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第9話 弟が現れた!

「何しに来たんだ?」




「やだなぁ兄上。派閥の長を助けに来たんですよ。」



痛む掌を必死に氷で冷やしながらスリーは笑う。



「では釈放か?」




「それは無理。」




おい。何を助けに来たんだ。




「そんなことより兄上。兄上の愛しの賢者様と父王からの手紙ですよ。」


「気持ち悪い言い方をするな。私はあの二人を尊敬しているだけだ。」


「はは、尊敬なんてどこにしてんだが。」


馬鹿にしたような表情をするスリー。それには思わず私もカッとなり声を挙げる。


「あの二人は国をずっと支えてきていくれている!」



「その業務の殆どは、それ以外の人間がこなしているけどね。あんなお飾りの玉座と賢者の称号を欲しがる兄上の気が知れないよ。」




「・・・・・。」




兄妹揃って王への敬意ゼロだな。私が即位したらこの辛辣な評価が私にも来るのか。嫌だな。


そんな嫌な兄妹の兄の方が、ワザとらしく溜息を吐きながら俺を見る。


「まぁ、尊敬するのは勝手だけどねぇ。。。」


「なんだ?」



妙に回りくどい言い方をする。



「…いや?でもフォーも同じことを思っているだろうなって。」


「何の話だ?」


「それより手紙の内容は?」






私は諦めて手紙を開く。話を逸らした時のスリーは何をされても吐かないからだ。


手紙には、犯罪を冒した私への罵倒に近い叱責。そして王位継承権の剥奪が書かれていた。




「‥‥王位継承権の剥奪だそうだ。」




「ああ、いつもの病気ね。」




「そうだが。そうなんだが、そういう言い方は辞めろ。」




「だってそうじゃないか。父王と賢者は、よく『王位継承権の剥奪』という言葉を使うよね。出来もしない癖に。」



事実だが。事実だけれども。

仮にも絶対権力の長を悪く言うのは辞めなさい。



「お菓子が無ければ『王位継承権の剥奪』。寝つきが悪いと『王位継承権の剥奪』。算術が下手だと『王位継承権の剥奪』。なんでもかんでも『王位継承権の剥奪』じゃん。あれはもう病気だよ。」




『王位継承権の剥奪』というのは非常に繊細な問題だ。王霊議会で決を取る必要がある。だからこそ、父王や賢者様だけで判断できるものではないし、決定も出来ない。私的な手紙で出したのが良い証拠。




「これは王家の公式な声明ではないということだろうな。冗談か戯言だと思えばいい。」




「冗談でも『王位継承権の剥奪』とか言って欲しくはないけどねぇ。。」



ノーコメント。



賢者というのは、魔術の最高峰。その最高峰に属する魔術師から選ばれた魔術師のこと。




それに選ばれた魔術師は身分を問わず準王族と同等の権利を与えられ、望めば爵位も授与できる。今世の賢者は名をネオンと言う。




彼は、私達王族の魔術の師だった。




そして、彼が教える価値アリと判断したのは、ツーとファイーブだけだった。




その二人には、それだけの才能があったからだ。






「まあ、いいだろう。実害はないのだし。」




「‥‥兄上には相も変わらず覚悟がないよねぇ。」




本人を前に不穏な審査結果を言うのは辞めて欲しい。


「せめて私が知らないところでやってくれ。」


「知らないところで言うのは良いんだ。」


「ああ、知らなきゃ傷つかないからな。」



そういう陰口みたいな真似するなよという注意は諦めた。だってこいつ等絶対やめないし。


「‥‥それで。お前は何をしに来たのだ?手紙を届けに来ただけか?」



「え、ああ忘れていた。兄上の命を狙う暗殺者を見つけだので馳せ参じた次第ですよ。」




「忘れていた!?」




兄の命が狙われているのにか!?




