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シェードちゃんのお話

「は、はははは。寒…。」


暗い夜空の下。まだ風が冷たい春の始めの季節。



私の名前は、******。14歳の女の子だ。



私の家は、不思議なお家。父と母が経営する孤児院で、その実子である私は孤児院のお手伝い。孤児院の子供たちも私の家族。妹、弟、兄、姉。


今の私の家には、色々な家族がいる。


そして、いつの間にか消えてしまう兄妹がいる。


昨晩も二人消えてしまった。だからいつものように父と母に消えてしまった家族の事を尋ねていたっけ。


「ねえ父さん、母さん。トーイとヒューズが消えちゃったわ。」


と。こんな風に。こう聞くと両親は決まって答えたものだ。


「何度も言っているでしょう?里親が見つかったのよ。」


「私達に挨拶もせずに?」


「ええ。急な都合で行かなければならなかったんですって。」


と、言う風に。


その言葉を聞くと、毎度毎度嘘吐けと思ったね。


私は子供達が大好きだった。母も子供達が大好きだった。当然父も。だから孤児院という場所は私にとっては天国で、私達にとっては天国だ。


けれど子供は見ていない様で案外見ていて。そして子供である私も例外ではなくて。


私は既に知っていたし、知っていたけれど見て見ぬ振りをしていた。


子供達も薄々分かっていたのだろう。自分達が商品であることを。


今思えば商品ですら感づいてしまう程、組織の悪事はバレていた。いや、バレかけていた、かな。市民は知らなかったけれど、捜査陣は分かっていたよう。


まぁだからなんだという話で。それで私や商品の子供達にできることなんてない。そんなことでどうこうできる程甘い組織でも無いしね。


だからきっと。目の前の惨状を防ぐことは叶わなかったのだろう。


「たすけてぇぇぇ!!おにいちゃーー!!!」


「ひぃっ!!に、逃げろ!!」


「護衛はどうした!!!あんなに高い金払ったのにどこ行った!!?」


「うえーん、うえーん、パパ―!!!ママー!!」


「さっき首だけごぱぁ。。。」


「ボスが部屋で死んでいる!!」


「きゃああああああ!!!」



私の家は半壊。組員も、組織の子供達も皆死体になっている。

何故?とかどうして?という溢れ出る感情とは裏腹に、何故かストンと、腑に落ちた。


組織は、そうある運命だったのだ。



「ふぅー。これで一段落かな。逃げそうな奴は全員処分したし。子供もいらない分は処分したし。残りはどうしよっか。素体が足りないって言っていた奴いるっけな。」


騎士隊とも互角に戦えると豪語していた組織は、たった一人の少女に壊滅された。私より小さい、幼い少女。でも私が見てきたどの子供よりも恐ろしい。


可愛らしくて、けれど悍ましい。そんな死神のような子供に、気づけば私は口を開いていた。


「あの。。。質問いいですか?」


「うん?いいよ、どうしたの?」


「何故、子供達まで殺したのですか?」


気付けば質問していた。何をしても勝てない。それが分かっているからこそ、何をしてもいいのやと開き直っていた。


そんな風に現状の自分を分析しながらも、私はその少女の答えを待っていた。


「あらま。そんなに不思議?」


「ええ。かなり。」


私の言葉を聞いてジーと、私の目を覗き見てきた少女は、肩をすくめながら質問に答える。


「うーんとね。『ウルフェイク』、つまりこの組織は貴族とは関り無いんだけど、それをある貴族が関わっているて濡れ衣を着せたいの。そいつはさ、ある罪で立件したいけど巧妙に証拠を隠していてね。なら罪を作ろうぜって話。今回はバレそうになったその貴族が口封じの為、処分したていう偽の罪を作る…て言っても難しいかな?」


ああ、とても難しい。十分の一も理解できない。けれど簡単なことは分かる。


「つまり大人の都合ってことですね。」


「そういうことよ!物分かり良いわね貴女!」


それはそうだ。そうすることで私は生きてきたからのだから。


「物心つかない赤子はどうするので?」


「うーん、卵として育てるわね。あ、卵が何かとかは聞かないでね。そういうつまらない説明質問に答える気は無いの。」


決してつまらなくはないと思うのだが、彼女に主導権がある以上質問は断念。別の質問を尋ねることにする。


「私はどうなるのですか?」


「まあ処分するわね。」


「そう、ですか。。。。」


処分。言うまでも無く殺処分のことだ。


母は人でなし、父も人でなし。孤児院のパトロンも人でなし。そしてその人でなしの子供である私は、産まれた時から人でなし。そしてその後の人生もお世辞にも善良とは言えない。


人並みの善行は積んできた覚えはあるが、如何せん積んだ悪行の業が深すぎる。


散々人でなしの人生を歩んできた私。人並みに死ねるとは思ってない。


まぁ人でなしの末路にしてはこんなものだろ…


…て納得できるか!!


私は人でなし。だからこそ。私は手を汚すことを厭わない。


「お願いします!殺さないでください!!」


コンマ数秒で土下座を披露。少女も思わずお目目まん丸だ。


「ふぇぇ??ここで命乞いする??」


「勿論です!!ていうか殺されるか命乞いなら私は速攻で命乞いを選ぶ派の人間ですし、大多数の人間はそうだと思います!!」


「私、貴方の大切な家を壊して家族を殺した仇だよ?」


「関係無しです!!だから助けて下さい!!!」


どんな相手にだろうと命乞いすることを厭わない。例えそれが、愛する兄妹・家族を殺した奴だとしても!!


