第13話 水晶尋問
二日後、呼び出したスリーに資料を渡された。
「はい姉上。」
「これは?」
「現在の王国貴族に恨みがあって、かつ武具を急速に買い集めている阿呆貴族。かつ金欠な貧乏貴族、かつ抵抗組織の一員とお話しした貴族ですよ姉上!!」
「‥‥そうか。」
このスリーは王国の次男。私の弟。
騎士団が把握しているだけで何人もの人間を死に追いやり。また何十という人間の人生を破滅に導き。そして何百という人間を借金苦に嵌めた外道。
性格も所業も誰よりも最低最悪だが、仕事はできる。そう思って先日呼び出したのだが、もう既に調べてあげたとは。
「こういうのでいいのかツー?」
「はい母上。」
そしてスリーは、母上を連れてきていた。気になって私は尋ねてみた。
「…なぜ母上がここに?」
「第二王妃様は国内の情勢や貴族間の柵、付き合いや交友関係に至るまでばっちり把握しているからね!!手伝って貰ったよ!!」
「本当なら市場の値段とかからその土地の貴族が戦闘の準備をしているか推測。その戦闘が武装蜂起なのか、正当な武装なのかチェックして、そこから…と色々するのだけれど、ここまで露骨な阿呆がいるならこっちの方が良いでしょう。」
「そのような人間が抵抗組織に参加していると?」
渡された書類をめくりながら私は内容に目を通る。なんだこれ。滅茶苦茶いるじゃないか。
私の言葉を聞いて、嬉しそうな顔で口を開くスリー。
「そうだね。金欠になったのは王宮のせいなんだって。自分達の領内政策が失敗したのも王宮のせい。汚職がバレて自分の職がトンだのも王宮のせい。彼女に振られたのも、不作なのも、ダイエットに失敗するのも。全てが王宮のせいなんだってさ。」
「なんだそれは‥‥。」
自分でも驚く程呆れた声が出る。
そんな私の見て無邪気な子供のように笑い合いながら、両手を広げてスリーは声を挙げる。
「素敵だよねこの考え!!人間、まだまだ捨てたものじゃないって思えるよ!!」
「どこがだ‥‥。」
頭が痛い。やはりこんな奴に頼むべきでは無かったか。。。額を抑えながらそう思っていると、スリーは続きを話す。
「話を戻すけど。こういう意見は抵抗組織好みでしょ。誘いに乗ってすーぐ抵抗組織と仲良しこよしさ。抵抗組織にしても武器を調達する伝手として重宝しているみたいだし。」
「成程。。。。」
だから貴族を受け入れるという方針になったのか。
「ま、使うだけ使ったら用済みでポイッなんだろうけどね。」
「‥‥そうだろうな。」
互いにそう思いながら手を組んでいる様子が目に浮かぶ。なんともまあ、浅はかな。そんな存在が跋扈しているとは、考えるだけでも悍ましい。
悪夢のような現実に身震いしていると、母上が椅子に座りながら私に話しかける。
「それで協力していた貴族は後で一網打尽にするとして。実行犯についてはツーが調べていた事件の犯人だっていう人達が自首してきた。」
「自首?」
あれだけ巧妙な犯罪をしておいて今更自首だと?