私の声を契機に、ナイフが私の足元に刺さる。スリーの言葉に反応したのだろう。ナイフは光を反射しないことから暗殺者が好んで使う黒刃。


本当にいたのか暗殺者。スリーの悪趣味なジョークだと思った。




「…兄上?」




「すまん。」




「え、何が?心当たりがあるか聞いただけなのに。」




なんだ謝って損した。フォーと接しすぎたせいだな。心を読まれたのかと思ってしまった。


「…その男を置いて出ていけ」




私達の会話を無視して、牢に響き渡る若い男の声。私に暗殺者の知り合いなどいないのだが、どこかで聞き覚えがある声だ。



一体どこから?



「ああ、こんなところにいたのか!!」




スリーは即座に分かったらしく、ぱっと喜色満面の笑みで空を天井を見上げる。私も見てみると、そこには柱の上に待機する一人の人間。仮面で顔が見えないが。。。声的にやっぱり男だろう。




声を変えられていたら分からないが。

俺が敵を推測していると、スリーが大手を広げて声を掛ける。



「ナイトンじゃないか!姉上の補佐が何してるんだい?」




そうだ、何か見覚えがあると思ったら愚妹の騎士団の副騎士団長のナイトンだ。なんで騎士が暗殺者の真似事なんかしているんだ?魚が鳥の真似するのと同じぐらい向いていないぞ。



「俺はナイトンではな‥「そっか、暗殺者に転職したんだね!?そんな一大決心をしてくれて俺は嬉しいよ!それでなんでこんなとこにいるの!?質問に答えないと体を削ぐよ!?無視すると君の家族も削ぐよ!?君確か新婚さんだよね?もうすぐ赤ん坊生まれるよね!?新妻をぐちゃぐちゃにして胎児の酢漬けでも食べさせようか!?」…………すんません、ほんとすんません降参させて貰えますか?二度と逆らわないので許してください‥‥。」




「いいよ!」



「‥‥」



「えぐいっすね。」



「にゃ、にゃご。」




親し気に名前呼びするまで仲が良いのかと思いきや、この所業。




人間不信のフォーとは異なり、スリーは簡単に人を信じるし、簡単に懐を見せる。分かり易く言えばチョロい。馬鹿。阿呆。



ただ、こいつの信頼があまりにも薄っぺらくて、本心は吐き気がするほど気持ち悪いので、大抵の人間は直ぐに逃げる。インですら毛を逆立てて臨戦態勢を崩さない。






ありのままの自分がいい、と言いながら精一杯着飾るように。ポイ捨ては駄目だと知りながらするように。差別を良くないと言いながら嫌いな人間を冷遇するように。人はきれいごとを正しいと知りながら、それを守れない。だってそれは余りにもきれいだから。そんなもの守れないから。




けれどもスリーは違う。




此奴はそれを守れる。なのに人を傷つける。歪んだ価値観で矛盾した事象を正当化している。



曰く、『愛に従っているだけだから』、らしい。意味が分からん。



人を傷つけるのは悪い事。暴力はよくない。だから脅し、洗脳する。差別はよくない。だから分け隔てなく全員に愛をこめて嫌がらせする。憎しみを産まない様に家族事処分する。


聞けば吐き気はするような理論を平気で語り、動機を問えば愛しているの一点張り。



家族が死んで妹のミイラを愛するようになった狂人。主人の為に命を含めた全てを捧げる狂人。子供を貴族に玩具にされ、王族含め全貴族の殺害を目論む狂人。



そういう輩を集めては揶揄い、殴り合い、嗤い合う。


それが、王国第三子、スリーという人間だ。



こんなスリーと長年まともにいれた人間はいない。



影のシャドーウですら耐えれなかったものな。スリーは自分は悪くないと言っているが、アイツが原因の一つであることは間違いない。



なのに影長達を前に分かり易い泣き真似をするから殴られるんだよな。




そうこう思っているうちに、するするとナイトンが天井から下りてきた。ナイトンもスリーのことを知っているのだろう。びくびく怯えながら私とスリーを見ている。



…ん?私とスリー?



