閑話シスター&ブラザーⅢ
むかしむかしある所に。
ある少女がいました。
女の子は幼い頃に両親を亡くしました。
けれど彼女は寂しくありませんでした。
なぜなら彼女には大切で愛しい兄がいたからです。
優しくてカッコよくて、頼りになる兄がいたからです。
少女はそんな兄が大好きでした。
兄も少女のことが大好きでした。
ところが兄は死にました。
妹は復讐を誓いました。
卑怯な手によって討たれた兄の無念を果たすため、少女は汚らわしい異教徒を滅ぼす女神様の使いとなりました。
彼女は教徒の希望となり、次々と悪魔を滅殺し不浄なる大地を制圧していきました。教会はその大地を洗浄し、女神様の教えを説きました。
そこからなんかそれっぽい伝説とか奇蹟とかピンチとか恋とか起きましたが、少女は女神様のお陰で全部イイ感じに乗り切りました。
こうして女神教は天下を修め、復讐を果たした少女は毒杯を盛られ処分されました。
めでたしめでたし。
「では、次代の英雄はこんなのでどうでしょうか?」
「ふむ。中々いいのではないか?」
「儂も異論はないよ。それにしても、十二使徒出身の英雄とは珍しい。」
「今代の聖女はちと頼りないしの。これぐらいの話題性が必要なんじゃろ。」
「では、この方向で?」
「「「異議なし。」」」
暗い、暗い、部屋の中。
慣れた様子で少女の人生は決められた。
会議室の中で決められた少女の人生は。
まるで御伽噺のようにドラマチックで、そして都合の良いものだった。
組織にとって。大人たちにとって。そして、世間にとって。
少女の母は、特別な一族の生れだった。
神の威光を身に纏い、神の声を聴くことが出来る一族と言われていた。
その威光はどんな罪人の心をも改心させ、自らの虜にすることができた。
神の声は全てを見通し、彼女の一族に知り得ないことはなかった。
そんな一族から生まれた二人の兄妹。
一方は威光を身に纏い優秀な成績を修め。
他方は神の声を聴くことに長けていた。
彼等は分かっていなかった。自分の大きさを。
ランクAから始まった少年が、階位七席の使徒になり。
ランクFから始まった少女が、階位五席にまで上り詰めた。
美しい悲劇と、それを糧に英雄を創るにはもってこいの素材だった。
さぁ、御伽噺の再現をしよう。
英雄姫マリアの再誕である。




