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第8話 妹トーク、ビギン

「‥‥。」


「‥‥。」


互いに喋ることを拒否しているので、会話は無い。


(もう少し喋らばいいのににゃぁ)


(私はこの愚妹が心の底から嫌いなのだ。知っているだろう。)


それはツーも同じよう。しかしこいつには私を尋ねに来た目的があったようで沈黙を破るように口を開く。




「調子はどうだ、兄上。」




「ああ、たった今頭痛が発生したよ。」




「それは罪の意識に苛まれたからですかな。」




挑発気味に笑う愚妹。




「ああ、ありもしない嘘で私を連行する無能な騎士団を粛清しなかった私の罪にな。。。。こんなことなら早くから改革案を提出しておくべきだったよ。」




私の言葉を聞くや否やくしゃりと顔を歪める愚妹。ふむ、どうしたのだろうか。やはりこのような未熟者はさっさと王家から放逐するべきか。




「それは騎士団長の私への侮辱か?」



「いや?事実を列挙しただけだ。気に障ったのならスマナイ。」


にこやかに笑ってやれば、椅子から勢いよく立ち上がるツー。しかし何かを堪えるかのように黙りこくり、ゆっくりと椅子に座り込む。


ふむ‥、どうしたのだろうか。普段ならまんまと私の挑発に乗るのだが。



「‥‥」



「‥‥」



「お前、いい加減にしろよ?」


突然口を開いたと思ったらこれだ。私は出来の悪い教え子を諭すかのような顔で言ってあげる。


「その台詞はそっくりそのまま返してやるよ。」


「何だと!!!」


私に掴みかからんと鉄格子に手を掛けるツー。


「おいおい、品の無い事は辞めてくれ。」



ツーが私を睨みつける。魔力が漏れ出て周囲の温度が上がっていく。私の魔力も漏れ出て血と金属の匂いが充満していく。




私達の一触即発な空気を止めれる人間はいない。母上はあの後ツーをここに置いたっきり出て言った。ご機嫌でスキップしている所を見るに、余程嬉しかったのだろうか。




しかし私はちっとも嬉しくない。今、私と面会している女はツー。父王の第二子。言わずもがな、私の妹だ。といっても母親は違う。




ツーの母は、王国の公爵家出身で、第二王妃様。ツーに似た凄い苛烈な性格で、自他ともに厳しいことで有名だが、娘と違うのは優秀な所だ。執務では常にお世話になっている。第二王妃様は王国内に幅広い縁故を持っており、お陰で彼女さえいれば国内政策は滞りなく実行される。



案を思いつき骨組みを作るのは母上と宰相だが、それを貴族が了承できる形に肉付けするのが第二王妃様なのだ。



そんな素晴らしい母を持つこの女は、王族という責務があるにも関わらず幼き頃に騎士団へ逃げた。そこから騎士隊長になり、成人した今でも未だに王族としての責務から逃れ続けている。王族としての恥晒し。同じ空間にいるだけでも虫唾が走る。


「すぐに暴力に訴えるとは、相も変わらず野蛮な事だ。」


「は、怖いのか?負けるのが。」


「おいおい、今の話の流れでそうなるとは。知性を放棄した猿らしい言葉だな。」


私の言葉に、ツーは苦虫を噛み潰したようは表情で私を見る。


「‥‥相変わらずだな貴様は。」


「誰に向かって貴様などという言葉遣いをしている?王子に対して敬意を払え。」



「私は敬意を払うべき相手には敬意を払っているのだがな。」


「成程。サルは人間に敬意を示すなど無理か。ボスザルにしか敬意を示せないものな。」


「貴様。。。!!!!」


私の言葉に、敬愛する師匠を馬鹿にされたと思ったのか。奴は鬼のような表情で私を睨みつける。‥‥未熟な。この程度の挑発すら躱せないとは。本当に王子か?


