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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
テッテレー!!レベルが上がりました!
100/200

第24話 と筆者も思った:再

「分からない。。。?」




「・・・何で嫌なのか分からないんだ。」




じゃあなんでお前は嫌々言うんだよって顔してるペル。うん、その気持ちも分かるんだけどね、もうちょっと表情を取り繕ってくれ。傷つく。




「なぜか嫌なんだよ。この嫌に理由なんかないんだよ。」




「まあ、そういう感情は妾にだってあるし、抑えようのない激情も、理屈じゃない想いも、あるんじゃろうけど…。」




「けど?」


「いや、のぉ。。。」


「けどなにさ?」


口ごもるペルにもう一度尋ねる僕。




「坊がそんな感情を抱いているとはのぉ。。」




ペルは僕をなんだと思っているの?サイボーグか何か?


僕にだってそういう感情はあるよ。




「嫌ってだけで反対するような奴じゃなかったろ坊は。」




「そう、だったんだけどさぁ。。」




今まではそうだったんだよ。でも、今はどうなんだって言われると、はっきり答えられる自信がない。




「分かってるんだよ頭では。兄上の言っていることは正しくて、王族としては感情よりも結果の伴う非道を敢えて進まないといけない。好みで有効な道を避けることは怠慢だろう。王族ならば、例え悪道でも進む義務(・・)がある。」




国民が建前を信じるのは良い。国民が夢を見るのは良い。国民が盲目的に理想を追い求めるのは良い。正義に溺れても良い。自分達のお手手は真っ白なまま生きていきたいと思うのは良い。



その為の国だから。国民に夢と理想を信じさせるのが王族と国の仕事なのだから。



でも、僕達王族にそれは許されない。



正義に溺れて。夢に溺れて。理想に溺れて。その結果国民を殺すなんてわけにはいかないのだ。


僕らは理想と現実に折り合いを付けなければいけない。どちらかだけを見る訳にはいかない。両方を見て、擦り合わせて、可能な部分を抽出していかなければならない。



駄々を捏ねて道を選り好みする事は許されない。


そのために切り捨てなければならないこともあるだろう。それはきっと泣き叫ぶ国民かもしれない。家族かもしれない。赤子かもしれない。それは吐き気がするほど悍ましくて、自決してしまいたい程の道かもしれない。



けれどそれを選ぶ必要があるならば、それは(・・・)|選ばなければいけなく、《・・・・・・・・・・》|選ばれなければならない《・・・・・・・・・・・》。そしてその道を選ぶのは、王族で(・・・)なければいけない(・・・・・・・・)


そんな苦しい道を、民に選ばせるわけにはいかないのだ。

それが、王族としての責務だから。その為の特権階級なのだから。




「。。。。」




「でもさ、王族だってそんなの選ぶのは辛いんだよ。選ばなければいけないのだとしても、辛いんだ。」


「‥‥。」


「それが僕にとっては辛いんだ。僕には背負いきれないよ。耐えきれる気がしないんだよ。」



夢と現実の厳しいバランス。どちらかを軽視してもよくない。けれどどちらかに偏ってもいけない。そして偏り方に正解なんて無い。一秒一秒考えて、正解を手探りで調整しないといけない。その僕の一挙一動に、命が懸かっている。僕のミスでダース単位の人が死ぬ。



だからこそ、感情で、善悪と言う曖昧な基準で行動するわけにはいかない。数字という客観的な存在で判断していかないといけない。


きっとそれは、想像を絶するほどの苦痛と苦悩を齎すだろう。震えそうな孤独と重圧に苛まれこともあるだろう。けれども、それから逃げてはならない。


なぜなら王族だから(・・・・・)。王族とはそうあるべきだから。逃げないべきだから、逃げないのだ。


理解はしている。理屈も分かる。




でも、納得は出来ない。




嫌だと思う事を、なぜ選ぶんだ?

そんな立場に、なぜいなければいけないのだ?



王族(僕達)にだって幸せに生きる権利がある。王族(僕達)には感情がある。であるなのに、この湧き出る嫌悪感を無視しなくてはならない?どうして自分が不幸になる道を進まなければいけない?どうして自分から苦しまなければいけない?


それが王族としての義務だから?義務だから、自分の幸せを軽んじていいのか?義務が、僕の幸せを追求する権利を上回るというのか?


