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シェードとフォーの大冒険まで

周りが10歳の中、一人だけ16歳の私も授業を受けるという極めて不可思議な教育を受けてはや一年。


成長阻害魔術を影長に掛けられて以降私の体は16歳のまま。こうして永遠の16歳は完成したのである。全女性の夢がこんな後ろ暗い組織で叶うとは。この夢の罪深さを体現しているようですねぇ。


冗談はさておき。


私は一年で卵を卒業した。


いや、冗談。今のは盛った。


正確には3年。季節が3巡てから卒業した。


「想定以上だね。齢を取っていれば努力する方向性を自分で定める思考力と意志がある。これを舐めていたよ。」


「誉めているのですよね?」


「勿論。」


私の目の前にいるショタは私をノリノリで改造したクソ爺。この体が無ければ訓練を耐えれなかった筈だから感謝はしている。



「でも辛い手術だったから好きにはなれ…て私は何を!?」


「影長には隠し事ができないように卵には自動でプログラムされてるんだよ。脳内の言語中枢とか色々弄ってね。」


「何してくれてるんですか!?」


「いいからいいから。それにしても、そんなことをまだ根に持つとはね~。時短した事に感謝とかしてくれないの?」


「何故そう思う事ができるのです?」


滅茶苦茶痛かったし吐き気もしたし幻覚もしたしで辛かったのですけど。


「10歳の卵の中、一人だけ24歳で学校に通うという恥辱を味いたかった?」


「時短してくれて有難うございました!!」


その発想は無かった。そんな状況恥ずかしすぎる。確かに二年にしてくれてよかったかもしれない。


「いやでも麻酔をしてくれては良かったのでは?」


「それじゃあつまらないじゃないか。」


こいつ!?そのつまらないて何なの!?


「‥‥やっぱり嫌いです。さようなら。」


回れ右して一刻も早く部屋から出ようとすると、笑い声と共に引き留められる。


「ははは。まあそう言わずに。用件だけでも聞いていってよ。」


そう。訓練と言う名の拷問を耐え卵を卒業しようとする本日、影長に呼ばれたのだ。嫌な予感しかしない。


「‥‥で、その用件てなんですか?」


仕方なく話を聞こうとすると、影長はにやりと笑いながら私を見る。


「この国にさ、王子様がいるの知っている?」


「馬鹿にされていないのであれば、ワーン王子、ツー王子、スリー王子、そしてフォー王子ですよね。」


確かフォー王子は最近3歳になったのですっけ。これぐらい常識だ。そんな私の常識的返答を聞き、人外爺はにやりと笑う。


「そうそう。それでさ、ちょっと提案…いや、命令なんだけど。」


「嫌な予感しかしないのですけど。」


「いいから。君、フォー王子の付き人になってくれない?」


‥‥は?何言ってんだこいつ?


「付き人というと、あの影武者と側近と護衛を兼ねるというあの?」


「そうそれ。それに君は子守りも兼ねてもらうかなって。」


「なぜ私なのです?」


確かに私は子供をあやすのが上手いが、聞けば影武者という付き人は優秀な影から選ばれるはず。こちらは卵を卒業したばかり。二重の意味でひよっこ。なぜ私が選ばれる?


私の疑問は想定済みだったのか、迷う様子もなく影長は答える。


「君の魔術だよ。」


「‥‥ああ。」


納得。私が開発した新術式のことか。


16歳という齢で、10歳の子供が通う学園に通う私は、とても恥ずかしかった。いやだってさ、先生もショタロリ、生徒もショタロリ。私だけ16歳だ。幼児園に参加している気分がして居心地が悪いったらありゃしない。


だから私は思ったのだ。『周りが幼いのなら、自分が若返ればいいのだ』と。逆転の発想という訳。


そして私は、齢が遡る魔術を手に入れたのだ。テッテレー。


「何回聞いても謎な発想だよね。」


「そうですか?極めて自然な発想だと思いますけど。」


「言っとくけどアレに近い効果を持つ魔術は影長しか持っていないからね?」


「でもそちらのは完璧な若返りでしょう?」


「そりゃあまぁ。」


私のは変化と身体操作の応用。気持ち分は若返っているだろうけど、体の機能自体は年のまま。外形年齢だけが若々しいだけ。だからこそ私はこの魔術を『究極の若作り』と呼んでいる。


「猛烈にダサいけどその名前でいいの?」


「ええ。術者の強い想いがこもっていますから。」


「‥‥そう。」


『究極の若作り』は外見を任意の年齢時に変更させる魔術。私の執念が籠っているこの魔術だが、それを使って王子と同年齢になれと。正しく究極の若作り。


「君は自分の外見を自由自在に操れる。だからフォー王子と同じ年齢になれるよね?」


「ええ、まあ。試したことは無いので断言はできないですが、理論上は外見年齢をそこまで変えることはできる筈です。ただ、100歳の自分や5歳の自分にはなれますが、突然イケメンや美女にはなれません。それには変装が必要ですよ。」


つまり、『フォー王子と同年代の少女』にはなれるが『フォー王子のそっくりさん』にはなれない。そこを履き違えられると困る。あくまでメインは自分の年齢の変化のみ。それだけが変わるのだ。


