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第10話 弟は帰ってくれた

「じゃあ、さっき言ったみたいに土下座までしてやっと婚約してくれたレイナさんが晩飯を作って待っているから露店に寄らずに家に帰るんだよ!!あと、変に気を利かせてベビー用品なんて準備しなくていいからね~!!今日のお昼にレイナさんが自分で買ったからお金の無駄になるよ!!」



「あと家事の手伝いもするんすよ~~~!!」




そのままスリーはナイトンを帰した。私は何も言えなかった。何か言えばスリーと同類みたいに思われそうで嫌だし。




改めて確信した。私の派閥の悪評の殆どは絶対にこいつの所為だな。




それにしても酷い尋問だった。まず第一声が家族への危害を仄めかすとは。惨いとはこのようなことを言うのだろう。




しかし一番欲しかった情報は手に入れた。


複雑な気分だ。




「どうしました兄上?」




「いや、何でもない。ところで何か手がかりはできたか?ああ、今の賢者様以外の情報だ。」




「まぁ、手がかりというほどではありませんが、犯人の一部は分かりましたよ。今ので確信しました。」




「本当か!?」




引っかかる言い方だが、それよりも進展があったのは素晴らしい。




「誰だった!?ツーか?ファイーブか!?」




「もしそうなら兄上はあの二人にしてやられたという事になって笑えますが、違います。抵抗組織(レジスタンス)です。」




‥‥あの似非啓蒙主義が集まるテロリスト集団か。




抵抗組織(レジスタンス)とは、王国における反貴族主義団体だ。




王族では無く、選挙によって代表を選び、貴族会議ではなく選挙での代表による話し合いで国の舵取りを行う。それを命題にしている野蛮人。理想だけは立派だが、それを理由に武力で意見を訴える集団。曰く、正義の為なら戦争は厭う理由が無く、ましてやこれは自由を懸けた聖戦だからいいらしい。




そういった集団によって殺された、と。




「確かに、殺されたヒィもフゥも、ミィも。そこから殺されたものも全員王国における有力貴族だ。」




「ええ、兄上を陥れるだけではなく、その過程の殺害で王国の力もついでに削ぐクレバーな作戦ですね。」



誉めるな。



「クレバーってどういう意味っすか?」



「可愛いって意味だよ。」



嘘教えるな。賢いって意味だよ。





それにしても組織による犯行か。。。。。それなら殺害だけ(・・)なら可能だろう。対象者に合わせた刺客で闘えばいい。


だがな…。


「それが賢者様と何の関係が?賢者がどうやって犯行に関わっているのだ?」



それに屋敷の潜入もだ。誰にも気づかれずに侵入となるとかなり難しいぞ?


しかしそのことも考慮していたのかあっさり答えるスリー。



「まあ被害者を誘いだす係でしょうね。賢者なら身分もバッチリですし、急に訪問してきても普通なら何も警戒せずに屋敷に招くと思いますよ。」




高位貴族邸のセキュリティなど気にせず屋敷に入れるというわけだ。

だがそれだと下手人は賢者様ということになる。



「凶器は刃ではなかったか?」




魔術での殺害なら死体に魔力の残痕が残ると思うが。。。




「屋敷の扉をこっそり開けるなりなんなりして、抵抗組織(レジスタンス)を室内に運んだのでしょうよ。それなら死体には残香が付着しません。凶器も刃のまんまです。」


つまり、こういうことだ。賢者様が訪ねる。準王族の高位貴族だしこのご時世でも断らずに招き入れる。賢者様が『転移(テレポート)』やらなんやらで屋敷の窓の外などに抵抗組織(レジスタンス)を配置。


隙を見て窓を開けて、抵抗組織(レジスタンス)が乱入。用が済めば抵抗組織(レジスタンス)を帰して自分も帰る、と。



「成程。筋は通る。となると後は動機だな。」




抵抗組織(レジスタンス)が貴族を殺す理由は分かる。だが賢者様は分からない。




私達が容疑者から賢者様を外した理由は、彼に殺しのメリットがないからだ。寧ろ今回の一連の騒ぎで、王国の国力低下になってしまったことは最初に触れたとおりだ。


私の問にスリーは即答する。



「さぁ?」




「さぁって。お前なぁ。。。。」




それ、一番大切じゃないか?




