第17話 決闘好きな奴ているよね
遅い。余りにも遅すぎる。
爺様は私より遥かに強い。そして私は、ワーンに模擬戦で負けたことが無い。
爺様が愚兄を打ちのめすには数分も掛からない筈。
一体、何が起こっている??
そろりそろりと、忍び足で庭園に戻る。
「な。。。!?」
庭園に戻ってみれば、鼻にむせる血の匂い。
見れば、ワーンが足を刃で切り裂いていくところだった。
「‥‥ワーン。」
誰の。。脚なのか。虚ろな目をした爺様を見てなお、私はそう思ってしまう。
「どうしたそんな憔悴した顔をして?何か嫌なことでもあったのか?」
「‥‥それは?」
「うむ?どれのことだ?ああ、これは脚だぞ。」
ワーンはそう言って先ほど切り取ったミンチの塊を見せる。
「‥‥なぜ、そんな惨い事を?」
きょとんとした顔のワーン。
「惨い事など私はしていないから、お前の問いには何も答えられないぞ?だが今の私の行動の原因としては徹夜連勤の憂さ晴らしだな。」
「そんな理由で?」
「質問の意図が分からないな。」
しらばっくれるワーンに、私はいら立ちを隠せない。
「何故殺したんだ!!殺す必要などなかっただろう!!ましてや、こんな惨い真似をっっ!!そんな理由でっ!!!」
人の命を何だと思っている。。。。!!
「だから質問の意図が分からない。これは王族には保証された権利だぞ?必要かどうかなんて関係ない。それが私には許されるかどうかだ。」
呆然としてしまう。人を殺して。その肉体を死後弄んで。それが八つ当たりだと?それが許されるだと?本気で、そう思っているのか?
シャラン!!
気付けば、体が動いていた。
金属同士が擦れ合う、独特の心地よい音がする。
振り向き、抜き去った私の愛剣を見つめるワーン。
「…正気か?」
「そうだ。私は剣を抜く。この意味が兄上には分かるだろう?」
決闘だ。悪を挫く、正義を執行する。
「来い!この武闘場でお前を叩ききってやる!!」
「ふむ。私には理由が無いのだがね。」
ひらひらと手をかざすワーンを見て、自分でも頭に血が上るのが分かる。冷静になるべきだと理性が訴える。だが無理だ!!ここで怒らない方がどうかしている!!
「逃げるのか!臆したのか!?」
「剣を持ち万全の魔力量の相手に、丸腰かつ消耗した体で闘えと?寧ろ何故戦う必要があるのか教えて欲しいぐらいだ。」
その、剣を!!お前は何に使った!!
王国の宝剣を!!お前は人殺しの道具に使ったのだぞ!!死者を弄ぶ外法の道具にしたのだぞ!
「だまれ!!お前が今している行為に比べれば、「なんてな!!」…な!?クソ!!!」
不意打ちだと!!人としての矜持までも捨てたか!!
「ざまぁぁ!!!!」
大声を発するワーンを見ながら、私は慌てて距離を取る。肩を斬られたのは痛いが、それでも愛剣は離さなかった。利は未だこちらにある!!
次の手を打たんとするワーンよりも先に、串刺しぬすべく刺突を連ねる。
「何故、こんなことをしたんだ!!爺を殺さずに、逮捕すれば良かっただろう!!」
「おいおい、フォーの言葉を覚えてないのかねこの愚妹!!王家の権威付けだよ!!」
白刃を発射する聖銀を魔術で防ぐ。赤く、熱く。紅蓮の炎で押しのける。
「だからって殺す必要は無かっただろう!争う必要は無かった筈だ!!」
「今、私に切りかかっている人間が言うセリフでは無いな!」
キンキンと、金属がぶつかりあい、火花が散る。実戦的とは言い難い、王宮の上品な剣術を模した軌道。こんな温い攻撃に爺様が殺されただと!?ありえない!!こいつはどんな卑怯な手を使ったのだ!!
「そもそも、お前は何故私に突っかかる!!私の何が気に入らない!」
「‥‥何が気に入らないだと!?本気で言っているのかこの愚妹!!」
「王族らしくないからか!?それだけの理由じゃないだろうこの愚兄!!!」
「‥‥。」
ずっと気にかかっていた。私を目の敵にするこいつは何なんだと。
「スリーは悪意の塊だ!!だから私はアイツが嫌いだ!そしてワーン!!お前は嫉妬と傲慢の塊だ!!」
「‥‥うるさい。」
悪が正義を憎む以外の理由が、こいつにはある様な気がした。
だが、だからと言って。。。
「お前はそれを、何故私とファイーブに向ける!薄汚い貴族にそれを向けないお前は!なぜ家族である私に向ける!!!」
「‥‥黙れ。」
「答えろワーン!!お前が私達を嫌う理由は何なのだ!!」
「黙れと言っている!!!」
「『熱波』!!」
「『寒波』!!」
互いの魔術がぶつかり合い、温度の急変により気流が生じる。
轟轟と突風が巻き起こり、植物はしなりながらも耐えている。
「私は、愛してたんだ!!お前によって壊された世界を!!」
縦横無尽に襲い掛かる白銀の刃を放ちながら、愚兄は吼える。
「全てが私の思うがままだった!!全てだ!!全てが私の望むままだった!!」
空気に淀みを感じるから、熱風で押しのける。
「4歳、4歳までだ!!誰もが私を讃えた!誰もが私を敬った!!何も怖くなかった!誰もが私の味方だったからだ!未だに覚えている。あの時まで私は王子だった!!たった一人の!王の息子だった!次の、王になる筈だった!」
そう言って地面を深く踏み込むワーン。
好機!!
剣を捨てる。炎を両腕に凝縮させ、愚かなる賊を爆撃せんと紅く輝く。
喰らえ!!
「『爆破!』」
「『ミュート』」。
私の攻撃が周囲の聖銀を吹き飛ばしたものの、軽い火傷しか負っていないワーン。
チッ、途中で魔術の威力が下がった。先の魔術で小賢しくも守ったか。
しかしもうワーンの武具は無い。次で終わらせようと私は火炎を喚ばんと…でない??
「な!?魔術が!?」
先ほどの結界は、魔力無効化!?
そんな高度な魔術を愚兄が使える訳…!?
ドゴッ!!!




