によって王国を破壊。そしてその新王国の頂点にたとうとしていたのだ。


野望が大きすぎる。そしてあとちょっとでそれが可能だったという点に驚きを隠せない。


兄上はそんな夢を無事阻止できたはいいものの、インク様の対処に困っていた。


元々インク様は帝国の末娘という身分のせいで、一歩間違えれば帝国との火種にもなるし反帝国貴族の火種にもなる。そこで突如政界から引退した理由を王国貴族が知ればもっと最悪な事態になる。


そこで元々インク様を匿うように約束させていた私に、契約を履行するように要求したのだ。


そのお陰で私の中立派閥は『第一王妃が属する陣営』というネームブランドをゲットできた。とは言え、背負った爆弾はネームバリューよりも遥かに大きい。扱いに細心の注意が必要な劇物だ。


「とにかく、第一王妃でありかつ帝国にもパイプがあるインク様を陣営に迎えることで副産物はあるものの、やっぱり私の派閥へのデメリットは大きいのです。」


で、意図せずそんな爆弾を押し付けてしまった兄上は後出しで『結婚のサポート』という条件を付けたのだ。これは謝罪の意味もある。


『ごめんねこんな爆弾押し付けちゃって』ていうことだ。


何だかんだ言って兄上は家族に甘いよね。


「インク様を匿うことで、そこまで大きなデメリットがあるの?」


「うーん、そこは微妙ですね。」


そりゃあインク様が穀潰しならいざしらず。


インク様はインク様で『第四王子に匿って貰っている』なんて不名誉な事実を言われたくないから、必死になって『第一王妃がバックについている第四王子派閥』にするべく働いている。


流石あの誇り高き兄上の母上。どうでもいいことに全力を捧げている。プライド高すぎると生きづらいことを体現してくれている親子だね。


話はそれたが、まぁ目に見える大きなデメリットは存在しない。


「が、インク様を擁するということで他派閥から警戒されていますし。それへの対処は増えましたね。」


今まで「継承戦に参加しないからね~」て言っていた奴が突如スーパーでストロングなアイテム(第一王妃)を所有しだしたのだ。これで警戒しない馬鹿は存在しない。


「それに、インク様を迎え入れた経緯は弩級の国家機密事項ですので。そこにも万全の注意をもって対処しなければなりません。」


経緯が流出したら最悪、影に消される。多分後ろに控えているシェードとかにね。


「だから今回の案件は、私的には心労が大きいのですよ。」


因みに、私の産みの親である側室妃と同腹兄であるスリーからはその件に関して一切連絡なし。感動的な家族の愛に私は涙が出そうだ。


「ということですよサーシャ様。」


「‥‥なんとなく分かった。」


それは良かった。


「で、私はと言えばそのスパイである旦那様が何して王国をどう破滅させようがいいけど、私に攻撃して貰わないために稀代の媚び売り上手である第一王妃様からその秘訣を教えて頂こうというわけです。」


「‥‥やっぱりね。」


「だから媚びの売り方を教えてくださいよ。」


「その言い方でいけると思っているの?」


養ってもらっている立場の癖に偉そうな第一王妃様。でもそれを言ったら王国はこの第一王妃様に散々お世話になっている。だから口に出しては言えないのだ。偉そうだが、偉そうにするだけの実績はある。



