第2話 姉を尊敬する
私の名前はフォー王子。他国では第二王女と呼ばれる身分。しかしここ王国では第四王子という名称でよばれている。兄上ワーンや姉上ツーのように鳥肌が立つような恥ずかしい通り名は無いが、無名という程ではない。。。筈。多分。
「聴いているのかフォー?」
そう、目の前のツー姉上のような『姫騎士』なんていう寒い名前は私には無い。
・・・あったら全力で握り潰してやろう。うん、兄上のような我儘が許されるのなら私のも許されるはず。寧ろ許されない理由がないね。王も快諾してくれる。
姫騎士(笑)。
姫 騎士
どっちやねん。
「聴いているのかフォー?」
美しい容姿をした姉上は、目を細めて私を見る。その様は獅子のような威圧感があってちょっぴり怖いけど、本人にそんなつもりはないのは分かっている。
誤解されやすい美人な姉なのだ。私としては慣れたもの。
「聴いているのかと言っているんだフォー。」
いややっぱり怖いわね。言い方が悪いのよね、言い方が。これが駄目なの。心が大事なんていうけれど、大事なのはやっぱり言い方よ。
「勿論聞いておりますよ姉上。ワーン兄上ではなく、ファイーブを王に推すのでしょう?」
ほら、こういう丁寧な口調にすれば誰も怖がらない。
…そう思っているのに、姉上の顔には混乱した表情が浮かんでいる。
「あ、ああ。」
「私、きちんと聞いておりましてよ。」
「…なんなんだその口調は。」
「昨日の絵本で見た、王妃様の口調ですわよ。」
「捨ててしまえそんな絵本。」
「なんてひどいことを言うのですわ姉上。」
人が大事に作った物を捨てるなんてありえないですわ。
・・・やべ、口調移った。
でも姉上はそんなこと一切気にしていないよう。流石姫騎士(笑)、クールだ。
「その本の題名を言え」
いや案外気にしてるなコイツ。
「題名は知りませんわ。」
「・・・・」
冗談だろうという目で私を見るが、誓って本当ですとも。
「名前は未だ思いついていないのですわ。姉上いい案浮かんだらくださいな。」
「自作なのか!?」
当然。王妃の口調をこんな阿呆丸出しにできるのなんて同じ王族だけですよ。いや、王子がやっても不味いな。バレない様にうまく隠さないと。
そして姉上は何故かショックを受けているよう。
「知らなかった。。。」
「実はわたくし、絵本作りが趣味なのです。」
「それも知らなかった。。。」
そう言って一人で遠くを見る姉上。そこ壁しかないのに何を見ているのやら。そう思って姉上を見ていると、急に笑いだしたぞ!?気でも触れたのか!?
「ふ、私は知らないことばかりだな。」
なんだ、カッコつけて黄昏ていただけか。絵本なんて今朝初めて作ったんだけど黙っておこう。
作った理由?嫌がらせに決まっているでしょう。ゴキブリを掴むような顔で死体掃除をしているシェードの顔の横で優雅に絵本作ってやったわ。
一通り自分の中で結論を出したのか、姉上はにこやかに笑って私を見る。それは同性の私ですら見惚れるような凛々しい笑顔。どうせこれからはもっと家族仲を深めようとか思っているのだろう。
「まあ、いい。本題に戻ろうか。」
笑顔のまま話を続ける姉上。
「兄上のことは父上から聞いているだろう?兄上の仕事が遅いせいで業務に差し障りが出ている。兄上のミスで王国が弱っていくなど言語道断。兄上しか子がいないのならまだしも、ファイーブのような聡い子が王国にはいる。父上だって賛同しているんだ。」
そして一拍開けて口を再度開く。
「ならあの子を王にするべきだと思わんか。」
それ今言う事?姉上から何百回も聞いてきましたんだけど。耳に胼胝たこができちゃう。それにしても今ファイーブは10歳だけど分かってます?
10歳の頃と言えば貴方は政治なんか知らん!て言って騎士団に行った時ですよ?それなのにその年の弟には王位に就けって言うんですか?