「いやだよ~。私にそれをする理由がないじゃない。」


「正論は辞めてくださいよ!!だからこうして懇願しているのです!!」



この人の性格は享楽的。譲れない物以外には頓着しない性質。組織にもいた。こういう相手にも接したことがある。だからこそ、チャンスはある!!


「私は組織の一員でありません!だから性根は腐ってな…普通です!」


「うん、言い直したのは好感度が高いよね。」


よし!


「子供全般の世話が得意です!これが役に立つかどうか知りません!もし貴女様に子供が…いるわけないのですがそういう御用の時は役に立てます!」


「私一応あなたより年上だよ?」


「え、そうなんですか?」


いや嘘でしょ。その肌のハリや成長度合いで私より年上なわけないでしょ。それなら凄い訓練受けた幼女て言われた方が説得力あるよ。


「でも肉体年齢は私より上だけど。」


「物凄い若作りですね」


「ふん!」


「痛い!?」


拳から頭まで5mぐらい距離あったのに痛い!?エア拳骨でダメージ通るとか初めてみた!?


「‥‥あのね、別に私だって生かしてあげられるなら生かしたいよ。」


白々しい顔で溜息を吐く彼女だが、絶対嘘だ。鼻歌謡いながら兄妹を殺していた人間がそんなタマか。組織にいた狂人と言動がそっくりなんだよ。


でも言ったら殴られそうなので神妙に頷いておく。それに気をよくしたのかにこやかに笑いながら彼女は私へと声を掛ける。


「でもさ、その場合卵として訓練に参加してもらうしかない訳。でも何も弄ってない貴女じゃ耐えられない。無駄なことはしたくないのよ。」


「…今から弄ってもらうっていうのは?」


「激痛が伴うわよ?」


「可能なんですね?」


私の言葉に目を見開く彼女。そして考え込みながら口を開く。


「勿論よ。でも、激痛が伴うわ。」


「死なないのですよね?」


「パニック発作で死ななければ。」


「なら大丈夫です。というか麻酔とかじゃ駄目なんですか?」


「それじゃ、つまらないじゃないの。」


「・・・・・。」


説得する人を間違えたかな、と思った。言ってること支離滅裂じゃん、とも思った。でも他の人は皆この御方に処分されてしまったのでこの人を説得するしかない。


性質の悪い詐欺師の掲げる選択肢みたいだ。


でも生き残りの糸口は見えてきた。


「‥実験として、どうです?」


「実験?」


「その手術…のようなものは今まで赤子にしてきたのですよね?」


「そうよ。そうでなければ耐えられないもの。」


同じような商売をしているからこそ分かる。価値観も樹立されていない赤子のうちからじっくりと改造…ていうことだろう。本当に屑だなこの人達。


が、その屑が私の命を握っているのだ。倫理観は一旦捨てて、私は少女を見る。


「その手術、成人まであと一歩手前であるこの私が耐えられるのかどうか。そのデータを取って見たくはないですか?」


私の言葉を聞いて考え込む少女。この反応は見たことある。


「‥‥確かに欲しいわね。」


よし!!!


赤子は耐えれる。その事実からこの人達は赤子にしか手術をしてこなかったのだろう。他の年齢はあくまで散発的。十分なデータじゃ無い筈。


「なら試してみてください。どうせ今まで試してきた人間は粗悪な死刑囚を無理矢理とかでしょう?私は健康で、かつ自分の意志で臨床試験を受けます。今までにないデータサンプルです。」


「…うーん、そうだね。」


「そして元々殺すつもりだったので、失敗してもゼロリスクです。元手もかかってない。手術費ぐらいですかね?でもそれはデータが取れるお釣りにはなりませんか?」


「なるね。」


断言するなよ。けれどよしよし。気持ちは傾いてきている。


「…では?」


「よし!それでいこう!!貴女を実験台として今は生かす!」


手を叩きながら満面の笑みを浮かべる彼女を見て、私は内心でガッツポーズする。一先ず生き残る為の第一目標クリア。


「あ、そういえば貴女、子供の世話好き?」


「好き、ではありますね。でも好き以上に技術はあると思いますよ。」


父と母からの歪んだ愛情、とでも言うべきか。彼等のスキルを私は受け継いでいる。そんじょそこらの母親父親よりも子供に愛される自信があるし、上手に育てられるだろう。


それにしてもなんでそんなことを・・・は!?


「・・・ご懐妊おめでとうございます。」


「ふん!!」


「痛!?なんで当たってない拳骨が痛いのですか!?」


「空気を叩いているからよ。」


意味不明。


無茶苦茶な理論で叩かれて涙目の私を見ながら、少女は私を見て口を開く。


「話を戻すわ。もし、貴女が手術に耐えれて訓練にも耐えれたらちょっと子育て兼影武者兼側近兼護衛を50年ほど頼むわね。」


「ちょっと待って下さい、情報量が多いです。」


「大丈夫大丈夫。」



大丈夫て返事なに!?



この後、10年ぐらいかけてやる手術を影長がテンションハイになって2年でこなした。想像以上に辛い手術だったけど、何とか耐えた。影長もデータを取れてホクホク顔。


でも私を連れてきたロリババアは許さん。10年かければ良かったのになぜ2年にした?そしてその横でノリノリで手術を決行したショタジジイも絶対に許さん。



こうして私は、影の中で史上初。


16歳で卵デビューをこなしたのです。





めちゃくちゃ恥ずかしい。



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