第14話 自分語り好きすぎない?
私は賢者を見る。彼は、自分が決して間違えていないと言わんばかりの顔で私を見ている。
「‥‥」
「‥‥。」
「同感だな。」
「なに?」
「全くもって、我が王国は度し難い程の愚国だ。」
「‥‥??」
私の真意を測りかねているのだろう。警戒するような目で私を見るが、本心だ。
「醜い嫉妬で平民を虐める貴族。気に入った女に声を掛ける勇気もなく無理矢理手籠めにする貴族。自分が世界の中心であるかのように振る舞い、失敗を受け入れられない貴族。。。。いやぁ、酷い国だな王国は。」
「‥‥。」
「まぁ、そんなの貴族に限らず平民にも腐る程いますがね。だからこそ、国は民が表すという風に王国は腐っていると言えましょう。」
本心だ。本心だからこそスラスラと言葉が口から滑り出す。
「‥‥何が言いたい。」
「‥‥幼い頃、王都へ出かけました。」
「‥‥?」
急激な話の転換に戸惑う賢者様。すみませんね口下手なもので。
「今思えば、影がついて安全の約束された冒険だったが、当時の俺からすれば、大冒険でしてね。感動したものです。」
「なにを言っている‥‥?」
怪訝な顔で私を見るが、構わない。
「酒を飲んで陽気に笑う男達。そんな男共を優しく見守る女たち。母に甘える子供と、微睡む老人。真剣な職人とその弟子、一銭に命を懸ける商人に、戦果を自慢しあう冒険者達。」
あそこは活気と熱と夢に溢れていた。
不幸だなんて言葉は似合わなくて、笑顔と温もりの空間だった。
「幼い頃、一度だけ王都の外へ出たことがあります。」
懐かしいな。今でも思い出せる。
許されたのは、外遊の際に父と母にねだったからだっけか。
「広い空。大声が行き交う市場。黄金に見間違う小麦畑と、甘い果実たち。土の独特な香りと笑いながら汗をかく民。肉が焼ける匂いと、それを運ぶ心地よい風。」
確かに農民は貧しかった。けれど、不幸でも無かった。
「それを治める父王を私は尊敬していた。それを補佐する賢者のような男になりたかった。」
だからこの国を治めたかった。この国を守りたかった。
「‥‥。」
私の狙いが何なのか、未だに測り損ねているのだろう。険しい表情を顔に滲ませながら、ただただ、私の言葉を聞いている賢者。
「…王国は本当に酷い国だ。貴族も屑ばっかりだ。」
フォーの性格は捻くれて、スリーのような屑でなければ国は運営できない。サーシャ様だって毎日のように命を狙われているし、母上含む父王の妻の性格だって一筋縄ではいかない御方ばかり。
「でも、そんな国でも綺麗な部分はあって。」
ヒィのように国を想い、フゥのように民衆に目を配る。スリーとフォーは国を思って一線を踏み外さないし、王妃様や宰相は毎日国をよりよくすべく働いている。
確かにこの国は腐っている。そう言わざるを得ない人間はいるものだ。でもこの国を想って動く人間だっているのだ。
「そんな国を誰もが愛せるようにするのが王族の仕事だ。それが。私達家族の仕事で責務だ。」
だから。それ故に。
「確かにツーやファイーブにとっては獣国のような完全実力社会の方が似合っているかもしれません。」
あそこなら暴力での勝者がルール。あの愚妹と愚弟ならサクッと王となりⅡ型純人もアイツらを崇拝するだろう。
もしくは魔力魔術至上主義のⅤ型純人である森の民エルフならあの二人の台詞に全員が従うだろう。
・・・・けどな。
「アイツ等は、私の家族です。王族なんです。」
「だから王族の責務から逃げることは、何があっても許されない。」
あの二人にどれだけの才能があろうと、それは国の為に尽くすべきである。例えそのせいで十全に生きていいけなくなるのだとしても、だ。そういう身分に、私達は産まれたのだから。
「‥‥そうか。」
賢者は私を見る。
何年ぶりだろうか、彼が私の目を見てくれたのは。私が彼の眼を見たのは。
「では死ね。」
そして私は、彼が氷よりも冷たい目をしていることに気付いたのだ。