でも私は大人だからそんなことは言わなの。淑女の笑みでにっこり笑って受け流す。
「そういう捉え方もできますねえ。如何せん私は学が無いもので断言はできませんが、姉上のいう言葉に今のところ瑕疵は見当たらないかと。」
姉上の顔が罅が入ったか花瓶のようにピシリと歪んでいく。
『学が無い』という言葉に反応して、青く、赤く。怒りと屈辱、悔恨、劣等感という様々な感情が姉上の顔を彩り、同時に陰りを作る。そういう顔するなら単位をきちんと履修すれば良かったのに。私ですら頑張って取ったのに。
「あらどうしました姉上?なにか具合が悪いように見えますが。」
「い、いや何でもない。平気だ。」
一人百面相をこなした姉上は、明らかに平気じゃない顔でそう述べる。
なんでもない、ね。ワーン兄上の時に見せるあの勇ましい顔はどこにいったのやら。ワーン兄上以外にはこのような苦悶の表情を浮かべるとは彼も思わないでしょうね。ははは、無様な顔ですことよ。
めっちゃスカッとする。
・・・いけないいけない。
「それで?ワーン第一王子の即位に反対する理由は分かりましたが、ファイーブを推す理由はなんでしょう?今のところ聡いという理由しか言っていませんが。」
「今まで言ってきただろう!?」
自分の主張を軽視するような言葉を掛けられた後の姉上は怒るが、同時に腹芸に全く向かないポンコツちゃんになる。マジでちょろい。簡単に話を逸らせるから私は姉上のこと大好きです。
次点で好きなのはワーン兄上。我らが長女と長男は本当に可愛くて大好きだ。
おっと、姉上と話の途中だったわね。
私は口元を隠し、姉上の目を見る。
「…申し訳ありません。何せ忘れやすい性格なもので。もう一度無知な私に教えて頂けませんか?」
心の底から困った顔で姉上にねだると、驚いた顔をする姉上。そして頬を掻きながら苦笑しながら口を開く。いい人かよ。こういうとこがあるから姉上は憎めないのよね。
・・・・シェードは後ろで爆笑してるの分かっているからな?
「・・・聡いだけではなく、魔法の実力、総魔力量、剣の実力、気稟、全てが兄上を上回る。指導者としての器が兄上とは違うのだ!」
そして前回と一言一句同じ言葉を述べる姉上。
「ファイーブは王の為に生まれたようなものだ!本人は乗り気じゃないようだが、アイツを置いて他はいないと私は思っている!」
え、ファイーブは未だ了承していないの?王位継承戦舐めてるのかな。そんな奴を神輿に掲げて、そんなものに私は巻き込まれようとしてるの?絶対いやだわ。断固拒否する!
「まるで天が彼を愛しているかのように、ファイーブは困難を打ち破っていく!それは誰もが知っていること!」
ファイーブは確かに抜きんでた才能がある。同じ父親を持つのに性格、身体能力、知力、魔力の全てが王家随一を誇る。
神童と呼ぶに相応しい少年だ。
けれども彼は未だ10歳。あまりにも。。。精神が幼い。
幼いというのは、何も短絡的とか幼稚とかいうわけじゃない。あのコはただ、人の悪意への《《理解》》が無さすぎる。
努力してない奴が努力している人を妬み、憎み、蹴落とそうと躍起になる。実力を上げることには興味がないけれど、足を引っ張ることだけは抜け目ない。他者から賄賂を貰うことを当然のことと信じ込み、自らと違う意見を許せない。厳しい現実を認めず、甘言しか受け入れない。
こんな人間は決して少数じゃない。寧ろ世界はこんな感情を持つ人間で溢れている。
・・・溢れているは言い過ぎたかも。
まぁまぁな頻度で出会うってだけかな。
まぁ王宮内の人間の殆どはそういう人種なんだけれど。
<誰得設定>
姫騎士
named by king!
実の父に「姫騎士」なんて渾名付けられたら恥ずかしくて死んでしまうわ
by とある国の第四王子
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