64話 海
1月下旬、ぼくらは試験休みを利用して、熱海に遊びに来ている。
昼食を食べた後、ぼくらは宿へ戻る前に海を見ていくことにした。
贄川さんに運転してもらって熱海の海岸までやってきたぼくら。
「海ー!」
恋人の里花が目の前の光景を見て両手を挙げる。
今日はよく晴れている。海面に反射した光が里花を照らしている。
……クリスマスにあったときは、金髪だった彼女の髪の毛。
だが今は結構黒い部分が増えてきている。プリンみたいだ。
……でも、光を受けて輝いているように見える。きれいだ……。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
つんつん、とダリアがぼくの脇腹をつつく。
「思ってること素直に口にしてあげなって」
にまーっと笑うのは、義妹のダリア。
諸事情あってぼくの妹になったギャルだ。
「きれいだって?」
「そうそう」
「なんか照れくさくて……」
こう、面と向かって綺麗って言うの、恥ずかしくない? どこの陽キャだよって。
「りかたーん、お兄ちゃんがりかたんが世界で一番きれいだって!」
「ちょっ! ダリア! なんてことをっ!」
「へたれお兄ちゃんのために、恋のキューピットでございます」
によによと笑うダリア。絶対楽しんでるやつこれ!
「きゃー! つめたーい!」
気付けば里花は波打ち際までひとりでいってた。
靴を脱いで裸足になり、海に足を付けている。
「えー? なにー?」
はしゃぐ里花をよそに、ぼくらは苦笑する。
ふたりで里花の元へと向かう。
「やっぱり海は良いわね!」
「りかたんどうして海好きなの?」
「アタシほら小学校の時、長野に引っ越しちゃったでしょ?」
元々里花は都会の子だったんだけど、両親の離婚をきっかけに、こないだまで長野にいたんだよね。
「なるほど、海は珍しかったからだね」
「そういうこと! はー、海いいなぁ。冬じゃなかったら泳いでたのに~」
晴れてはいるといえ、今は1月。
海にはいったら普通に凍え死んでしまう。
「ぼくも里花と海に入りたいな」
「でしょー! じゃ、しんちゃんとダリアと三人で、また来ましょ! 夏に!」
笑顔の里花がまぶしくて、ぼくは……。
「うん、きれいだなぁ」
って素直に口に出してしまう。
すると里花は目を丸くして、ぼっ、と顔を赤くした。
「な、なによぉ~……もぉ……急に……そんな……きれいだなんて……」
照れる里花はかわいい。けれど……なんだかぼくも照れてしまう。顔が熱い……まともに見れない……。
「え、なに? ビーチでやっちゃう~?」
「「やるってなにを(だ)よ!」」
そ、そんな! あ、あお……あれなんて! できるわけないじゃん!
「ビーチバレー♡」
「「ああ……そっち……」」
ダリアがニヤニヤ笑いながらぼくらに言う。
「えー、何と想像しちゃったのふたりとも? ん? ダリアお姉さんにいってみ? いったみ~?」
くっ! ダリアめ。イケナイ子だ!
お兄ちゃんをいじめるなんて!
「本番はほら、人気が無いとこでしよーね。初めて外とかレベル高すぎるから、りかたんがたえきれん。な?」
「ふきゅう~……」
里花がその場に崩れそうになる。
濡れたら大変だったので、ぼくが慌てて支える。
「あらら、想像だけでダウンだなんて、ギャルな見た目に反して、りかたんはうぶだねえい」
「わかっててやったでしょ」
「うん♡」
「もう……」
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