第3話 結婚という一大イベント✓
あの後私の性格にも問題があるだとか色々面白い冗談をシェードとインク様から言われたけれど無視。どう考えても二人の方が私より性格が悪い。
そんな私達の口論を聞いていたサーシャ様は、くいくいと袖を引っ張り口を開く。
「…私は大丈夫だよフォー様。それよりも、何であんなことをインク様にお願いしていたの?」
「それは私が帝国の第二皇子に嫁ぐからです。」
「そうなの!?」
え、知らなったの!?
…ああ、そっか。サーシャ様には詳しく教えてなかったけ。
そのことについても詳しく話そうか。
時は三か月前に遡る。
王国と帝国で、お互い争いはよくないから平和にしようぜ、ていう雰囲気になったのである。極めて嘘くさいが、実際に嘘である。帝国は今まで第一王妃様を通じて王国の政治を誘導していたのだが、それが出来なくなった。
「インク様のヒステリーのせいでね。」
「五月蝿いわね。」
「それで帝国は新しくスパイを王国に送り込もうとしているのです。一方で王国も賢者無しで帝国に喧嘩売り続けるの怖いし嫌だし、帝国との強いパイプは欲しいということで、そのスパイを歓迎している訳です。」
それが私と、帝国第二王子アレックス=スターウォーズとの結婚である。政治美学を嗜む人間風に言えば「争い事を避けた」となるのだ。
これでは帝国による工作は実行されるようなものだし、王国もそのスパイを尋問して帝国を探ろうとしているから平和への架け橋では断じてない。でもまぁ、表面にまでも浮かび上がったドンパチを水面下に沈めるには丁度良いのである。
かつて父王に対して婚姻だけで深い関係が国家間に築けるわけないと言った私。そんな私が結婚で争いを回避させられるとはこれまた皮肉な話。
そんな風に思っていれば今度はシェードが元気一杯に手を挙げる。
「はいシェードちゃん、何ですか?」
「何故フォー様なのですか?他の王族では駄目なのですか?」
「結婚適性が無くてもそれを隠してゴリ押せば良いと?」
「ええ。」
真顔で頷くシェード。凄い、本気で帝国の配偶者の不幸とか無視している。
まぁ、それはそれとして。
「‥‥シェード、アンタはもっと物事を知りなさいよ。」
「酷い。サーシャ様との態度の違いが本当に酷いです。」
およよとウソ泣きをするシェード。シェードは芸達者だからなぜか袖を濡らして涙まで出ている。‥‥おいやめろ私が悪者みたいな雰囲気を出すな。
インク様も悪ノリしてきそうだったので慌てて弁明タイムに入る。
「いやだって。貴女は何年私の側近をしてきたのよ。ここにきてまだ2年ちょっとで11歳のサーシャ様と同じ扱いして欲しいの?」
「真心だけ欲しいです。」
「無茶言わないで。」
図々しいわね。
「ともかく、ワーン兄上は第一王妃、つまり帝国の末姫の血筋を引くので却下。」
半分帝国皇族の血を持っている人間が結婚なんてできるか。近親相姦のタブーに触れることになる。
いや、まぁ。そんなの気にしてない過去の事例は山ほどあるけど。でも今のご時世でそれを表立ってやるのは中々外聞が悪い。王国と帝国の上層部が他国から変態フェチズム野郎と呼ばれてしまう事になる。
だからワーン兄上は却下。
「ツー姉上は恋愛幼稚園児だし、ロマンチックな純愛に憧れているから政略結婚なんてごねてごねて仕方が無い。それを見越した王国上層部は姉上もパスしました。」
「恋愛幼稚園児。。。」
なお、私が恋愛強者かと言われるとそうではない。姉上よりマシってだけである。
「まあ、ツーちゃんは流石に嫌よね。」
王子をチャン付けクン付けしながらもインク様は顔しかめて姉上をそう評する。
「姉上はお強いですから。」
「物は言いようってことね。」
歯に衣着せないね。本性がバレたからもうどうでも良くなっているのだろうか。
だがインク様の言う通り。ツー姉上だと少し不都合が生じる。
姉上は理想を貫いて生きるだけの力がある。第二王妃様もツーの行動を大して制限していないし、政略結婚なんてさせられたら暴れに暴れまくるだろう。その様は上層部も目に浮かんだはず。
