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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
アイアムユアシスター
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第7話 兄とは違うレベルのマザコン

私は数年ほど前は寮にいた。しかし今は、王宮に部屋を持っている。


かつて。王宮から出て騎士になった頃。当時の私は見習いや下級騎士であった時は焔寮という騎士寮にて宿泊していたのだ。が、騎士隊長になると王宮に戻らされることになった。


本当は騎士寮に居たかったのだが…。しかし騎士隊長ともあろう人間が下級騎士と同じ建物にいることは許されない、とのことで王宮に。規律と階級を示す為、だったけか。そんな理由だった筈だ。


そうして王宮に自室を再度持つことになった私。そうなってから私には、一つ新しい変化が起きた。


燦燦と眩い証明の下で、食事を摂る私。目の前には一人の女性。その女性は美しいテーブルマナーでケーキを切り取り、口に運ぶ。


「‥‥このケーキ美味しいね。」


「そうですか。」


「ツーは食べないのか?」


‥‥ああ、この人は本当に私のことを見ていなかったのだな。


「そういう甘いものは得意ではありません。」


「そうだっけか?幼い頃はよく食べていた気がするのだが。」


…いつの話をしているというのだろうか。


「『焔寮』に入寮して体作りメインの食事を摂っていくうちに、甘味などは受け付けなくなったのです。」


「あらそう。」


それは、この女性と定期的に食事を取ることになったこと。


目の前に座るはその女性は艶やかな漆黒の髪に、冷静沈着性格を表す様な翠の瞳。この国では珍しく上背で引き締まった体に、凛々しい顔つき。


王国の第二王妃。


私の母だ。


「でも貴族間の付き合いで茶会とかあるから、嫌いな物でも『食べる練習』はしておきなさい。」


「しかし、嫌いなものを食すのはあまり」


「ツーが王族である以上、そう言った付き合いは避けられないと思うけどな。」


窘めるように言う母上。その言葉に私はウンザリしてしまう。何度も言っているのに未だに認めて貰えないものだ。


「またその話ですか。私は王族を辞めたといっているではありませんか。」


「王族は辞められるものでは無いし、その身分はツー個人で決められるものでは無い。王霊議会で決定されるものだよ。」


「でも。。。」


私は母が苦手だ。嫌いではない。ただ王国公爵令嬢に生まれたからか、母は昔ながらのステレオタイプな貴族論を信じている。それが私には耐えられない。


貴族だから騎士にはなれない。貴族だから学園に通え。王族だから国の政務を担え。王子だから婚約しろ。王子だから式典に参加しろ。


母のいう言葉は全部『貴族だから』『王族だから』。『私の意思』が一切含まれていない。身分で行動を縛り付けて『義務』でしか私を見ないのだ。


私と母の共通点と言えばこの口調のみ。もっと他の所が似れば良かったのに、と思わずにはいられない。


そんな暗い事を思いながら、私は言葉を吐く。


「‥‥私の身分は、私の身分です。個人のものをどうして議会によって決められなくちゃならないのですか?」


「ツーの身分は、ツーの身分ではなく王国のものだからだよ。そしてそれを王族であるツーの独断で決められないのは、そうした独断によって独裁者が生まれるから。歴史学で習っただろう?」


…マズイ。この話題はマズイ。


「い、今は今です。昔と違います。そんな昔のことを言われても。。。」


しどろもどろに答えると、何かに勘づいたかのように母上は目を開く。


「もしかして‥‥。」


「な、なんですか?」


「まだ歴史学を修得してないの!?学園では何をしていたの!?」


母上が驚きと怒りをごちゃ混ぜにしたような顔で私を見る。その勢いに思わずたじろいでしまう私。


「た、鍛錬を。良い騎士になるために‥‥。」


「鍛錬!?学園は学び場だよ!?」


「し、しかし!!勉学など騎士には必要ありません!!」


「でも今使っているじゃないか!!今の私の言葉が全て嘘っぱちだったとしてもツーには判断できなかったということになるんだぞ!!」


「う。。。。」


そう言われると反論できない。反論できないけれど!!やっぱり勉強は嫌だ!!


「さっきの独裁者うんぬんの話だって、2000年の歴史で見つけた話だ!!2000年の中で共通しておきている事柄が、現在だけ例外なわけないだろう??」


「む。。。」


「む、じゃない!!」


幼子を窘めるような言い方で私を叱る母上。私は母のこういう所も苦手だ。いつまでも私を子ども扱いする。


「そして今の私の言葉をツーは正しいか判断する根拠すらないということだぞ!!隊を率いる人間がそうでどうする!!」


「しかし人は変われます。昔に囚われるわけには。。。」


自分でも何言っているか分からない言い訳だが、それがかえって母上に火を点けてしまったらしい。手元から書類をパラパラと取り出し、私に突きつける。


「ちょうどいい機会だ!!お前にはお見合いに出席してもらうよ!!」


「でも私は結婚なんてしませんよ!!」


「そんなこと今更期待してない!!」


断言!?ちょっとひどくないか!?