「そういうのは捕まえてから考えればいいでしょうよ。」




「お前がそう言うのならそれでいいが。。。。それで鍵はどこだ?」




「は?」



きょとんとした顔で私を見るスリーだが、その顔をしたいのは寧ろ私だ。



「いや、もう私が犯人ではないのだと分かっただろう?なら私が疑われる理由は無いし、容疑者ではないなら牢に閉じ込める理由もない。外に出るぞ。」




「はい????」



珍しく理解が遅いな。俺は諭すようにスリーに声を掛ける。



「いや、賢者様も共犯ということはナイトンが帰ったから証明できないにしても、お前が抵抗組織(レジスタンス)が真犯人なのだと聞いたのだろう?なら騎士団でその情報が伝わっているということだ。」




これで私の疑念も晴れたわけだ。こんな所に拘置される理由がない。




「‥‥いや、無理ですよ?」




「は!?」




何を言っているんだこいつ!?




「俺がこれを知ったのは、抵抗組織(レジスタンス)がある人間に自分の計画を持ち掛けていたことを聞いていたからです。」




阿呆だな抵抗組織(レジスタンス)。そして当たり前のように盗み聞きしてたのか。ほんとに王族かこいつ。




「それで、その勧誘は上手くいったのか?」




「まぁ、上手くいくと思ったからこそ無防備に抵抗組織(レジスタンス)は作戦をべらべら明かした訳ですが。。。。上手くいってなかったですね。断られていました。」




「‥‥そんな甘い見通しだから抵抗組織(レジスタンス)に政権を任せるなど出来ないのだ。」




作戦自体は立派で、現に私を追い詰めれているのに。勧誘で作戦を明かすって。細部や構成員が間抜けすぎる。




「それで、抵抗組織(レジスタンス)が勧誘していたのは姉上です。」




「あの愚妹か!」




「ええ、反兄上派閥のボスである姉上だけが知っています。で、姉上はそのことを騎士団に報告していません。ですから、聞き耳立てていた俺以外は今までの殺人が抵抗組織(レジスタンス)の策略だということは知りませんし、当然調査官も知らない。だから兄上は依然として殺人犯の最有力候補です。」




「お前が言えばいいだろ!?」




「兄上派閥の俺が、何の証拠もなく、騎士団長の姉上と抵抗組織(レジスタンス)の会話を根拠に、兄上が無実だと主張する?笑われるのがオチですよ。」


た、確かに。ぐぬぬぬぬ。


「‥‥ではどうすればいいのだ。折角手がかりができたというのに、これでは変わらないではないか。」



「そうとも限りませんよ。」




スリーは軽やかな口調で私に言う。




「姉上がいるじゃないですか。」




「アイツが再調査するとでも?ありえんな。私とアイツの仲の悪さは知っているだろう。」




もし私がアイツの立場なら、絶対に口を噤んで憎き相手を陥れる。現にアイツは騎士団に報告していない。私だってしない。




「仲良しですね。」




「!?」




此奴マジでぶん殴りたいんだが!?そもそもお前は何しに来たんだ!?お前は今日、ナイトンの脅迫しかしてないじゃないか!!




「兄上の心配も分かりますけど、まあ、大丈夫だと思いますよ。」




「‥‥何故そう言える?」




「だって、真実を暴いて正義を執行するのは騎士の仕事ですから。」






‥‥アルカイックスマイルを浮かべるスリー。


本当に意味が分からん。それに何の関係がある?




ていうか騎士の仕事はそれじゃないし。

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