姉上なら婚約者の顔面ぶん殴るくらいならしそうだし。
それで帝国と王国の仲が壊滅的にになってもケロッとした顔で『私は悪くない』とでも言うのだろう。
「それで民が何人死のうとも、『だからってこのようなことを強いるのは間違っている!婚姻を強いるなんて私は奴隷では無いのだ!!』とでも言うのでしょうね。」
「それが間違っているかと言われると間違っていませんが、私には真似できないですねぇ。。。」
「フォー様はそう言いつつも、裏で事故でも起こすのでしょう?」
「失礼ねシェード!?私をなんだと思っているの!?」
「しないんですか?」
「恐らく。…断定はしない。」
ほら、と言わんばかりに目を遭わせるシェードとインク様。ちょっと全力でぶん殴りたい。
「ファイーブ、第五王子は?」
空気を読んで質問するサーシャ様。こういう所がサーシャ様の好きなところ。空気を読むことができるのよね。
「ファイーブは色々な意味で爆弾ですからね。少し難しいのでしょう。」
ファイーブは最近失恋したとかでそんなこと打診できないし、王国内ですら彼の正妻を巡って令嬢達がバチバチやり合っているから遠慮したのだ。
「つまり王国上層部は日和ったと。」
「そうですよインク様。」
なお、真面目な理由としては妾の子なんていう箔無しを帝国皇族の血に取り込むわけにはいかないというものがある。じゃあ側室妃の娘ならいいんかよと思ったけどいいらしい。謎すぎる。
…いや謎じゃないわね。側室妃も愛妾も愛人枠の妻とはいえ、側室は王家から認められている。でも愛妾は認められていない。『妃』という言葉は飾りでは無いのだ。
愛妾の子供は王家からすればそこらの野良犬。ファイーブは王位継承権が一番ドベだが、そもそも継承権があること事態奇蹟なのだ。無視できない程の才能と、父王がギャンギャン愛妾とファイーブのことを騒いでいたからこそ為せたことなのだ。
「で、そんな子を他所様の国の皇族と結婚させれないという理由があるわけです。」
王国と帝国の面子を掛けたお見合いに、平民の子供を皇族に差し出すなんて狂気の沙汰だからね。
「…そうなんだ。」
「そうなのですよサーシャ様。まぁ、産まれてきた子に罪は無いだのと言う声もありますが、結局のところファイーブは『父王が不倫して産んだ子』です。そんな子を推せないのです。」
「ふ~ん。」
思わないところも無いわけでは無いが、こうして社会は回っている訳で。たった一人の子の為に乱すわけにはいかない。
「じゃあスリー様は?」
「それはありえません。」
「え?」
スリーはそもそも議題に上がらなかった。血も涙もない王国中枢のお偉い方も、スリーを婿に迎えなければいけない娘さんの気持ちをつい考えてしまったのだろう。誰だってスリーを婿に選ばない権利はあるのだ。
それが人として最低限の権利である。
「酷いわね。」
「じゃあインク様は、昨日まで親友だねとか言っていた奴を燻製にして父王に喰わせるような奴を王国の看板を背負わせて婿に出せますか?」
「え、スリー君そんなことしてたの?」
あ、今の言っちゃ駄目だっけか。あの時インク様いたっけなぁ。。。
「‥‥やっぱ今の無しで。」
「ちょっと待って!?」
五月蝿い。ノーコメントと言えばノーコメントだ。
「ということで、そこそこ王国上層部のいう事を聞き、ワーン兄上と違って帝国と結婚できる血筋で、ツー姉上と違って政略結婚に理解を示し、スリー兄上のように変態ではなく、ファイーブのように爆弾を持っていない私が選ばれたわけです。」
つまり消去法である。
「フォー様だけが売れ残ったと。」
一番初めに結婚するのに売れ残りとはこれ如何に。いや否定はしないけども。
というか私にすら劣る物件て、王国本当に終わってるわね。
私はこれでも、史上最低のデキの王族とか言われてたのに。
最低の下はまだまだいたということね。




