83話 夜の海を君と
熱海旅行初日。
緊張してるぼくらは、気分を沈めるため、夜の街へと繰り出していた……表現……。
「熱海ってほんとに海近いのね」
ゆっくり歩いて、気づいたらぼくらは海にやってきていた。
「ほんとだねぇ」
夜の海はなんというか、神秘的だった。月明かりだけが海面を照らしている。
夜の闇のなかでは、どこからが海で、どこからが砂浜なのか、わかりにくい。そのまま闇がどこまでも続いてるようだ。
ともすれば、怖い、暗い世界。
でもぼくは、まったく怖くなかった。
左手から伝わってくる、里香の体温が、ぼくに安らぎを与えてくれる。
「きれいだねぇ」
「あら、それってアタシのことかしら?」
「うん」
「う゛……そ、そこは……ストレートにうなずかないでよ。はずいじゃん……」
「なんで? 里香は綺麗だよ」
「そ、そか……」
「うん」
にぎにぎ、とぼくらは手を握る。指を絡める。ぎゅっ、と強く握ってくるので、、強く握り返す。
「結局さっきのきれいだねぇって何のこと?」
「夜の海がだよ」
「なーんだ」
「それと里香が。ダブルミーニング」
「も、もう……えへへ♡」
里香がぼくにもたれかかってくる。
距離がドンドン近くなっていることに、うれしさを覚えるようになったのは、はていつからだったろう。
……思えば、小学生の時からだったかもしれない。里香と一緒に遊んでいたあの頃から、ぼくはずっと彼女が好きだった。
「好きだよ」
「ぅえ? きゅ、急にどうしたしんちゃん……」
「うん、好きだなぁって思ったの」
「思ったことすぐ口に出すんだから……もう」
「里香は?」
「う、うん……好き……」
「じゃあ、あれだ。お互い好きってことで」
ぼくらは微笑む。月明かりに照らされるだけの、真っ暗な世界で。
どちらからともなく、顔を近づけて、そしてキスをする。
お互いが見えていなくても、お互いを感じられている。なんというか、好きだなぁって、そう思った。