「お見合いにおけるマナーや、相手の家の思惑。話の進め方や相手自身はどういう相手を望んでいるのか。そういったことを学ぶいい機会だ!!」


「しかし」


「騎士隊長である以上、こういう付き合いは不可避だからな!必要ないとは言わせないぞ!」


「今日は、私の相談に乗るという約束です!!」


だからもう勘弁してくれ!!

しかし、私の言葉に母上は首を傾げる。


「そんな約束をいつした?」


「え?」


「…口約束が守られることは無いということだけ覚えておけ。」


まさか守らないと言外に言っているのか?本気か?


「まぁ、私はツーの母として、娘相手にそんな恥ずかしい真似はしないがな。けれどこれが貴族の常套手段だ。覚えて置け。」


「・‥‥はい。」


「それで、相談とはなんだ?」


…良かった。

それにしてもそうか。口約束は守られない、か。覚えておこう。


ともかく、本題にうつろう。私はこの為に苦手な母上と話をしにきたのだ。


「‥‥実は、一連の殺人事件についてです。」


「ああ、ワーン第一王子が犯人として捕まった。」


「そうです。それについて迷っている点があって。」


「ほう??」


「自分でいうのもなんですが。。。その。。こう、妙な胸騒ぎがするというか。事件が解決したとは思えないのです。」


「ワーン第一王子が犯人では無いと?」


「いえ、そこまでは思っていません。しかし、ワーンだけでは無い、という感覚でしょうか。何か大きな思い違いをしているように思えて仕方が無いのです。」


「‥‥ふむ。」


私の話を聞きながら、先ほどの書類をペラペラと捲り直す母上。話を聞いているのかいないのか、私には分からない。


「私のヤマ勘ということだけを根拠に、部下を巻き込むことはできません。そこで母上に相談を、というわけでして。。」


ナイトンは巻き込んだけどな。あいつはレイナさんの任務でサボった分色々働いてもらうつもりだ。


「まぁ、そこまで分かっているのならいいんじゃない。」


「え?」


ぼそりと母上が呟くが、残念ながら聞こえなかった。もう一度問い返そうと母上を見れば、彼女は紅茶を片手に書類を見ている。


「こっちの話だ。ツーが思っている違和感というのは、矛盾を無視しているからじゃないか?」


「矛盾を、無視??」


依然として興味なさげに話を聞いていた母上だが、きちんと聞いていたらしい。面倒臭そうな口調であるが、私の勘が聞き逃すなと言っている。


「ええ。ワーン第一王子を見たという証言だけを重視するあまり、他の点が疎かになっていることを無意識的に察知したからだろう。その動物的な勘で。」


「…例えばどんな?」


動物的な勘、という発言に一言申し上げたいがそれよりも気になるのは矛盾点だ。一体どんな見落としを私はしているというのだ?


「そうだな。一番分かり易いので言えば『ワーン第一王子が雇ったとされる下手人は?』『なぜワーン第一王子が犯行現場にいたのか?』『凶器を何故、3週間も保管していたのか?』、この3つだな。」


「‥‥あ。」


言われて気付く。確かに、それらは大きな矛盾だ。なぜ見落としたのか自分でも理解できないほどだ。



「一番矛盾に満ちているのは『なぜワーン第一王子が現場にいたのか?』だよな。下手人を雇ったのならそいつに任せれば良かった。もし下手人とも契約なりなんなりで犯行現場に行かねばならなかったのなら、何故変装しなかったのか?一件や二件で目撃情報がでるのならともかく、全ての事件で目撃されるなんて変だろう?」


確かに。ワーンが現場に出る必要なんて一切無いし、役に立てるとも思えない。


「何故でしょうか。」


「それを調べるのはお前の仕事だ。」


「そう、ですね。」


「ああ、あと相談するようになっただけでも進歩だが、他の人にも相談しておけよ。同じ騎士隊の人間とかにな。」


なるほど。ためになる。


騎士団に励む私を見てあまりいい顔をしない母上だが、やはり頼りにはなるのだ。


「有難うございました。」


「ああ、お見合いの詳しい事は後で書類に認めてまた渡す。」


チッ。忘れてなかったのか。



仕方ない。またバックレよう。

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