閑話 ブラザー&シスター
とある山奥にある、白い小屋の傍。
白い壁に囲まれ。白い服を着た子供達と女性が一人。
「助けて助けて助けて助けてくれ助けてください!!!」
そして木々に張り付けられた大人がたくさん。
「122番、前へ。」
泣き叫ぶ男とは対照的に、無機質な声で番号を読み上げる女性。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
「はい。」
未だあどけなさの残る子供の声。
「死にたくない死にたくない死にたくないまだ死にたくない!!!!」
「『白矢』!!!」
音もせず、白い、白い弓矢は的を抉り、木々に縛り付けられた汚らわしき異教徒どもを串刺しにする。
(よし。。。。)
周囲に漂う血肉の匂いを一切気にせず、術者の少女はちらりとシスターの顔を見た。シスターは少女を見向きもせずに淡々と告げる。
「威力B⁺、射程、速度、精度は共にC⁻と。。。。」
叱責が飛ばないことにほっと息をつく少女。
「総合評価はC。次!!!126番、前へ。」
評価を受け取ると、次の番の邪魔にならぬようにそそくさと後ろへ回る。誰も見ていないことを確認してから小さくガッツポーズをする少女。決してよい成績ではない。けれど、悪くもない。
寧ろ苦手な聖術にしては上々の結果だった。
(今日は女神様に、貢献できたかな。)
そして何より、汚らわしき異教徒を処分できた。苦しみながらに息絶えるあの姿は、彼女にとって充足感のあるものだった。
(女神さまは、私を見てくれたといいな。)
胸に高鳴る高揚感を抑えながら、少女は他の人の評価を聞いていた。
少女にとって、親は女神ただ一人だった。
家は白い壁に覆われていて、少女の名前は122番だった。
外の世界へ行くことは禁じられ、聖書以外を読むことも禁じられ、毎朝毎晩、食事毎に女神へ感謝を捧げた。
朝から昼までは聖術と座学を習い、昼からは戦闘訓練を行い、夜は神への理解を深めた。齢を取るにつれて家族が削られていったが彼女にとっては何も苦では無かった。
理由は二つ。
一つはこの世で朽ちても、神の国に行くことができるから。
神の住まう国へ到る幸福に比べれば、この世で果てる苦しみなど何でもない。今はシスターによって自殺を禁じられているが、もしそうでなかったら彼女も喜んで身を投げていた。
なぜシスターのいうことに従うのか?
何故ならシスターは神の遣いだからである。
そのシスターの言葉に反するということは、神の言葉に反するということであり、それ即ち神からの拒絶を意味する。それでは神の楽園に辿り着けない。
そのような禁忌を冒す彼女達ではなかった。
「おーい、122!ここにいたのか!」
「兄さん!!」
二つ目の理由は、この兄の存在である。
「122!!お前やったな!!Cだってよ!」
「うん!!兄さんのようにAは取れてないけど、やっとDから上がったよ!!」
121番と122番は家族にしては珍しく同腹の兄妹であった。
少女の兄は、少女よりも遥かに優れていた。法術、体術、女神への理解。彼女以外の家族ですらどれ一つとして少年には叶わなかった。
特に操術においては他者の追随を許さず、あのシスターにすら優る程であった。
家族の憧れだった。
当然少女もそんな兄が誇らしかった。
そんな誇らしい兄の傍にいられるのなら、死ねなくても辛くは無かった。
「よし、俺も122に負けていられないな!」
「???私は兄さんに何一つ勝ててないよ?」
「ばっか、そういうことじゃねえよ。122、お前は総合評価FからCにまで上がったんだぞ?俺だっていつまでもAに留まるじゃなくて上を目指さなくちゃいけねえってことだよ。」
「ええ!?Aでさえ凄いのに!?」
「ランクの高さなんて関係ねえよ。大切なのは、どれだけ成長したのかって話さ。三ランク上がっている妹がいるのに、俺は進歩ゼロだ。」
実際、122番が他の家族のように処分されていないのはその成長性にある。Fという低ランクからとはいえ、第二次性徴を迎える前に初期診断から三ランクも総合評価を上げたのは122を含めて歴代で7人しかいない。
そして122番を除く6人のうち5人は、十二使徒にまで至った傑物ぞろい。その成長性と、前例を考慮されなければCランクの122など早々に摘まれていただろう。
妹にはそれだけの潜在能力が秘められていることを知っているからこそ、121番はあのような台詞を言ったのであった。
「でも、Aランクの上って『使徒サマ』しかいないよ?」
「おう!!その使徒サマさ!!俺はさっさと使徒サマになってやる!」
122番の疑問に快活に答える121番。
使徒とは、女神に愛された直轄の戦闘員である。女神直々に奇跡を授けられ、平常時でも信徒を含む民の殺害が認められている十二人。
信徒の憧れでもあり、同時に畏怖の対象。
「兄さんカッコいい!!」
「だろ!!」
そしてこの白い箱庭の中では、羨望の対象であった。
それから121番と122番は死に物狂いで努力した。121番は122番に誇れる兄になるために。122番は121番の隣の立つために。
5年の月日が流れ、121番は青年と呼ばれる齢になり、122番は乙女と呼ばれる齢となった。
「凄いや兄さん!」
「だろ?俺だってお前のアニキだからな、やる時はやるのさ!」
121番の努力は実った。使徒になったのだ。
異例の若さで使徒となった彼を家族は持て囃し、羨望の眼差しと向けた。
そこには当然少女も含まれていた。
(私も頑張って使徒サマになって、早く兄さんの隣に立ちたいな!!)
彼女が優秀な兄を目指すのは必然だった。
少女は死に物狂いで努力した。
魔術で劣ることを知っていた。
だから交渉術を磨いた。
越えられない腕力の壁を痛感した。
だから色香で闘うことにした。
何も辛くなかった。
何も知らなかったから。
兄に追いつければそれでよかったから。
「次!121番!」
「はい!」
「拝命!第五席!!」
「はい!!」
そして少女は兄に追いついた。
(やったよ兄さん!兄さんと同じ使徒サマになったよ!!)
少女は、使徒となった。
なお、この時兄は牛乳を吹き出したと言われている。だって妹の階位が自分より上なんだもの。ビックリするわ。