するとスリーが私の疑問を解消するように口を開いていく。
「そうだよ~。正確に言うならば、そのうちの一人は一昨日捕まえた人間だから自首じゃないけどね。侵入したところを捕らえたばっかりで、取り調べも全く進んでいなくて。挙句容疑も全然認めなくてさ、姉上も取り調べに参加する?」
「無論。」
「…今どき無論とか言う人いるんだね。」
愚弟の言葉を無視して取調室に入ると、一人の男が座らされていた。
スリーの言葉を信じるなら確か…ヒィ公爵殺しの実行犯の一人。スリーによるとこいつ以外は全員が自首してきていて、この男だけが王宮にいたところを確保されたのだっけか。
男の向いに座りながら、私は取り調べを開始する。
「取り調べを担当するツーと、スリーだ。」
「これはこれは。先日ぶりとでもいうべきですかな。」
「いや昨日ぶりだな、ロウロウ殿。」
ヒィ公爵の執事長ロウロウ。まさかこいつが抵抗組織だったとは。それにこの声は間違いない。昨日私を勧誘してきたやつだ。
それにしても。私を勧誘した後捕まっていたという事なのか。あんな余裕綽綽で王宮に潜入していたのに。王宮の警備も馬鹿にしたものでは無いな。いや潜入されている時点で駄目か。
「初めて顔を会わせて三週間か。まさかこういう仲になるとは思わなかったよ。」
「あら、社交辞令として挨拶しただけですが、まさか本当に覚えておいでで。普通の貴族なら平民如きの顔など直ぐに忘れるものですがね。ましてや第二王子や第三王子ともなれば、自分以外は覚えていないものだと。」
「舐めるな。私はそんな風に人を評価しない。」
ワーンや王国にはびこるゴミのような貴族とは違ってな。
しかしそんな事を口に出しても意味がないので、私は隣に控えているスリーに声を掛ける。
「スリー。」
「はいはい。自首してきた彼の仲間の一人を調べたところ、殺された日に働いていた人間の殆どが抵抗組織です。目撃情報に『ワーン第一王子が訪ねてきた』というのは嘘っぱちで、皆で仲良く口裏を合わせていただけです。」
「で、それを他の自首してきた人間は認めたのか?」
「はい。全員が一連の犯行を全部認めました。貴族が憎くて。新しい秩序の為に~ですって。」
「じゃあ何で自首してきたんだ?」
新しい秩序をこれから作るというのに。これじゃあ牢の中で見れないだろうに。
「罪悪感がぁ~~~、心を抉った~~~んですって。ふふ、イイ話ですね。」
「そんな訳ないだろう!!!あいつらに何をした!!」
突如大声で叫ぶロウロウ。彼の顔は憤怒で真っ赤に染まっている。
「アイツ等は自首する前にお前に呼び出されていた!!帰ってきたら廃人のようになっていて!!そして翌日には全員が自首しただと!?」
眼に涙を浮かべるロウロウ。案外仲間想いなようだな。
「言え!!お前は一体彼等に何をした!!!」
「いや~ん、そんな大声で文句言わないでよ。神様に誓って俺は真実を言っているよ。」
「…確かお前が連れてきた連中が自首したんだよな?」
なら私もロウロウの意見に同意だ。スリーなら目を覆ってしまうような拷問を平気で行うからな。脅して自首と自白を強いたと言われても不思議ではない。
「…姉上、もしかして俺が酷いことしたと思っている?」
「思わないとでも?」
「でも外傷はないよ。再度言うけど、神に誓って俺は脅してなんかいないよ。本当だよ。神に誓うよ。」
濁り切った目で十字をきるスリー。十字の切り方を間違えているし白々しいことこの上ないが、確かに自首してきた人間に外傷は無かった。
だが、無事というわけではなく。皆虚ろな目でブツブツと呟いていたのだ。でもスリーがやったという証拠はない。
スリーもそれを分かっているからこの態度。本当に性質が悪い。
これ以上問い詰めても無駄なので、私は仕切り直すように彼に向き合う。
「済まないが、ロウロウ。今から取り調べを始める。」
「‥‥いいですが、私は仲間も売りませんし意味が無いと思いますよ。」
にこやかな笑顔で私を見るロウロウ。その顔には確かな誇りが窺える。生半可な尋問では吐きそうにない。恐らく自首を引き出すのはかなり難しいだろう。
昨日、ボスナイト様から頂いたコレが無ければ、だが。
「…悪いが最短で終わらせなければいけなくてな。これを使わせてもらう。」
「これは?」
「これは『真言の水晶』と言ってな。嘘を付くと赤く濁る。」
最近騎士団で入荷して嘘発見魔道具らしい。
「例えば、、、『私は男だ』。」
ビー!!
途端、水晶から無機質な音が響き、血のような赤さび色に染まる。
「こうなる。」
「・・・・。」
「さて、ロウロウ。ここに手を置き、『私は一連の事件に関与していない』と言って貰おうか。」
「勿論、私は一連の事件に関与していません。」
ビー!!
「ワーンが訪ねてきたというのは嘘か?」
「いいえ、本当ですよ。」
ビー!!!
表情からは全く真意が分からないのに、水晶は残酷な程真実を明らかにする。
こうしてロウロウ殿の尋問は、あっけない程早く終了した。




