96話 紛れもないバカップル
ぼく、ダリア、里香の三人は喫茶店に来てる。
駅前にあるとてもいい雰囲気のお店だ。
「モカパフェおまちどさまです~」
ロシアンマフィアみたいな店員さんが、ぼくらのテーブルにパフェをおいてくる……。
「な、な、なにこれぇ……!?」
里香が驚愕の表情をする。
ぼくも驚きだ。唯一、ダリアだけが「あーあ」とため息をついた。
「し、しんちゃんどうしよ~……こんな大きいなんて思ってなかったわ」
里香のおっぱいくらい、大きいパフェだ。
セクハラかな? うん……セクハラだなうん。
手のひらくらい大きい器のなかには、ぎっしりとバニラアイスが、底まで敷き詰められている。
バニラアイスの上にはホイップクリームが山のようにのせられ、そこにモカアイスが親の敵のごとく積み重ねられていた。
「しかもパフェなのにアイスばっかり……!」
「夏ならいいけど、今は冬だしねぇ」
「うわーん、どうしたらいいかなーしんちゃーん」
……あれ?
あんまり困ってる様子、ない?
なんか里香、ちらちらこっち見てる。
え、これ……甘えてきてる?
「しょうがいないなぁ、じゃー、一緒に食べようか」
「えー! いいのー!」
里香がすごい笑顔になる。
ああやっぱり。
こうしたかったんだね。
ダリアに注文前に言われていたのだ。
なんか量やばいって。
その上で頼んだのは、一緒に食べたかったからだろう。
はじめからそう言えばいいのに……まったく……。
「じゃあしんちゃん、しんちゃん♡ はい、あーん♡」
スプーンでモカアイスとクリームをたっぷりすくって、ぼくに差し出してくる。
一口食べると……うん、おいしい。
モカアイスはほろ苦さと、クリームの甘さが合わさって、ちょうどいい甘さになっている。
アイスもクリームも濃厚でおいしい。
「じゃあ、はいしんちゃん!」
「え……同じスプーン?」
里香が、今使ったスプーンをぼくに渡してくる。
そんな……!
「あ、新しいスプーン頼もうよ?」
「だーめです♡ これ使ってくださーい」
「そんな、不衛生だよ。ぼくが使ったスプーンを」
スプーンを手に取って、一口すくって、里香に突き出す。
「こんなふうにシェアするなんて……。はいあーん」
「あーん♡ ん~♡ おいちー♡」
里香が目を閉じて、ぱたぱたとバタ足しながら、ぼくからスプーンを奪い取る。
そんで、またすくって、ぼくにスプーンを出してくる。
「里香、やっぱり新しいスプーンもらおうよ」
「あーん♡」
「あーん」
ぱくり。
「おいし?」
「うん、おいしー」
えへへとぼくらは笑う。
いやいや、でもやっぱり不衛生だ。
「新しいスプーンをもらわないと」
「あーん♡」
「はい、あーん」
そんなやりとりを見て、ダリアが疲れたようにため息をつく。
そこへ、ロシアンマフィアの店員が、新しいスプーンを持ってやってきた。
「はい、こちらスプーンをお使いください」
「あ、スプーンは結構です。この人ら、バカップルなんで」
苦笑しながら、店員さんが帰っていく。
いやいや。
「「バカップルなんてそんなそんな」」
「どう見てもそうでしょ。もう……」