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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
アイアムユアシスター
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第16話 敵に塩を送る

数日後。


私は、地下牢を訪れた。


「‥‥釈放だ。」


「なに?」


怪訝そうな顔で私を見てくる愚兄を無視して、私は話を進める。


「お前の無罪が分かった。」


「‥‥そうか。」


怪訝そうな顔から驚愕した顔に変わったワーン。普段からはかけ離れたその表情。この顔が見れただけでも良かったと思うべきかな。


「ついてこい。」


「?」


「お前を連れていかないといけないところがある。」



私は愚兄を背に、すたすたと歩いていく。


地下牢から地上に登り、二階から白く長い通路を渡り、また階段を昇り、そして奥の部屋へ。


出てきたのは庭園訓練所。



温室と訓練所を兼ねた場所で、植物に囲まれた狭い闘技場がある。庭闘場と呼ばれる闘技場は、直径20mの円形。


そしてその中心で、魔術を展開している魔術師が一人。


「ほっほほ。何故犯罪者がこんなところを出歩いておる?」


爺様だ。


「爺様、お久しぶりです。」


「おう、先週ぶりじゃのうツー。それでどうしたんじゃ?そんな犯罪者を引き連れて。」


「‥‥。」


「ツー?」


怪訝そうな顔で再度尋ねる爺様に、私は答える。


「兄上は犯人ではございませんでした。」


「ふむ?」


「実行犯は抵抗組織(レジスタンス)でした。」


「???」


私の回りくどい言い方に、疑問符を頭に載せる賢者様。それを無視して私は続ける。


「今回の一連の事件で、貴族殺害を行ったのは抵抗組織(レジスタンス)でした。これに関しては本人達から自供してもらいました。」


「しかし、そやつの目撃証言はどうしたんじゃ?」


確かにワーンを見たという人間は多い。しかしその件に関しても忌々しいことに解決済み。


「目撃者含め、現場付近にいた人間は全員抵抗組織(レジスタンス)の一員です。つまりこの愚兄は嵌められただけで、真犯人は抵抗組織(レジスタンス)です。」


目撃情報が不自然なほどワーンに集まっていた理由はこれだ。


「ほほ。それはそれは。」


「でも貴方も犯人だった。」


「ほ?」


私の言葉に目を丸める爺様。

もう、後には引けない。覚悟を決めろ私。


「数日前。抵抗組織(レジスタンス)は私に接触してきました。所謂勧誘というものです。」


「‥‥それで?」


突然の話題の転換に驚いたのか、手が止まる爺様。けれども、聴く姿勢は崩さない。


「無論断りました。が、その時彼等は言っていました『我々には心強い味方が付いている』と。」


「‥‥。」


「『その人は王国の中枢に位置しており、騎士団長に命令できる立場にある。』と言っていました。」


「我が王国でそれが許されている人物は限られている。」


ナイトンの話では、余程の上位貴族でなければ騎士団に命令できないらしい。上位貴族とは、王族である私達、準王族である爺様。そして議会。


「そこから考えました。今回の事件で得をするのは誰か。愚兄に刑が執行されれば、私達ファイーブ派閥は敵対者を排除出来て得をします。」


悪しきワーン派閥。それが排除できる。これ以上ない幸運だ。


「一方で愚兄ワーンの無罪が分かったとしても、現段階でワーンへの心象は悪いです。ワーンが貴族を殺したという噂が流れ、皆それを信じているからです。」


道中で散々好奇心と嫌悪感の眼差しを受けていた愚兄。彼の支持率は過去最低になっているはずだ。


「一度生まれた悪印象を拭うのは難しい。そして、抵抗組織(レジスタンス)に遅れを取った、愚兄(ワーン)を次期国王にしていいものなのか、疑問視する声も一定数できました。」


ここまでの利がある。これが分かってしまえば、後は容疑者など簡単に割り出せる。


「ここでも利を得るのは我らがファイーブ派閥です。つまり、今回の一連の事件で我らファイーブ派閥は得しかしていません。」


淡々と、私は結論を告げる。

疑念はあった。


偽ロウロウの水晶結果と、昨晩見つけた証拠がそれを確信に変えてしまった。


「ところで話がまたもや変わりますが、これは『真言の水晶』と言って嘘を付くと赤く濁ります。」


懐から取り出した水晶は、透明な色をしている。ワーンと爺様がそれを見ている横で、私は慣れた手つきで手を添える。


「例えば、、、『私は男だ』。」


途端、水晶から無機質な音が響いたかと思うと、血のように赤さび色の染まった。


「このように、嘘を吐けば一目で分かるようになっております。」


「‥‥」


「もう、分かりますよね。」


私は、爺様を見る。

しっかりと、青琥珀色の目を見据えて。


「お願いします爺様。ただ一言。たった一言でいいのです。どうか、これの前で『第一王子ワーンを冤罪に陥れていない。』と言って貰えませんか?」


沈黙が、流れた。

爺様は、返事をしなかった。


「‥‥。」


「爺様、お願いです。これに手をかざすだけです。一言述べるだけでいいのです。お願いできませんか?」


もし、これで色が変わらなければ、爺様は犯人ではなくなる。


分かっている。昨晩見つけた魔力痕も。偽ロウロウの証言も。状況証拠も。爺様を決して逃さない。けれど私はまだ信じたい。もしかしたら爺様は関与してないのだって。


そしたら私は全力で爺様を弁護する。


だから爺様。どうか。どうか‥‥。


「‥‥。」


「爺様!!」


私の怒号を聞いても尚、爺様は喋らない。

頼むよ爺様。そんな態度を取られたら。。。。。犯人だって認めているようなものじゃないか。


「‥‥愚妹よ。出ていけ。」


溜息と共に口火を切ったのは愚兄。


「しかし!!」


「‥‥いいから、出ていけ。」


出来の悪い子供を見るような目で私を見てくる愚兄。だが私だって引くつもりはない。


「貴方にそんなことをする権利はない!」


「あるぞ。これは王位継承順位1位である私の権限と、貴族令第6条、第11条。それと王国裁憲5条4項。17条8項によって保障された権利だ。王族もしくはそれに連なるものへの謀反人の処遇は、全て対象となる王族が決められる。」


かつてフォーがエナンチオマー侯爵を拷問したのと同じ法。父王ですら、ファイーブですら退けることが出来なかった言い分。そしてこれを言うという事は。。。



つまり。。。爺様を殺すつもりなのだ。


「…確かに法律上ではそうなるが。。。!」


「三度目だ。外に出て、待っていろ。」


憐れな。復讐に囚われ、できもしないことを試みるというのか。。。。

爺様はお前とは格が違うのだぞ?


「‥‥少しだけだからな。」


しかし、本人が決めたこと。私が口を出すことは出来ない。幾ら爺様でも殺しはしないだろう。




この時の私は思いもしなった。


なぜ、従ってしまったのだろうか。


そんな後悔に襲われるとは。


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