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第12話 妹が現れた!

スリーがナイトンとお話してから数日後。



愚妹が来た。



ナイトンについて何かバレたのか?


その件について嫌味でも言いに来たのかと身構えていたら、ツーが取り出したのは小さな鍵…鍵?


訝し気に私が見ていると、ツーは檻の鍵穴に鍵を差す。



「‥‥釈放だ。」


「なに?」


「だから、釈放だ。」



何を企んでいる?しかしツーが企みなどするとは…。

私が思案していると、嫌そうな顔でツーは小声で告げる。


「お前の無罪が分かった。」


「‥‥そうか。」


「だから釈放だ。」



これは、驚いた。いや、皮肉でも何でもなく本当に驚いた。今までのツーなら例えどんな正論を言われても私からの陰謀だと言い張っていたからだ。




どういう心境の変化だ?もしかして罠か?いや、今の時点で罠にかける為に釈放するなんてリスクの方が大きいような…。


しかもこいつの仕掛ける罠なんてたかがしれているし。。そういう油断を誘う罠か?



戸惑いながらも私はツーの言う通りに牢から出る。久々のシャバの空気は‥‥美味くもなんともないな。だってここまだ地下牢だもんな。




檻の内外で空気が変わったらそれはもう拷問だ。


「ついてこい。」



相変わらず私を視界に入れない様に立ち回りながら、ツーが私に言った。


「?」



「お前を連れていかないといけないところがある。」




私がこんな愚妹の言う通りにするのも癪だが、好奇心が優り、付いて行く。


それにしても可笑しい。皮肉も無い。当て擦りも八つ当たりも無い、言いがかりも無い。スリー曰くこの愚妹は抵抗組織(レジスタンス)の勧誘を受け、それを断った。


それから数日たって私を釈放?



まさか本当に私が無罪かどうか調べたのか?嘘だろ?あのツーが?


私の混乱を他所に、ツーはずかずかと歩いていく。




地下牢から地上に登り、二階から白く長い通路を渡り、また階段を昇り、そして奥の部屋へ。




出てきたのは庭園訓練所。


温室と訓練所を兼ねた場所で、植物に囲まれた狭い闘技場がある。




庭闘場と呼ばれる闘技場は、直径20mの円形をしている。


そしてその中心で、魔術を展開している魔術師が一人。




「ほっほほ。何故犯罪者がこんなところを出歩いておる?」




賢者様だ。




インが仕入れた情報によると、賢者は私が連行された途端、私の悪評を面白おかしく吹聴したようだ。お陰で、王宮内でも使用人に奇異と嫌悪の目で見られてしまった。




見てきた奴の顔は全員覚えたから後で揶揄ってやろう。




「爺様、お久しぶりです。」




「おう、先週ぶりじゃのうツー。それでどうしたんじゃ?そんな犯罪者を引き連れて。」




賢者様を爺と呼ぶことを許されているのは父王、愚妹ツー、愚弟ファイーブの三人のみ。それ以外は彼を『賢者様』と呼ぶ。無論私も含めて、だ。


その許されたツーは、賢者様に向かって声を掛ける。


「兄上は犯人ではございませんでした。」




「ふむ?」



面食らった表情でツーを見る賢者様。



「実行犯は抵抗組織(レジスタンス)でした。」




「???」




ツーの回りくどい言い方に、疑問符を頭に載せる賢者様。それを無視してツーは続ける。




「今回の一連の事件で、貴族殺害を行ったのは抵抗組織(レジスタンス)でした。これに関しては本人達から自供してもらいました。」




「しかし、そやつの目撃証言はどうしたんじゃ?」




「目撃者含め、現場付近にいた人間は全員抵抗組織(レジスタンス)の一員です。つまりこの愚兄は嵌められただけで、真犯人は抵抗組織(レジスタンス)です。」




愚妹の言葉に納得する。通りで、目撃情報が私に一致するわけだ。目撃者も、下手人も、その他諸々全員が抵抗組織(レジスタンス)。全員グルだったのな。賢者様が訪ねてきたことが報告になかったのもそういうことか。



こんな大掛かりな細工を良く思いついたものだ。

賢者様も驚いたのか、眼を見開いて声を掛ける。



「ほほ。それはそれは。」



「でも貴方も犯人だった。」



「ほ?」




「数日前。抵抗組織(レジスタンス)は私に接触してきました。所謂勧誘というものです。」



「‥‥それで?」




突然の話題の転換に驚きながらも、賢者様は聴く姿勢を崩さない。




「無論断りました。が、その時彼等は言っていました『我々には心強い味方が付いている』と。」




「‥‥。」




「『その人は王国の中枢に位置しており、騎士団長に命令できる立場にある。』と言っていました。」




「我が王国でそれが許されている人物は限られている。」




公爵の一部と、準王族と王族。あと議会だな。因みに賢者様は準王族だ。王族全員に何かあれば王の代わりに国を運営できる。



「そこから考えました。今回の事件で得をするのは誰か。愚兄ワーンに刑が執行されれば、私達ファイーブ派閥は敵対者を排除出来て得をします。」




…ああ、その通りだ。




「一方で愚兄の無罪が分かったとしても、現段階で愚兄への心象は悪いです。愚兄が貴族を殺したという噂が流れ、皆それを信じているからです。」




先ほどもじろじろと気持ち悪い視線を向けられたしな。

分かっていてやったのなら悪趣味極まりないと思っていたがそういう理由だったのか。



「一度生まれた悪印象を拭うのは難しい。そして、抵抗組織(レジスタンス)に遅れを取った愚兄ワーンを次期国王にしていいものなの。そういった疑問視する声も一定数でてきました。」




それはあるだろうな。もし私が敵対派閥ならそう言うし。




「ここでも利を得るのは我らがファイーブ派閥です。つまり、今回の一連の事件で我らファイーブ派閥は得しかしていません。」




淡々と、ツーは結論を告げる。




「ところで話がまたもや変わりますが、これは『真言の水晶』と言って嘘を付くと赤く濁ります。」




ゴソゴソと懐から取り出した水晶は、透明な色をしている。私と賢者様がそれを見ている横で、ツーは慣れた手つきで手を添える。




「例えば、、、『私は男だ』。」



ビー!!



水晶から無機質な音が響いたかと思うと、血のように赤さび色の染まった。




「このように、嘘を吐けば一目で分かるようになっております。」




「‥‥」




「もう、分かりますよね。」




ツーが、賢者様を見る。しっかりと、目を見据えて。




「お願いします爺様。ただ一言。たった一言でいいのです。どうか、これの前で『第一王子ワーンを冤罪に陥れていない。』と言って貰えませんか?」




沈黙が、場を支配した。




賢者は、返事をしなかった。





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