おいやめろ私を同族だと思うな。こいつよりは神経はまともだわ。


「ローズ??」


「はいっす!!」


スリーの呼びかけに見慣れない女が返事する。ローズ、と言ったか?新しい影か?


「‥‥返事だけかい?」


「呼ばれたので!!」


元気一杯に応える女だがそうじゃない。絶対何か用があったからスリーは名前を呼んだんだろう。呼ばれたので返事だけって点呼だとでも思ったのか?



「いや拘束用のロープ持ってきてよ。」


「私そういう野外でSMなプレイしないんで持ってないっすよ。」


「はい!?何でそうなるの!?ロープぐらい持ってなよ必需品でしょ!?」


持ってねーよ。


「王子もお盛んな年頃なんでしょうけど必需品とまで言うのは引きますね。」


「…じゃあ襲われた相手をどうやって拘束するっていうのさ。」


「極東のNINJAは『首トーン』なる技で相手を気絶できるらしいっすよ。」


「じゃあローズはできるの?」


「できませんけども。」


「じゃあ襲われた相手を拘束せずに殺すの?そんなことするの嫌でしょ?」


「嫌ですけども。」


「なら黙ってロープで縛りな。まったく、そんなんじゃ毎日生きてくことなんてできないよ。」


このローズと言う女は大概可笑しいがやっぱりスリーの方が可笑しかった。


普通はロープなど持っていないし、デイリーで襲われたりしない。


だがツッコミ不在のままスリーはポケットからロープを取り出し(つまり自分は持っていたのにローズとやらのロープを貰おうと思っていたわけだ。シンプルに屑だ。)、慣れた手つきでナイトンを縛っていく。




「それで??」



スリーは早速尋問を開始する。




「‥‥まず始めに断っておきますが、これはツー様からの命令ではありません。」




「知ってる。」




「当たり前だな。」




「にゃー」



スリー、私、インが順に言葉を返す。あの愚妹がそんな真似するわけないし。




「…実は、カマを掛けてこいと言われてきたのです。」




「??」




「もし王子が犯人なら、自分が罪に問われても逃げられる準備をしている筈だって。」




‥‥逃げる準備だと??

牢屋に穴でも開けるというのか?



「それで、暗殺者として襲撃すれば、その逃亡手段を使うとでも言われたのかな?」




「…はい。」




そんなの無いわ。ここ地下の牢獄だぞ?逃げれるような細工をして許される場所じゃない…と思ったけどありそうだ。


いざとなった時の緊急通路。他国に攻め入られ牢に押し込められるも、処刑を免れるための逃げ道。



絶対あるな。後で探してみよう。



「ふーん。それで誰がそれを言ったの?」




「それは‥‥。」




流石に言い淀むか。先ほども上手く話しを逸らしていたしな。




「可愛い奥さんを持ててナイトン君は幸せだねぇ?任務先で出会ったんだっけ?明後日結婚記念日だっけ?そんな記念すべき日に奥さんをスライスハムにしたいのかな??それとも変態の玩具??それなら今すぐ


「賢者様です!!賢者様に命令されました!!!」


…なるほどね。教えてくれてありがとう!!ナイトン君の可愛いお嫁さんのレイナさんは、結婚記念日に『フランラン』ブランドの藍のエプロンが欲しいそうだから買って喜ばせなよ!!あと今日の晩飯はビーフシチューだから真っ直ぐ家に帰るんだよ!!」




「…は、はい。」




‥‥うん。




「にゃーお。」


私は慰めの意を込めてナイトンに声を掛ける。


「その。。。なんだ。相手が悪かったとしか言いようがないな。」


「ドンマイっす。」


「うう。。。この猫ちゃんだけが俺の希望です。」




‥‥。



私は?









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