「‥‥ということなので、余程の理由が無い限り従来のように『変化』の使い手を用いた方が良いかと。影武者をこなせるとは到底思えません。」


あまり私の魔術に高望みされても困るのだ。けれど影長は私の言葉にニンマリと笑って返事する。


「うん、そうか。でもそれで十分だよ。成長抑制だけじゃなくてその魔術でどれだけ誤魔化せるのか知りたいからさ。」


なぜそのようなことを。まるで私の魔術の性能試験みたいなことをする必要なんてないでしょ‥‥あ。


「えと、従来の影武者とは異なり、将来的に影武者は成長抑制だけではなく『究極の若返り』を使うという認識で宜しいですか?」


確かに成長抑制一辺倒だとバランス悪いけど…。『究極の若作り』もそこまで使い勝手がいいものじゃないんだけど。


そう思って影長を見ると、私の不安を和らげるように両手を叩いて口を開く。


「それで合ってるよ。ただ、ミックスして使うかもしれないけれどね。」


「なるほど。。。。でそれがどれだけ使い勝手が良いか実験体として頑張ってこいよと。」


「理解が早くて助かるよ。」


助かるよじゃねえよ爺。


「つくづく私の人生はモルモットですね。まぁいいですけど。」


「じゃあ?」


「その命、了解致しました。ていうか拒否権無いですよね?」


「まあね。」


このクソ爺…。



「よし。じゃあ折角だし、これから任務を一つこなしてもらおうか。」


「え?」


「整形しよっか?」


「ん??」


整形?何言ってるんだこの人?


「化粧やカツラである程度似せてるとはいえ。骨格、目の色、声色、髪色や舌の形や歯の数まで変えられないでしょ?」


「でもそれは『変化』で。」


「それが通用しない時でも?儀式時は看破の魔術がずっと張られているよ?」


「う。。。」


「大丈夫大丈夫。今回は麻酔アリだから。」


大丈夫じゃないけど!?私の顔なんですけど!?

…まぁ仕方ない。受け入れる方向に思考を切り替えよう。


「‥‥‥フォー様に似せると言っても、どれほど似せるのですか?そっくりなら普段の使用人でいる時は不自然じゃありませんか?」


「髪の毛を違う色に染めて、長髪にして、ちょっと齢を取らせて、カラコンして、普段とは違う声を出して貰うから大丈夫。染料は水で洗い落ちるタイプね。」


それなら確かに『ちょっとフォー様に似ている使用人がいるナ』ぐらいで収まる。収まるけど…。


「つまり、私の金髪をフォー様の茶色になるように組み替えて、そこから染料で金色に染め直すと?」


「そうだよ?」


そうだよじゃねーよ。やるますよ?やりますけど‥‥影長て本当に影の事玩具にしか思ってないですよね。


爺が私の顔を開き、カチャカチャと弄っている間に細々と質問していく。


「私の名前て何になるのですか?」


「シェード、だね。」


へぇ…。


「そういえば顔合わせの齢ていつでしたけ?」


「7歳。」


「あと3年も先ですか?」


なのにもう整形か。気が早いな。

私の気持ちを汲み取ったのか、メスで私を指さしながら爺は口を開く。



「逆だよ。君が3年必要なの。改造した体がちゃんと馴染むのかどうか、王族のテーブルマナー、貴族関係。本当は10歳までに済ます教育を、君は受けていないでしょ?その平民臭い言動も消えてないし。」


サラっと発せられた田舎者という侮辱はともかく。二倍速で授業をするよと言われたことに驚きを禁じ得ない。10年分を3年。できますかねぇ。。。


「因みに、他の王子に影はついているのですか?」



「勿論。ワーン王子にはインが付いている。」


「あの『変化(へんげ)』で有名な変態さんですね。」


確か猫に変化しているのだとか。戻れなくなったらどうするのだろうか。


「それでスリー王子にはシャドーウが付いている。」


ふーん。知らねえ奴ですね‥‥ん??


「あれ、ツー王子はついていないのですか?」


「ああ。賢者が自分で守るから問題ないてさ。」


「でも賢者が影武者になれますか?無理でしょ鏡見て下さいよ。」


言っちゃあ悪いがあの爺がツー様の影武者なんて不可能だ。


「そう言ったけどねぇ。。。あまり暗部に頼りたく無いんだと」


「まあ、王国の恥の部分ですしね。」


「言い返せないけど、今は僕の細指で君の頭を好きに弄れるてこと考えてから喋ってね。」


「ごめんなさいです。」


怖い。でも言い返せてないじゃないかですかよ。


そうして30分ほど話をしていたら、私の顔を閉じて縫合する音がした。


「はい終わった。」


「ありがとうございます?」


感謝の言葉を影長に送るが、何か釈然としない。任務の為に体を弄って、弄った相手に感謝か…?


私の納得がいかないありがとうに苦笑しながら影長は手を振る。


「今日はもうオフだよ。今更ながら君は卵を卒業。今から影として励みなさい。」


「は!!」


ピシっと敬礼して影長を見る。すると「そういうのうちやってないから」と言われた。



オフだと言われた私だが、特段することはない。これは私が趣味が無い人間だからというわけはなくて‥‥いやどうだな。趣味は子供をあやして世話を見ることでしたし。


…ふむ。暇だ。



「王宮探索するか。」


顔合わせの時期は後4年後。

けれどまあ、どんな相手かこそっと見るぐらいならいいだろう。



いざ、王宮へ。


秘密の通路から王宮の廊下に出て、意気揚々と私は角を曲がる。


「あなた、だぁれ?」


見つかった!!!


私の冒険が、3秒で終わった!!

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