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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
僕達の冒険はこれからだ!!
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第1話 パスタを下から読めば

翌週。僕らのことを第七席『レッド=ホワイトマスク』に密告し、サーシャ様殺害を依頼した人間が判明した。




タスパ=パスタという貴族だった。


「その彼はどこへ?」


「この屋敷の地下よ。早く行くわよ。」



そいつはしょうもない中堅貴族で、姉上から告げられるまで名前すら知らなかった。だから姉上に付いて行って初めてそいつの屋敷を見たし、その時初めてそいつの顔を知った。



ましてや屋敷の地下なんて知る訳もなく。



もし知っていたなら僕は辞めていただろう。あんな悍ましいものを見たくは無かったから。せめて、食事前に行きたかった。



「うっ。。。」



激臭がした。


そこには、何十と言う獣人が鎖に繋がれ、腐臭と死臭に満ちたこの部屋の中で冷たくなっていた。




凍傷火傷裂傷なんて軽い物。




股から足に掛けてズタズタに裂かれている少女。明らかに弄ばれて死んでいる。




火に焼かれ縮む肉体によって体中の骨が折れている爛れた皮膚の少年。趣味の悪い拷問の跡が丸わかり。




氷が肺に敷き詰められ、窒息と凍傷にで息絶えた老婆。苦悶の表情が皺を押しのけている。




皮膚を剥がされ体中のいたるところに釘を打たれた夫婦。互いが互いを庇い合っているのを嘲笑うかのように串刺し。




家族だったであろう血肉だまり。眼であっただろうもの。衣服であっただろうもの。原型すらとどめていない。




何百という虚ろな目が、僕を責めている気がした。



「うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっぇえぇぇ!!!!!!!ゲホゲホゲホォ!!」




僕はただ吐いているだけだった。





胃の中が空っぽになっても、胃酸で舌が焼けていても、歯が溶けても。ただ、泣きながら吐いていた。



「おいおい大丈夫かよファイーブ?」



吐いて吐いて吐いて。ちっとも気分は良くならなかった。



最奥の牢に、そいつはいた。



「あの女は、俺が必死に手にした地位をあっさりと越えやがった!何なんだ!ふざけんな!俺の努力を返せくそ野郎!!」




努力してない奴が努力している人を妬み、憎み、蹴落とそうと躍起になる。実力を上げることには興味がないけれど、足を引っ張ることだけは抜け目ない。




「いやー、王国にもまだまだ屑がいたものだね。」




「何が獣国の王族だ!ここは王国だ!何が王女だ!!獣国なんていう野蛮国家のメスだろ!?猿と変わりやしないじゃないか!それなのに身分は一緒だからって特別扱いか!?ふざけるなよ!俺がどれだけ王国に貢献してきたと思っている!」




「全く、これじゃあエナンチオマー侯爵が浮かばれませんね。皆がこんなことをしない為に彼は志願(・・)してくれたというのに。」




「餓鬼共に下げたくもない頭を下げて!手を汚して!それだけの思いを俺はしたんだ!それなのにあの獣の餓鬼はなんなんだ!王族!?汚らわしい獣風情がか!?俺をおちょくるのもいい加減にしろ!」




他者への賞讃は惜しみ、自分への賞讃を惜しむ奴は決して忘れない。理不尽な恨みを抱いて生涯永劫忘れない。他者から賄賂を貰うことを当然のことと信じ込み、自らと違う意見を許せない。厳しい現実を認めず、甘言しか受け入れない。








「アイツは何をした!?王族としての責務を果たしているか!?ただ他国から寄せられた置物の女に、どうしてあそこまでの地位が与えられる!?俺が王国に治めてきた税をどうしてあんな無能な畜生に使われなければならない!!」




「いやー、気持ちは分かるな。自分が努力して手に入れた地位を相手が楽々手にしていたら怒るよね。」




「私は分かりませんね。」



「そう?意外だね。」



「そもそも私の欲する地位を希望する人がおりませんので。そういう感情を抱くことがないのです。」




「フォーのそういう感情との折り合いの付け方には素直に尊敬するよ。」




「それはどうも。」



自分は決して顧みず、相手の欠点ばかりを粗さがし。他人の不幸を望み、自分だけは幸福であろうと平気で嘘と暴力を行使する。選民思想と驕りに囚われて、それが正当化されると信じている。



「終いには俺への挨拶はなし!なんなんだ!王族以外には興味ありませんってか!?俺を舐めるのもいい加減にしろよ!!」




そんな人間を受け入れろなんて、僕にはできない。




僕にはそれをする理由が分からない。




「・・・許せない。」




「これを許せる人間は兄上ぐらいよファイーブ。」




姉上はつまらなさそうにタスパの顔を見たかと思うと、興味なさげに他の牢を覗く。




「当然俺は許すさー。人間は失敗する生き物だもの。過ちの一つや二つ、普通にするだろうさ。そこから人間は学んでいくんだ。俺はこんな自己愛に基づく人間を愛しく思うよ。」




