第6話 事件解決
急いで現場に向かった私は、ナイトンと合流して屋敷に入る。
「被害者は?」
「ヨウ侯爵です。」
ヨウ侯爵と言えば確か‥‥、ワーンの古い友人だ。またか。またアイツは友人を殺したのか。
「犯行の種類は?」
「今度の犯行はB。屋敷内で喉をばっさり。遺体には残痕無しです。」
いい加減証言以外の有力な証拠が欲しいところだな。
そう思いながら屋敷の使用人に話を聞く。その中では今までと同じようにワーンが訪ねてきたという声が。
「やはりか。。。」
「あの。。。」
目に涙を浮かべながら訴えてくれたメイド。名前をメイと言うらしい。王族を告発するなんて怖かっただろうに。
「ああ、分かっている。メイ、貴女が証言したということは第三者には絶対知らせない。無論この屋敷の他の使用人にもだ。」
「有難うございます。。。!!もし、私が言っただなんてことがバレたら、お貴族サマだけじゃなくて使用人全員から虐められてしまいます。。。。!!」
私の言葉を聞いてメイは、安堵の表情を浮かべながら礼を言う。その様子に少し違和感を覚えた私は、メイに問いかける。
「…誰も、貴女を庇ってくれないのか?」
「そんな。。王子に不都合な事を言うのですよ?庇ってくれる人なんているわけないじゃないですか。」
騎士の質問に素直に答えた。それだけだというのにそんな酷い所業がまかり通るだなんて。この国は本当に腐っている。
「‥‥すまないメイ。愚問だった。」
「いえ、騎士様のせいではありませんから。悪いのは貴族の娘として産まれなかった私です。」
「そんなことは無い!!」
自分でも驚くほどの声が出てしまった。メイも私の声に若干怯えている。けれど、それだけは。その言葉だけは私は許せなかった。
私はメイの肩をしっかりと掴んで話しかける。
「いいか、メイ。貴女がそう言う気持ちは分かる。非常に残念なことだが、そう貴女が感じてしまうような王国の現状も事実だ。それだけの格差が、身分というものが生み出している。使用人と貴族というものの間に、メイが思うだけ差があるのは事実だ。」
「‥‥。」
「けれどメイは。当事者である貴女はそのようなことを言わないでくれ。」
「‥‥だって。…だって。」
メイが縋るように私を見る。理不尽を堪えるように私の袖を強く握りながら、その目には涙が浮かぶ。
「分かっている。分かっているよ。でも、貴女の事なんだ。貴女が、理不尽な目に遭っているんだ。貴女が、貴女自身を軽んじるような事は言わないでおくれよ。」
「‥‥。」
「すまない。メイの心境も碌に知らず出過ぎた真似を。」
自身の軽率な行いに思わず我に返る。
メイの苦労を私は知らない。なのにまるで知っていると言わんばかりの私の態度。これを傲慢と言わず何という。穴があったら入りたい気分だ。
しかしメイは、そんな私をみながらはにかんでこういった。
「‥‥いいえ。ありがとう騎士様。そういって貰えるだけでも、私は心が救われましたよ。」
「メイ‥‥。この程度の事しか言えなくて、済まない。」
「ふふふ。その言葉で私は救われたというのに、ですか。」
「‥‥。」
「私はそろそろ仕事に戻りますね。では、騎士様。本当に有難うございました。」
そう言って仕事に戻るメイを見ながら、私は思わず壁に拳をぶつける。ナイトン含め、周囲の部下は私を気遣っているのか見て見ぬ振り。その気遣いに甘えながら私は全力で怒りをぶつける。
「クソッ!!」
ここまで身分の問題が根深いとは。何もできない自分が恥ずかしい!!
このような状況を生みながらも、のうのうと暮らしているワーンが、憎くて溜まらない!!!
憎しみと怒りを抱きながら、私はあの証言をしてくれたメイをどうやって守るべきか考えていると、机の中を探していたナイトンが声を挙げる。
「ツー様!!これを見てください!」
慌てて向かうと、彼の手には一枚の手紙が。彼が広げたその手紙の内容に目を通す。
「な、これは。。。。」
それは、ヨウ侯爵の遺書だった。
・・・・・・
・・・
・
「こういう終わり方になるとはな。」
「ヨウ侯爵には感謝ですな。」
「ああ、彼は確かに許されないことをした。けれど大義を貫いたのだ。」
ヨウ侯爵の遺書には自らが11人を殺したこと、そしてその罪悪感に耐えられなかったこと。それで最後に、第一王子ワーンに指示されたということが記されていた。そして被害者の血がべっとりついたナイフを11本。
これらの有力な証拠と証言を提出し、ワーンを連行することが出来た。ワーンも幾らか反抗したようだが、ここで爺様の援護が効いた。ワーンが大人しく連行されるとは思ってなかったが、爺様が裁判所に上手くやっておいてくれたらしい。
爺様には本当に感謝だな。
それにしてもワーンもざまあない。部下に裏切られるとは。所詮はお前がその程度の人望だったということだ。
「あれじゃあヨウ侯爵が今までの殺人を犯したのは明白。その犯人からの遺書だ。そして賢者様の発言。あの裁判所も重い腰をやっとあげたようだ。」
「11人死んでやっとですか。あそこは、人命を何だと思っているのかね。」
「動かしただけマシでしょ。去年の事件なんか無視だったじゃないですか。」
「あれは酷かったな。」
「はいはい、その話はもう終わりだ。」
両手で手を鳴らし、私は部下の注意を惹く。折角事件が解決したというのに、またしんみりした空気に戻してどうする。
私の汲み取ったようにナイトンが明るい声で告げる。
「折角事件が終わったんだから、打ち上げいくぞ!!」
「まだお昼ですよ?」
「もうお昼だ!!」
「「「いやいやいや!?」」」
ナイトンの声に皆笑う。
「言い出しっぺのナイトンは行くのか?」
「いくわけないだろう!?お前らとの打ち上げなんかよりレイナとのご飯の方が百倍大切だ。」
おい。皆の期待を悪い意味で裏切らない副官は、私を見て尋ねる。
「ツー様はこの後打ち上げにいきませんので?」
「ああ、この後は私もデートなんだ。」
「なんでそんな虚しい嘘を吐くのですか?」
こいつ失礼だな!?恋人とのデートでは無いけども!!
超絶失礼な質問をしたナイトンには、後でレイナさんに色々告げ口するとして。同じような目で見てくる部下に対して私は声を張り上げる。
「見てろよお前ら!私だって恋人の一人や二人、余裕で作ってやる!!」
「二人も作ったらただの下種ですよ。」
「うるさいな!?」
こういったしょうもない会話は好きだ。
特にこの後気が重い用事があるときは。




