第2話 クライマックス!
「なあファイーブ。いつものお前の哲学を聞かせておくれ。」
「珍しいね。」
いつものようにペルのお店でペルと話をして、哲学と言う名の雑談を交わしていると真剣な顔をしたペルが、僕を見ていた。
いつもは哲学的な話(笑)をおざなりに聴く彼女がこんなことを言うのは珍しい。
「お題は?」
「宗教は悪かの?」
アラヤ人は知神レドトンの加護を強く受ける人種だ。知神レドトンの加護は前言ったが、その強大な加護故に、アラヤ人は知神を強く信奉している。
ペルもそれに漏れず、熱心な信徒だったはず。
どうかしたのだろうか。
嘘を吐いて綺麗ごとを言っても良かった。でもペルの顔を見て僕は本心を語ることにした。
「・・・・宗教はさ、信頼の最終形だと僕は思っているんだ。自分の理解を超えた存在を信じているってことだからね。だからもしも宗教が悪ならば、信用も、友情も、愛情も、想いも、全部悪って言うことになるよ。」
「宗教は悪じゃないということかのう?」
正しい、間違っている。正義、悪。前の姉上の話が脳裏を走る。
それを無視して僕はペルに哲学を披露する。
「さっきも言ったように宗教はさ、神様を信頼している行為なんだ。ありもしないものに信頼を寄せることを愚かだという人も言えば、だからこそ信用するという人もいる。だってそれは裏切れないのだから。自分が知覚できないものからの裏切りなんて分かりようもないからね。」
僕の言葉にペルの顔に陰が走る。
知識を重んじるのに、知識で測れない存在を信奉することに矛盾を感じているのだろうか。
「じゃあ宗教は現実逃避の行為かの?弱虫じゃから信じるのかのう?」
アラヤ人への中傷として、このようなものがよくある。『アラヤ人は知神の住まう楽園たる『天之国』へ死後定住することを目的としているが、知りようがないものを目的とするなど白痴の信徒の証である。』と。
きっとそのようなことを言われたのだろう。
彼女の顔を見て僕はそう推測する。
「死後の楽園を信じるアラヤ人は、腰抜けなのかの。その為に現世を生きる我々は、死後の世界を信じないといけない我々は、なぜこの世にいるのかのう。」
ここまでの弱音を吐くペルは久々に見た。
何があったか分からない。力になりたくてもペルが言わない限り僕じゃ力になれない。助けを求めてないのに助けても彼女は救われない。
だからこそ、僕が言える限りのことだけはきっちり言おう。
「確かにそういう捉え方もできるね。」
「…そうか。」
顔を暗くするペル。そんなペルを見ながら、僕は続きの言葉を吐く。
「けどさ、死後を信じることは、本当に腑抜けなのかな?」
優しい声で、明るい顔で。姉上がしてくれたように、あの時のペルがしてくれたように僕は喋る。
「・・・・」
「例えば愛しい人が突然死んだとしてさ。それが例えば寿命だとして。死んで無になったなんて受け入れられるかい?泡のように儚く無に消えたなんて言われて納得できるかい?」
その人が大切であればあるほど、そんな結末は受け入れられないだろう。だからこそ、だからこそだと僕は思う。
「実際に死んだ人はもう会えなくて、もうどこにもいなくて、どこにも存在しないんだよって言われるよりかはさ、神の国で君を待っているって信じた方が素敵じゃないかい?」
「・・・」
「人はどうして死ぬのか分からない。死んでどうなるのか分からない。どうなるのか正しいのかなんてわからないんだ。」
そう、何が正しいのかなんて分からないのだ。つまり裏を返せば、何が間違っているのかも分からないのだ。
「どうせ分からないならさ、素敵な方を信じたいと思う人の気持ちは弱虫なのかな?それは間違っているのかな?」
僕はそうは思わない。
「きっとそれはさ、その人が楽しく生きたいっていう表れだよ。残酷な世界を寂しく生きていくんじゃなくて、優しくて暖かい世界を希望を持って生きていきたい。そういう気持ちの表れなんだと思うよ。」
だってそっちの方がいいのだもの。誰が好き好んで厳しい世界に住みたがるんだ。
「だからそれは弱虫なんかの気持ちじゃなくてさ、もっと、、何て言うのかな。世界を美しくとらえたいって言う素敵な考え方なのだと思うよ。」
部屋は暗くて、ぺルの顔ははっきり見えない。
「そうか。。。」
「そうだよ。」
「そうじゃのう。。。。」
「そうなんだよ。」
「ファイーブ。」
「……なに、ペル?」
「有難うね。。。。。」
そう言った静かな声と優しい台詞は裏腹に。
ペルは痛みを堪えているようで。
堪えきれずに泣きじゃくる少女のようだった。




