92話 ギャル義妹は面接に行く
上田真司が、熱海から帰ってきた、あくる日。
真司の義妹ダリアは、さっそくバイト探しをしていた。
と言っても、前のように体を売ったり、危ないことをしたりはしない。
ちゃんと働いて、ちゃんとした方法でお金を稼ぐのだ。
さて、やってきたのは、駅前の喫茶店。
喫茶【あるくま】。ここは高校生のバイトOKと求人が出ていた。
真司達のマンションからもほど近いし、駅前だし、時給も良い。
「よし……頑張るぞ。お兄ちゃんと、りかたんのためだっ」
ダリアは喫茶店のドアを開ける。
「いらっしゃぁ~い♡」
……ダリアは喫茶店のドアを閉めた。
「……? あーし、疲れてるのかな……? ロシアンマフィアがいたような……」
もう一度、ダリアはドアを開ける。
「いらっしゃぁい♡」
「…………」
「ああん、待って待ってお嬢ちゃん。あたくしはロシアンマフィアでもなんでもないわよぉん」
「は、はぁ……」
やばい、変な人がいる。
見た目が完全にロシアンマフィアなのに、お姉みたいなしゃべり方をしてるのだ。
胸には塩尻というネームプレート。店長だろうか……?
「あらん? あなた、どっかで会わなかったかしら?」
「?」
「ほら、こないだ熱海で」
「あっ! あのときの……料理人さんじゃん!」
こないだ熱海旅行に行ったとき、贄川家の次男、次郎太とともに、料理を作っていた巨漢だ。
「偶然ねえん」
「そ、そうですね……」
「それで、今日はどうしたのかしらん?」
そうだった。このロシアンマフィアのインパクトのせいで忘れていたけど、ダリアは今日、バイトの面接に来たのである。
「実はバイトを……」
「採用!」
「え!? は、早くないですか……?」
にこっ、とロシアンマフィアは笑って言う。
「目を見ればわかるわ。あなたは綺麗な目をしてる。自分のためじゃない、誰かのタメにお金を稼ごうとしてるのね」
「! そんな……わかるんですか?」
「わかるわん。たくさんのバイトさん観てきたからね」
ぱちん、とウインクするロシアンマフィア。
悪い人じゃ……なさそうだ。
ダリアは背筋をただして、頭を下げる。
「上田ダリアです。よろしくお願いします!」
「塩尻サンプロ有勝です♡ よろしくね、ダリアちゃん」
こうして、ダリアは喫茶店でバイトすることになったのだった。




