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第16話 バトルは終わったぜ!

「どぐがぁ!??の゛ろ゛い!?なぜ!?なじぇだ!?ぞんな゛いじょぉ゛はながっだぞ!!」




「そうだな。」




ゆっくりと、バレないように濃度を上げたから気付かなかっただろう。大気中には中毒症状が出るほどの聖銀濃度になっていることに。




茹でガエル現象は人間にも適用されたわけだ。

まぁあれはあくまで環境変化に順応する事の重要性、困難性を指摘するための警句だから正しい用法かどうかは知らんが。


「ゲホゲボォ!?な゛、な゛ぜだ!?ナにがオギているゥ!?」


のたうち回る賢者。ふむ、憐れな奴め。




さて、先ほど述べたように聖銀には、「他波長不感作」という長ったらしくも面白い特徴を持つ。だが聖銀にはもっと面白い特徴がある。




「沸点が、低いのだよ。」




「カハ!?カカハハハハハ!?!?」




何を言っているのか理解できていないな顔。私の言葉が聞こえていないのかもしれない。腹痛や吐き気、下痢、そして白銀による気管血管の刺傷。‥‥話を聞ける方が可笑しいな。






でも。どうでもいい。これは只の独り言なのだから。






「水銀よりも沸点や融点が低いこの金属は、通常-5度で液体となり35度で気体となる。通常時に装飾品や武具に使われるあの丈夫で熱に強い聖銀は、鉛や銅との合金なのだよ。」




これらの金属と混ぜることで、銅よりも融点が高くなるのだから金属とは不思議なものだ。だが、先ほど述べた通り、純粋な聖銀は生暖かい湯舟の温度で気化する。




「純粋な聖銀は、その扱いと採取の難しさから5kgもあれば平民の半生は保証されるような値段で取引される。庶民は当然の事、貴族ですら滅多に手を出さない。こんな扱いにくい金属に使い道なんて無いしな。」




当然買った。この使い方を知って、金に糸目を付けずに買い漁った。なにせ私は王子。金は腐る程持っている。




そこからは纏って纏って私の魔力に馴染ませて。努力して努力して操作能力を磨いて。




無論簡単な話ではない。始めは苦労した。間違えて目に入りそうになったり、体温のせいで気化したり。スリーに魔道具をぼったくられ。だが時間ならたっぷりあった。失敗してもやり直せる環境と金は十分あった。




「10年もすれば、私だけが操作できる猛毒の完成だ。」






これが天下無双の『白銀』が一騎当千を誇る力の由縁。聖銀の刃である『白銀』で縦横無尽に敵を切り裂きながら、気化した聖銀である『銀気』の隠密刃で体を冒す。






努力で才能は伸びない。






才能は何にも代えられない唯一無二の存在だ。




しかし、実力は。結果は金と発想で保証できるのだ。




「このぼん人が!このげんじゃが凡じんごときに負げるわげゲホゲホ!!」



吼える賢者。きっと彼のプライドが敗北を許せないのだろう。そしてその通りだ。私は本当に凡人だ。成功より失敗の方が多い凡人だ。


炉端の石ころ。宝石にもなれぬし、大岩にもなれない。




「けれど知っていたか?ヒトはその小石で殴られても死ぬのだよ。」




「ゲボォ!!ゲゲボ!ガホガボォ!!?い”ダイ゛!!だ、だズゲデェ!!」




「痛いか?苦しいか?そうだろう。それもあるだろうよ。でも違うだろ?」




屈辱だろう?自分よりも弱くて、能が無いと思っていた人間に苦しめられることが。こんな人間に、こんなところで人生が終わるなんて耐えられないだろう。


「イダイ゛!!!モ゛ウ゛ヤべテグレェ!!!」



「貴方は、私を舐めていたんだ。私みたいな才能が無い人間なんてみる必要は無いってな。」



「ゴウザンダ!!ゴウザン゛ズルガラァ!!!」



「実際その通り。影長、ファイーブ、ツー。あれにくらべれば私なんて炉端の石だ。それが正しい認識だ。」




先ほどまでのたうち回っていた賢者の体もビクンビクンと痙攣していく。散々戦場で見てきた症状。持ってあと数分だろう。



「話の続きをしようか。」




「がはぁ!!」




私は賢者を踏みつけ、闘技場の端に腰掛ける。




「私はこの王国を愛していた。そして貴方達に私は認められたかった。」




尊敬していたからな。




「でも、そう思われた日は無かった。」




「‥‥ブァイーブ‥‥ブァイ゛ーブ‥‥」




「そう。貴方は口を開けばファイーブ、ファイーブ、ファイーブだ。」



こんな状況でさえも口を開けるのだから凄い執念だ。



「私は才能が無いから。私は弱いから。私は頭が悪いから。私は機転が利かないから。ずっとそう思っていた。」




私が愛されない理由は何なのだと。私の非は何なのだろうかと。




「でも違った。分かったんだ。私が劣っているのではない。アイツ等が飛びぬけて優れていたのだ。そして、だからこそお前たちはアイツ等を愛した。私を一切見ずに。」




優しくツーとファイーブを見守る父と、興味なさげに私に魔術を教える賢者の目。未だ脳裏にこびりついている。未だに夢に見る。




「私はそれを否定したかった。私の方が凄いのだと。私の方が王なのだと認めて欲しかった。努力して努力して、王らしく振舞った。物語のように堂々と、威厳に満ちた王を目指した。」




そうして()()になった。




でも駄目だった。当たり前だ。努力で才能は伸びない。努力でどうにもならないから人はそれを才能と呼ぶのだ。そして祝福された才を裏付けるように、二人に目を掛けられてツーはメキメキと頭角を現した。私よりも剣を握る時間が短い癖に、国有数の実力者となった。私より書物に掛ける時間が短い癖に、軍議での発言権が誰よりも大きくなった。






「どれだけ否定しても分かっていたさ。私は凡人だ。そしてアイツ等は、努力で越えられない先にいると。」




ずっと分かっていた。それでも尚走り続けた。




だってそんなの認めてしまったら、どうしようもないだろ?私の人生はどうなる?長年の努力の結果が、愛さえれないことの保証だなんて、認められると思うか?無理だ。そんなの私には耐えられなかった。




幼い頃からの憧れだから、私は父王と賢者を憎むことは出来なかった。だから、この王位継承戦の元凶である二人には何もしなかった。彼等が擁立するツーとファイーブを親の仇のように恨んだ。私は、あの二人に向けるべきだった憎しみまで、弟妹に向けたんだ。



情けない話だなんてことは分かっている。でも、どうしても憧れを憧れとしてしか見れなかった。



「でも、私だってもう齢だ。親離れする齢になった。」




もう、親に何かを望む年ではない。望まれる年だ。




「だからもう、いいんだ。」




俺が父王と賢者に敵意を向けられるかどうか。スリーやフォーが心配していたのはこのことだったのだろう。だが、もう大丈夫だ二人とも。




「自分にとって一番大切なものを間違えるなって。何をするにしてもそのために、それ以外を切り捨てる覚悟が必要だって。」




そういうことだよな、イン。




「そして私は、王国を愛している。その為に、幼き頃からのもう一つの夢を切り捨てる覚悟が、決まったよ。」




そして私は、白銀の刃を賢老の首に沿える。




「貴方は今後、私の道の邪魔になる。悪いが死んでくれ。」




‥‥‥と、言っても。




「死んではもう返事などできないか。」






さて。




「ミンチにするか。」




いざ徹夜連勤の恨み晴らさでおくべきか。








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