「ほらね。」




僕がスリーの方を振り向くと、にへらにへらを笑いながらしゃべる我が兄。本気で言っているのかいないのか。




僕には分からない。




「それでコレはどうするのフォー?」




「『サーシャ様に嫉妬するあまり抵抗組織(レジスタンス)と結託して王子殺害を企てた下衆貴族』という名目で裁判ですね。これを否定すると、教会との利権争いとかいう藪蛇に突っ込むことになるので裁判官もきちんと忖度してくれるはずです。結果は無難に磔、後にギロチンですかね。」




「政治的取引だねー。いつもみたいな私刑処分はしないの?」




「コイツは拷問するメリットも、暗殺する利点もないのですよ。エナンチオマー侯爵は見せしめにする価値があったし、狂信者は教会関係者とバレないために始末する必要があった。そのためのシェードちゃんなのです。でもコイツは只の悪党なのですので。。。」




「法に則って処刑した方が効率的か。確かにね。」




こんな時でも、こんな場合でもいつもどおりの彼等。


まるで夕飯のメニューを考えているかのように何事も無いような顔で振る舞う彼等。エナンチオマー侯爵の時と同じだ。




「どうして。。。。。。。」




「ん?なーにファイーブ?」



フォー姉上はいつもの笑顔で私を見ると。

その彼女のいつもの顔にうすら寒いものを覚えながら僕は問う。




「どうして彼はあんなしょうもない理由で人を殺めようと思うのですか?」




「しょうもない理由?」



「自分が出世できなくて、その腹いせでサーシャ様を狙ったことですよ!」



何を言っているのか分からないといった顔で僕を見る姉上。それが彼女の本心なのか違うのか、今の僕には分からない。今はそんなことどうでもいい。




「それが不思議なのかファイーブ?」




「当たり前だろスリー!どうしてアイツにはあんな人間として恥ずかしい行為を出来るんだ!?」




僕の問いかけに、二人はただ顔を合わせるだけ。そして姉上は口を開く。またいつものように、何事もなかったかのように。



「それが人の性だから、かな。」



端的にそう答えるのだ。



「でも、そんなこと、」




「あるよ。フォーの言っていることは的を得ているよ。」



そんなことありえない、と言おうとする前に。


珍しく、少しだけ真面目な顔で。兄は喋った。



「皆そう思っている。皆サーシャ様を妬んでいるんだ。絵本じゃ王子と結婚したシンデレラはめでたしめでたしだが、彼女の本当の闘いはこれからだ。上位貴族はサーシャ様を蔑み嫉妬しているだけだけど、中位から下位貴族はサーシャ様を蛇蝎の如く嫌っている。サーシャ様は汚らわしい獣国から、我らが誇りの王国王族に職種変更(ジョブチェンジ)したからね。自分が喉から手が出る程欲しがった王族という地位をあっさり手にしたから嫉妬と憎しみの嵐は絶えずある。」




「不法に攫った獣人に八つ当たり。そして暗殺依頼。その行動に移したのがタスパ=パスタってだけなのよ。」




「犯行に及んでいないだけで皆そう思っている。勿論『思う』と『行動する』には天と地ほどの違いがある。だからファイーブの質問の答えとしては。『人間の性分である嫉妬と怒りに我慢できなかったから。』だね。要は忍耐力の問題。彼の人格の問題ではなく、人間として当然の本能に耐えうる理性が無かったという能力の問題なのよ。」




それじゃあまるで、皆は心の中でサーシャ様をあんな目に遭わせたいってこと?そんなこと、、、ありえない。




「別に全ての貴族があそこまで思っているとは言わないわ。けれど、サーシャ様を蹴落とすために、少々手荒な手段を用いても良い、と思っている貴族はゴミの数より多くいるわよ。」




「そんな。。」




「そして私と兄上はそういう人間を何人も見てきた。貴族に限らず、ね。さっきも言った通り、人は簡単に嫉妬するし、理不尽な恨みを抱くものだからね。」




そんなことない。人はそんなに殺伐としていない。


だって、だって。。。。。




「僕はそんな風に人に対して思ったことないですよ。」




「知るか。誰もお前のことなんて興味ないわ。」




そんな僕の精一杯の叫びを、姉上は一刀両断する。




「私も、ワーン兄上も、ツー姉上も、スリーも、父王も。これは全ての人間が大なり小なり持っている感情よ。貴方がいくら高潔ぶって、悪を憎んでいようともこんな面は必ずあるわよ。」




まるで知っているかのように姉上は言い。




「貴族だから、とかじゃない。平民や貧民だってそうだぞ。成功した人間を恨んで妬んで足を引っ張るなんて話は探せばどこの身分でも星の数よりあるだろう。」




だからこそ愛は輝くけどな、とうっとりした顔でスリーが続ける。




「果たして貴方は見てないフリをしているのかしら?それとも貴方には本当に無いのかしら?」




「どっちなのか愉しみだね。」




「全然愉しみじゃないわよキチがい。」




「フォーはやっぱり俺への態度を改めるべきだと思う。」






そして僕は、気を失った。










また、夢を見た。




まっくらな闇の中で、少年が一人で泣いている夢だ。




それは幼い頃の、僕だった。






姉上のいう事は分かる。



誰もがどす黒い感情を抱えていて。それを誰もが我慢している。



けど、分かっていると思っていた者が分かっていなかった事例なんて山ほどあるように、結局のところ僕は分かっていなかった。




でも、仕方が無いじゃないか。




僕はそういう気持ちを、抱いたことが無いのだから

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