「その言葉を…!!ボスナイト様への侮辱は今すぐ撤回しろ!!!」


「おいおい、事実を言い当てられたからと言って怒るなよ。」


私としては至極疑問なのだが。どうやらツーも私のことが嫌いのようだ。


まぁ、屑に嫌われてもどうも思わない。現にこやつは今、私を睨んでいるが何の感慨も湧かない。




相手も全く同じようだが。一刻も早く用事を済ませたいと言わんばかりに口を開く。




「単刀直入に聴く。」




「なんだ愚妹。」


私の言葉にまた怒りを爆発させそうになったツーだが、堪えて私に言葉を投げかける。



「っ!一連の事件は、お前が起こしたたのか?」



「ふむ。では逆に問わせてもらうが、お前はどう答えたら納得する?」



「真実だ。」




「では答えは『否』だな。」


私の言葉を聞き、ツーの顔には侮蔑の感情が貼り付けられている。



「それを信じろと?」


は。聞いてあきれる返答だな。



「先ほどまでの言葉はどうした?素直に言え。『捜査に行き詰っているけど、未解決なんて言えないから騎士の面子を守る為に罪人になってくれ』とな。」



「私はそんなこと頼んでない!」



「どうだか。ではなぜ来た?」


「私が直々にお前に引導を渡すためだ!」


「一緒ではないか。」




私が犯人だと決めつけている癖に、何が真実を言えば納得するだ。お前にとっては『私が犯人でない現実=虚構』になるのだろうよ。




「そもそもお前は、自称『王位を返上した姫騎士』なのだろう?今のお前の態度は、たかが一騎士が第一王子へ取れるものとは大いに逸脱しているのだが?」



「にゃーむ。」


インも同意するかのように鳴いている。そんな私達の何が気に入らないのか、苛立たし気にツーは叫んだ



「黙れ!お前らはいつも身分でチマチマと文句を付ける!そんなこと、結果の前では些細なことだろう!」



「その結果を効率的に出す為に存在するのが組織で、その組織の為の潤滑油が身分なのだよ。それが分からないお前はそうした態度を一生取ってろ。」




私がツーを嫌悪する理由はこれである。身分への敬意がたりないのだ。自分は一市民と同じ身分と言っておきながら許可なしに王宮へ入る。王族としての行事も仕事もこなさず、騎士ごっこを興じている。




騎士になるのなら王族としての身分を正式に捨てるべきだし、王族としてありたいのなら王族の責務を果たすべきだ。自分の身分を明らかにし、それに則った動きをするべきである。



身分を馬鹿にしすぎである。



それが身分制度は差別を生むなどと論点をすり替え、自分が何もしていないことを棚に上げて王族を批判する。




この愚妹が喚いている間にどれだけの激務を我々がこなしているのか。




侵略を目論む国からの奸計対処に、折衝回避。自国からの反発を考慮した上での政策。精神が削られるなんてものじゃない。こんな仕事まともな神経ではやってられん。




なにが差別を生むだ。それは身分の問題ではなく、人間の心の問題だろうが。人の心を憎んで制度は憎まずだ。




貴族の選民思想?




知るか。救っている数を考えれば当然の権利だ。10000人救って10人虐げる。9990人のお釣りが来ているだろうが。引き算もできないのか馬鹿め。


もしこれが嫌なら自分が貴族の責務をこなせばいい。それが相も変わらず身分に囚われているだのなんだのと。。。



私はこういう馬鹿が一番嫌いだ。文句ばかりいって自分は安全圏にいる。少しは文句を言われる側の仕事をこなしてみろって言うんだ。



「だがまぁいい。私もお前に聞きたいことがあった。」



「??」



「何故騎士団がしゃしゃり出た?本来なら近衛兵の仕事だろう。」



「ああ゛???」




野蛮で低俗な凄みだな。そんな睨みよりフォーの方が百倍怖い。




「騎士団の仕事は何だ?」




「それは正義を執行することだ。」




即答か。愚かの極みだな。



「もう一度基礎からやり直せ。」


「はああ゛??」



騎士団が対処するのは、戦争事案。時点で規模の大きな国家事件だ。犠牲者が三桁だとか、外交レベルに発展する事件を取り扱う。




賄賂、ハニトラ、脅迫。手練手管を駆使して官僚貴族から極秘情報を収集する諜報員。マッド魔術師による理解不能で大規模な凶行。麻薬や違法金融で都市の労働者階級を取り込み、財産を築こうと画策するマフィア。そしてその背後にいる工作員。これらを捕まえ、犯罪を防ぐのが騎士団の仕事だ。