そんなのって‥‥ああ、そうか。


人生は、義務じゃないんだと。僕の人生は仕事じゃないんだと。

僕はそうきっと思っているんだ。



「だから、きっと兄上達のような生き方は嫌なんだ。」



彼等は、自分の気持ちに嘘をついて生きている。どれだけ残酷な道を選ぼうとも、王族だから選ぶのだと言っている。彼等だって嫌なことはあったはず。でもその気持ちを無視して、感情と善悪を無視する生き方が好きだと嘯いて。そうやって彼等は生きている。


王族だから。そうあるべきだから、そう生きるのだと。

王族だから選ぶのだと。民の代わりに苦痛を受けてあげるのだと。

そこに善悪も感情も存在しないのだと。


そうやって心のバランスをとっている。

そうやって義務を達成している。


彼等にとって人生は、仕事なのだ。


「‥‥だから嫌なんだよ。」



僕の人生だ。この生き様は僕だけのものだ。


僕の生き方に、心を蔑ろにする必要がどこにある?


どうして感情を無視して行動しなければならない?


自分の心を無視して生きるなんて、一体何の意味がある?


「自分の人生を、自分の為に。そう思ってはいけない理由は何なんだ。二人を見ると、僕は思わずそう思ってしまうよ。」


きっとこれは。これはきっと。


前世の記憶も関係しているのだろう。会社の為に休日を捧げて。尊敬もできない上司に従って。楽しくもない仕事に睡眠を削って。それが不幸だと気付けぬまま死んでしまったかつての僕。


覚悟も。生き様も。全てが違う。

それでも二人を見ていると、かつての自分が思い出さされる。


それが堪らなく嫌で。僕は二人の生き様を肯定できないのかもしれない。


「…そんな風に考えて疲れぬのか?」


僕に疑問を問いかけながら、彼女は慈しむかのように頭を撫でる。


「お主ら王族は、もうちっと人生楽しんでもよいだろうに。」


「それは違うよ、ペル。」


「何がじゃ?」


「十分楽しんでいるさ。王子だよ?贅の限りを尽くして生きているよ。それに、このような悩みを抱えられること自体が、贅沢なのさ。」


僕の言葉に苦笑いで返すペル。


「難儀な性格じゃのう。もっと何も考えずに生きれば良いのに。」


でも、と。僕は周りを見渡す。


ふかふかのベッド。暖かい部屋。高級な机の上には、芳しい香りのパンと栄養たっぷりのスープ。夜だというのに夜明けのように明るい照明のついた部屋。


平民がこれを得るのにどれだけの骨肉を捧げなければいけないのか。



権力、財力、才能、環境、名声。




王族という草臥れ疲れる身分を手にする代わりに与えられるものは、それもう莫大だ。民なら垂涎(すいぜん)ものだ。これが無くても生きていけると、こんなものいらないと思えるほど僕は自惚れちゃいない。




昔はこんなのいらないって見栄張っていたけれど、今ではそんなこと口が裂けても言えない。この与えられるものがなくちゃ、やってられないよ。




これだけの仕事なんだ。報酬ぐらいは夢を見たいんだ。




「そして王族と言う夢のような待遇を僕は楽しんでいるよ。」




「そういうわけじゃなくてのう。。。」




顔を暗くするペル。一体どうしたのだろうか。辛い仕事に見合った給与。それがきちんと与えられるのだから僕は不満無いよ。


少なくとも前世より百倍、いや億倍マシだ。




「それに何度もいっているじゃないか。」




「?」




宝石のような目をパチクリと瞬かせるさせるペル。




「僕は既に王族以上の報酬をもう手にしているんだよ。」




「なんじゃそれは?不老不死の妙薬とかか?」



それなんてラスボス。

…しかし参ったな。まだ伝わってなかったか。これは兄上姉上以上の難敵だね。




「ペルに会えて僕は本当によかったってことさ。」




そう言って僕は、ペルの頬に軽く口づけをする。



「これ以上の幸せはないんだよ。」



僕の言葉を聞いてペルはあんぐりと口を開け、僕の目を見る。



「だからそれはキモいて。」




「いいんだよそれでも。今はそれで。」




初恋なんだ。甘酸っぱく惨めに藻搔いて行こう。




「有難うペル。だいぶ心が楽になったよ。」



「どうでもいいが、もう菓子を食っていいか?」



「・・・・いいよ。」




台無しだよ。


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