シェードとフォー
クリックリのおメメに、にこにこと輝かしい笑顔。小麦のように美しい金髪に、陶器のように滑らかなお肌。そして静穏な蒼色の瞳。
間違いない。フォー王子だ。
まさかこんな角を曲がった瞬間に見つかるとは。調子乗って使用人のコスプレなんかしなきゃ良かった。この服隠密に向いてなさすぎ。
そしてジーと私を見ているフォー様。どうすればいい?
「あなた、だぁれ?」
「お初にお目にかかりますフォー様。私は最近入った使用人です。」
「しよーにん?」
「はい。」
「すりー!!しよーにんだって!!」
ちょっと!?人を呼ばないでくれます!?
一応こっそり来ているんですから!!
「どうしたんだいフォー?」
フォー王子が呼んで来た人物はフォー様と同じく金髪に、色の濃い紺色の目。確か…スリー王子だっけ。
そのスリー王子の手を掴みながら、明るい笑顔でフォー王子は声を発する。
「このひと、さいきんのしよーにんだって。」
「ふーん。最近の使用人ねぇ。教えてくれてありがとう、フォー。」
そう呟き、目を細めるスリー王子。
なんだ、優しいお兄‥なんだ!?ぞくり、と寒気がする。冷や汗もバンバン出てくる!?なんで影長に見られている時みたいな身体反応が起きている!?
警戒度を跳ね上げながら、私は不慣れな新人のように礼をする。
「お、お初にお目にかかります王子。以後お見知りおきを。」
「・‥‥。」
「‥‥お、王子?」
王子の許可が出ていないから、顔を上げれない。だから王子の顔は見えない。けれど分かる。この王子、今絶対悪魔みたいな表情してる!!
「ふぅ~~~ん??この時期の使用人かぁ。」
「どーしたのすりー?」
「何でもないさ、フォー。さて、使用人さん。確かシェードとか言ったっけ。」
「え、ええ。‥‥!?」
なぜ私の名前を!?え!?私言ってないよね!?
「あれ違った?」
「…はい、その通りでございます。よく覚えておいでで。」
「そうだね~。いや、俺は君の上司の我儘に良く付き合わされてさ。ちょっとだけそういうのに詳しいんだ。」
「そう、でございますか。」
…よかった。
私に上司などいない。どうやら彼は私を誰かと勘違いしていらっしゃるようだ。このまま誤魔化そう。
「あの若作り得意のロリババアとショタジジイどもには本当に振り回されててさ。君もそうなのかな?」
違ってなかったー!!バッチリ分かっていらっしゃった!!確かに影長は私の上司だけれど!いや長を上司というかは知りませんけれども!
「それで、君はアレかな?フォーを見に来たのかな?」
「ふぉーを?なんで?」
この状況でこてんと首をかしげるフォー様マジ天使。そうだよ、子供はこういう存在だよ!目の前の蛇とか悪魔とかを煮詰めた様な存在じゃない!!
そんなことを思っていた私が悪かったのだろうか。スリー王子はにこやかな笑顔とともに爆弾をぶっこんだ。
「それはね、フォーと友達になりたいっていう人がいたからだよ。この人はその子を連れてきたんだって?」
え?誰それ?
「そうなの!?だれ!だれ!?」
フォー様はこれ以上無い程にキッラキラに目を輝かせていらっしゃる。でもそんなのいないよ…。
「髪は金色で~、目もフォーと同じ青色で~、フォーと同じく5歳の女の子さ」
「‥‥まさか。」
「それでこの使用人さんと同じ名前でシェードっていうんだ。」
「しぇーどちゃん!!」
きゃっきゃと無邪気に笑うフォー様の頭を撫でながら、スリー様は私の目を覗き込む。
「じゃあシェードさん。そのシェードちゃんを呼んできてくれるかな??‥‥『究極の若作り』を使ってね。」
此奴!!!私に今から5歳になれと言っている!!
「・‥‥その。」
断ろうと口を開いた刹那。ふふふっと、眼を細めて笑いながらスリー様は私の口を手で塞ぐ。
「…呼んでくれるよね?」
「委細承知いたしました。」
「うんうん、有難う。俺は貴女とはいい友達になれそうな気がするよ。」
私はこの数秒でこの王子のことが嫌いになったよ。
急いで角を曲がり、髪色を落して、カラコンを外して。『究極の若作り』を掛けて。衣装を変えて。そして急いで戻る。この間ほんの3分。自己ベスト記録更新だ。
「ぜぇ…ぜぇ。お初にお目にかかります、はぁ…はぁ。フォー様。先ほど‥‥ぜぇ。シェードに呼ばれて来た…はぁ、はぁ。シェードです。」
「しぇーどちゃん!よろしくね!!」
「シェードとお呼びくださいフォー様。」
「わかった!しぇーどだね!!いきぎれしてるけどだいじょうぶ?」
くぅ…可愛いなぁ。それに比べて兄のなんて憎たらしいことか。
「このシェードはね、将来フォーの部下になるんだよ。」
「そうなの!?」
スリー王子の言葉に期待に満ちた瞳で私を見てくるフォー様。
「…はい。」
「やった!!」
つまり逃げるなよとおっしゃているわけだ。逃げる気は元から無かったけれど、退路は完全になくなりましたね!はは!!
「じゃあ、フォーはゆっくりお話してなよ。俺はこの後寄る場所があるから。」
そう言って鼻歌を歌いながらスリー王子は歩いて行ってしまわれた。
その後スリー王子が戻ってくるまでフォー様に癒されて。そして戻ってきたスリー王子に精神削られて。そんな風に将来フォー様に仕える期待と喜びと、そして嫌な虫を知りながら私は探検から帰還した。
影長の元に戻ると、彼等は既に知っていたらしく。素っ気ない口調で私の探検の成果を尋ねてきた。
「どうだった?」
「可愛かったです。」
「スリーは?」
「大っ嫌いです。」
「うんうん、あいつは相変わらず嫌われているね。いいことだ。」
影長にも嫌われるてどんだけ。。。
いや、いいことだけどさ。




