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98話



《ダリアSide》


 真司と里香は、ダリアと三人で喫茶店にきていた。

 その帰り道。


「あ、あー! 忘れ物しちゃったなー!」


 里香が声を張り上げる。

 しかしそれは、忘れ物に今気づいた感はない。


 どこか、作為的めいたものを、ダリアは感じ取った。

 ちらちら、と里香がこっちを見ていることからも。


 多分秘密の相談事があるのだろうと、すぐにダリアは察した。

 このあたり、さすがは付き合いの長さといったところか。


「じゃ、あーしがりかたんと一緒に忘れ物取りに行くから、お兄ちゃんは先帰っててよ」

「えー? ぼくも……」

「いいからほら、先帰ってて。んじゃ」


 ダリアは多少強引になっても、義兄である真司を帰らせる。

 真司は不満そうだったが、素直に従ってくれた。


 ダリアは真司の、そういう素直なところを好ましく思っている。

 フリーだったら抱きついてキスしているところだろう。


 ま、しないのだが。

 さて、真司が離れて、声が聞こえなくなるくらいのタイミングで……。


「あのね、ダリア。忘れ物なんだけど」

「あーはいはい、なにかお兄ちゃんに聞かれたくない相談事あるんしょ?」


 ほえ? と里香が目を丸くしていた。

 あたりのようだ。


「どこで話す? またお店に戻る?」

「え、えっと……」


 多分そこまで長話にならないだろう。


「近くにベンチのある公園がありますが?」

「じゃ、じゃあそこで」

「ん。りょーかい」


 ダリアは記憶を頼りに、公園へと向かう。

 喫茶店あるくまと、自宅のあるマンションとの、ちょうど真ん中あたり。

 汽車のかたちをした遊具のある、大きめの公園へとやってきた。


 昼間だからか、親子連れがおおくみうけられる。

 ダリアはベンチを手ではらい、なおかつハンカチを広げて、里香が座れるようにする。


「はいどうぞ」

「あ、ありがとう……ねえダリア」

「なん?」

「どうやったら、ダリアみたいに気遣いのできる女になれるのかしら?」


 気遣い……できるだろうか。

 まあ人より空気は読めると自負はしている。


 ……だがそれは。

 たくさんの男達と、ふれあってきたからだ。


 彼女は援交していた過去がある。

 多くのおじさん、おっさんたちと、無理矢理会話して、お金をもらってきた。


 相手の望む会話や仕草は、そこから身につけた物。

 それを美徳とは……どうしても思えなかった。


 だからダリアは微笑んで、里香の頭をなでる。


「こんなの、身につけなくて言いよ。りかたんは今のままで可愛くて最高だし」

「でも……」


 多分真司のために、気遣いができるようになりたいのだろう。

 そう思うと微笑ましく……。


 また、胸の奥がチクリとする。

 里香と真司の仲をさくつもりも、邪魔するつもりも毛頭無いとはいえ。


 真司を思う気持ちが消えたわけじゃないのだ。

 だが彼女は真司への気持ちを押し殺し、ニコッと笑って言う。


「しんちゃんも、気遣いできるりかたんなんて望んでないよ」

「そ、そうかな……?」

「うん。そーだよ。今のりかたんが、お兄ちゃん好きだって思ってるもん」

「そ、そっか……えへへ♡ そっかー! ダリアは物知りだなぁ♡」


 無垢なる笑みを浮かべる里香に、憧れを抱くダリア。

 自分も汚れていなかったら……真司が愛してくれただろうか。


 いや、そうでなかったらそもそも真司と出会い、こうして幸せになれていなかったのだから。


「人生ってままならぬもんですなぁ」

「ほえ?」

「んーん。なんでも。それで? ダリア姉さんに何か秘密のご相談ですか?」


 こくん、と里香がうなずいていう。


「あのね……しんちゃんに、バレンタインのチョコ、作ってあげたいの」


 

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