なおさっき言っていただろうと言われるかもしれないがアレは冗句だ。つまりノーカウント。



「フォー様、フォー様。」


「何?」


シェードが私の肩を叩く。


「フォー様は国民からの人気高いでしょう?」


「当然よ。だってアイツ等の機嫌を取りまくっているもの。」


その支出がどれだけ高いか。まあ、人の気持ちは買えるうちに買うべきだからいいのだが。


「それなのにインク様から機嫌の窺い方をご教授願うのですか?」


「‥‥帝国の、しかも皇族相手だからね。インク様のテクの方が適していると思う訳よ。」


そして技術は多い方がいいしね。


「なるほど。貪欲に学ぶ姿勢を貫く。真面目ですね。」


「でしょ。」


インク様が呆れた目で私を見ている。何でそんな目を向けてくるのか。


「‥‥何か文句あります?」


「貴女ってそんな性格だったんだなって、」


「???」


インク様の言っている意味が良く分からず、思わず首をかしげる。そんな様子の私を見て、彼女は深く溜息を吐く。失礼だね。


「もっと『箱入り娘』だと思っていたわ。」


「いや箱入り娘ですよ?どれだけ王族と言う権力と地位に守られているか。」


「いや、そうじゃなくて‥‥。」


分かっている。当然こういうことを言いたいのではないのだろう。


私の完全な素の性格を見せているのは、シェード、サーシャ様の二人だけ。あとスリーには勘づかれている。ワーン兄上、ツー姉上、ファイーブに見せているのは一部だけ。


「私は貴女の素顔の一部しか知らなかったわけね。」


「見ず知らずの他人に自分の素を見せるわけないでしょうよ。」


「見ず知らずの他人て。。。一応私は同じ王族よ?信用していなかったわけ?」


「する理由がありますか?」


スリーを見てみろ。一番齢が近い王族がアレだよ?内心を隠して無能を演じるに決まっているじゃない。お陰様で王国外では私の評価は『見た目も能力もパッとしない王子。でも性格は良い』だ。


「…それは貴女の家族が少々特殊だったからでしょ。幾ら帝国でも王族としての敬意と尊厳を守っているわよ。」


「え?帝国て王国より王族の数多いですよね?」


「そうよ。」


「生まれた時から王位継承戦じゃないのですか?」


「…違うわよ。」


帝国って102人ぐらいの王位継承者がいるから、毎日が戦国時代だと思っていた。そうなんだ、互いに互いを王族としての敬意を払い、尊厳を尊重している、か。


いや嘘吐け。そんな世界存在するわけないでしょうが。


「なんでそんな分かり易い嘘を吐くのですか?」


「嘘じゃないわよ!?王国の王位継承戦が苛烈なだけで、普通の国の王族ではもっと仲良しよ!」


え?そんなことありえます?だって王座は一つしかないんだよ?継承権が低い人間が王座を欲しがったら殺し合いになるしかないじゃん。


「想像できない世界です…。」


「私の方こそこの国に嫁いだ時はびっくりしたわよ。」


「そうですか?」


「そうよ。国王のあの不用意な一言が始まる前から水面下でバチバチやりあっていたでしょ?」


「していましたね。」


懐かしい。あの時はもう王国滅んだな、て思っていたっけ。


「帝国貴族だってあそこまでやり合わないわよ。」


「成程。落としどころを弁えて戦っていると。。。。いいなぁ。」


「落としどころ?」


政争に疎いサーシャ様が疑問を発する。


「相手の息の根を止めるまで相手を殴っては後々遺恨が残りますし、政務に影響が残ります。だからこそ、貴族同士の争いでは程々に戦って程々の結果で勝敗を付けるのです。」


一番分かり易いのは決闘ね。あれこそ無害極まりない。最悪決闘する人間一人の首で済む。‥‥決闘を仕掛けるような無能は死んでも特に問題ないから素晴らしいルールである。


「王国ではそうならなかったの?」


「そういう冷静な思考を感情が許さない程に激化していましたからね。」


「そうよ。私が子供を産む前からあそこまで殺気立っているなんて異常だわ。」



「大変でしたねぇ。。。。。」


てっきり全世界どこでもそういうものだと思っていたのに、帝国は違うのか。


「でもだからなんでしょうね。だってこんな歴史の浅い国がまがりなりにも帝国と張り合えているのですもの。」


「そうですねぇ。。。まぁ、かと言って肯定する気にもなれませんが。」


「あらどうして?」


心底不思議そうな顔で私を見る王妃様。この方はどうやら忘れてしまったようだ。


「継承戦のせいで一番弱い私を全ての貴族が狙ってきたからね。弱い者虐めなんてされて私は大変でした。」


「‥‥ああ。」


弱い奴から倒す。確かにこれは鉄則だが、される側からすれば溜まったものではない。シェードも当時の事を思い出したのか、引き攣った笑いを浮かべている。


「あのような経験は二度とごめんですね。」


「へぇ。そこまで辛かったんだ。‥‥それにしてはきちんと生き残っているのね」


「まぁ、その『虐めを行った貴族達』はスリー兄上も対象にしていたので。」



不幸な事故で消息不明なりましたとさ。


「・・・ああ。成程。」

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