言っては悪いが、貴族数人が死亡したからと言って騎士団は出てこない。


騎士団は対処する問題の規模が違う。




本来なら王宮や貴族の殺人事件の受け持ちは王宮近衛兵。容疑者が平民だったりするのなら、騎士団が出てくることも稀にあるが今回の被疑者は私。




私は平民じゃねえのだ。




そんな連中が捜査し私を連行するなど異常の事態。




「…それだけ騎士団が私のことを嫌っていると思っていた。もしくは自分の管轄も理解できていない無能になったのかと。」




聴いているか答えられなかった無能よ。




「‥‥‥」




「だが、そうでなかったら?ミジンコレベルの常識が騎士団にも働いていて、この一連の殺人が何か王国という国レベルの問題に関係すると判断されたのだとしたら、騎士団が出てくるのも納得だ。」




私の言葉に黙りこくる愚妹。




「吐け。お前たち騎士団が出てきた理由は、正当な職務からか?」




「…わ、我々の職務はいつでも王国の正義の為にある。正義を執行するのが我々の正当な」




「黙れ。私は、どうしてお前たちが出てきたのか聞いているのだ。具体的な命令を言え。」




「‥‥。」






結局ツーは何も話さずに出ていった。クソッ。本当に無能な愚妹だ。




「…インはどう思う。」




「言うまでも無く怪しいのにゃ。」




「同意見だ。根拠は?」




野生の勘とか言ったら飯はハバネロにしよう。




「疚しいことがなければ墓穴であろうと堂々と掘るツー様が口を濁すなんて、後ろめたいことがあると言っているようなものだにゃ。というかワーン様と会話を試みている時点で違和感バリバリにゃ。」




まったくもってその通りだ。晩はキャットフードだな。




「‥‥なんか凄く当たり前のことを言って命が救われた気がするにゃ。」




「気のせいだろう。現に私は檻の中だ。」




「そうだにゃのか。まあ、どうでもいいかにゃ。」




「ところで、お前が何か」




「フー!!!シャー!!!」




牢の扉の向こうからの気配に気づいたのだろう。突如目を血走らせて、扉を見るイン。…まんま猫だな。


「どうした?」



「あいつ!!あいつが来たにゃ!!!」


嫌悪感丸出しにして叫ぶイン。インがこんな反応をするのはたった一人の人間に対してのみ。




「やぁやぁ兄上!大丈夫かい!?俺は心配の余り夜も眠れなかったよ!!」




「いや昨晩爆睡してたじゃないですか。」




「ははは、それはそれ。これはこれさ。それよりローズの舌はいい加減切るね。」




「怖!?絶対私悪くないすよね!?」




「そう思うことが危険なんだ。それを知ってもらう為に舌を斬るんだよ。」




「‥‥スリー。ほどほどにしとけよ。」


表れた男は、中肉中背。くすんだ金髪に溝がまじったような濁った紺色の目。



「ははは、嫌だなぁ兄上。愛の鞭ですよ。愛ゆえに、ていう奴です。俺が好きで女の子を傷つけるとでも?」




「昨日、『綺麗な子ほど泣かせがいがある』って言ってました。」




「過去に囚われるなよ小娘。昨日の俺と今日の俺は別物なんだ。」




「言葉だけはかっこいいっすね。」




「でしょ?」







フォーと似ているようで異なるこの男の名前はスリー。王国第三子、フォーの兄で、私の弟である。


この男は・・・もうなんかおかしい。インに嫌われるなんてよっぽどだぞ。




「あ、猫ちゃん!!」



「ふしゃー!!!!」



「痛い!!」



そして王族を容赦なく噛む影。


流石影クオリティ。内心で王族をちっとも敬っていないことが窺える。

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