表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/200

第13話 け、けんじゃ~

「‥‥。」


再度賢者様を見るツー。両手で水晶を持ち、差し出すように前に向ける。その目は、信頼と懇願に満ちている。



「爺様、お願いです。これに手をかざすだけです。一言述べるだけでいいのです。お願いできませんか?」




「‥‥。」




「爺様!!」




ツーが怒鳴る。


賢者様は、未だ喋らない。




‥‥はぁ。




「‥‥愚妹よ。出ていけ。」



「・・・・なにを?」



「私が片をつける。」



「しかし!!」




「‥‥いいから、出ていけ。」


私は静かに、ゆっくりと言う。しかしそれでもツーは嫌なのか。

駄々を捏ねる娘のように声を張り上げ返す。



「貴方にそんなことをする権利はないはずだ!」


「あるぞ。これは王位継承順位1位である私の権限と、貴族令第6条、第11条。それと王国裁憲5条4項。17条8項によって保障された権利だ。」




かつてフォーがエナンチオマー侯爵を拷問したのと同じ法だな。あの日から法律の裏をかくというのはそういうものなのかと必死に覚えたっけ。


しかもあの法律の数々を繋ぎ合わせれば本当にフォーの言い分が通るようになっているから驚きだ。




「これらの法を総括して繋げると、『王族もしくはそれに連なるものへの謀反人の処遇は、全て対象となる王族が決められる』、だ。」



今回で言うその対象というのは被害者である私。




つまり賢者への処遇は私が決められる。




「確かに法律上ではそうなるが。。。!」




「三度目だ。外に出て、待っていろ。」




「‥‥少しだけだからな。」




‥‥まさか本当に言う事を聞くとは。想定外だわ。






それだけ誤認逮捕に引け目を感じているのだろうか。




渋々ではあるも外に出て行ったツーを後目に、私は賢者様を見る。


賢者様は私の行動が意外だったのか、当惑した様子だ。いや私よりもツーが言う事を聞く方が変だよな??



「何の真似だ?悪いがお前のような人間に構っている時間はないぞ?」



賢者様の問を無視するかのように、私は自分の意見を言う。



「‥‥なぜ、抵抗組織(レジスタンス)に手を貸したのですか?」




「はて?なんのことじゃ?」




「先ほどまでのだんまりでそれは無いでしょう。私は、抵抗組織(レジスタンス)如きが運営できる程王国は小くて優しい企業だとは思っていません。」




国は企業。ただし、その規模は段違い。



自分の家族で精一杯の平民が何とかできるものでは無い。


これはその用途の為に生まれた王族だからこそ務まる仕事。その為に教育を受けた王族だから務まる仕事。ノブレスオブリージュとはそういうものだ。


あのスリーもフォーも曲がりなりに王家単位を修得して、今も王族の責務である式典や書類仕事をこなしている。


百歩譲ってそれだけの能力がある平民がいるとしてもだ。


そんな人間は決して抵抗組織(レジスタンス)にはない。



「‥‥。」



「まただんまりですか。」




「‥‥‥。」




「ツーやファイーブがこんな方法を望んでいないことぐらい、分かっていたでしょうに。」




ピクリと眉を動かし、不快そうな顔。この言葉は賢者様には効いたようだ。そうだよな。孫のように可愛がっているツーとファイーブの名前を出されたら終われないよな。



「‥‥っ。」




「まぁ、ツーやファイーブの派閥を貶めるような行為をしてくれたことには感謝してますがね。」



可愛い才能の塊を、凡才が否定したら嫌な気分だよな。ツーとファイーブの名が出たら、意地でも言い返したくなるよな。




「…だまれ」




案の定、賢者は憤怒の形相で口を開く。おお、怖い怖い。




「‥‥お前は、王国が酷い国だとは思わないか?」




「はぁ。。。。」




急に口を開いたかと思えば何を当たり前のことを。そんなの自明だろうに。だからこそ我々が必死に駆けずり回っておるのだ。


「分からんか。。。」



「そうですねぇ。。」



「子供が当たり前のように売買され、それを咎める大人はいない。」




だからフォーが人身売買カルテルを調べ上げた。何日も何日も執念の捜査によって実体を突き止め、騎士団と近衛と憲兵の合同捜査網を派遣して徹底的に潰した。




「貧しいから、身分が足りないからと言った理由で簡単に人としての尊厳が踏みにじられる。」




だから貴族法を母上とスリーが整備し直した。民を甚振る無能を少しでも減らすべく、ルールに則った暴力にするべく法を作った。



「才能の無い貴族が有能であるかのように振る舞い、有能な平民が無能であることを強要される。」




だから私が特待制度を学園に直訴して取り入れさせた。今まで社交界にすらい居たことの無い平民が、貴族社会の一員となれるべく税金を使ってあらゆるサポートを準備した。




「知っていたか?始祖ハオは、平民の子だそうだ。お前らの言う青い血にも、平民の血が混じっている。」




だから、身分は親の身分のみに依存するという王律令の大原則が作られた。よく勘違いしているが、青い血は遺伝で作られているのではない。法律で定められているのだ。




しかしそのような社会の仕組みは賢者様にとっては些細なことのようだ。




「それを知っていて何故、平民の権利を阻害する?なぜ身分などという生れで制限する?」




「‥‥。」




「この王国は、ツーやファイーブのような人間が人生を費やしてでも守るべきような国かね?」




「‥‥。」




「こんな国は、一度リセットしてしまった方がいいと思わないかね?あの二人は、こんな国で飼い潰されなければならないなんて酷い話だと思わないか?」




「‥‥」




「お前のような、身分に守られた無能には分からないかもしれないがね。」




「‥‥」



ああ、そういうことか。




この人は、貴族の醜い部分だけを見て。


ツーやファイーブがその醜さに汚されてしまうことが。ツーやファイーブが十全に才能を発揮できなくなることを恐れているのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