62話 お昼ご飯を三人で
二月、熱海にやってきたぼくと恋人の里花、そして義妹のダリア。
三人で海が見えるお店へとやってきた。
「おまたせしましたー」
「「「わぁ……!」」」
ぼくたちの前には、魚を使った料理が置かれる。どれも美味しそう……。
「うまそー」
ぱしゃぱしゃ、とダリアがスマホを使って写真を撮っている。
「ほんとねー」
ぱしゃぱしゃ、と里花もまた写真を撮っている。
「え、なにそれ?」
お昼ご飯の写真をどうしてとるのだろうか……。
「いつ何を食べたのか、あとで思い返せるようにだよ、お兄ちゃん」
「ああ、なるほどそういう……」
これもまた思い出か。
ぼくも撮っとこ。
「お兄ちゃんは素直だねえ」
「そう?」
「うん。男の人って自分が正しいって思ってる人が多いからさ。周りの意見を聞かないって人多いし。でも……お兄ちゃんは違うね。柔軟性があるって、結構ポイント高いですぞぉ~?」
ニヤニヤと笑いながらダリアがぼくに言う。
最近わかったけど、うちの義妹がこうやって笑ってるときは、ほぼ100でからかってくるときだ。
「よかったね、りかたん。素敵な彼氏で」
「う、うん……そ、そうね……」
顔を赤くしてうつむく里花。ダリアは面白いおもちゃを見つけたみたいな顔になる。
「彼氏褒められて、うれしくなっちゃったのかな~?」
「う、あ、あ、え、な、なによ……わ、わるい!?」
「耳まで真っ赤にしちゃって~。うぶだのぉ、お兄ちゃんの彼女は~」
つんつん、とダリアが里花の耳をつつく。
更に真っ赤にして、体を縮める里花。
「はいはい、ダリア。里花いじりはそれくらいにしてね」
悪気ゼロなのはわかってるので、ぼくは怒ることはしない。楽しい雰囲気に水を差すのは駄目だと思ってるけど、うちの彼女はあんまりいじりすぎるとショートしちゃうのである。
「まったく君の彼氏は、ほんとに彼女思いだのぉう」
「ふ、ふへへぇ……♡ でしょぉ~……♡ だいすきなんだぁ~……えへへ♡」
ふにゃふにゃと笑う里花。これが他人だったらぼくも恥ずかしがっただろう。でも隣に居るのが、義妹のダリアだからね。
「ささ、ごはんたべよーぜ~♡」
ダリアがそう言うと、ぼくらはご飯を食べる。
それぞれ異なっている。
和風の焼き魚のぼく。
魚介のパエリアを頼んだのは里花。
ダリアはお刺身定食。
「結構何でもあるんだね」
「だねえ~♡ あ、お兄ちゃん、一口ちょうだい?」
「うん、いいよ」
ダリアに焼き魚を渡す。
「んー? ありがとー。りかたんはいいの?」
「うえ!? そ、そうね……ほ、欲しい……かなぁ……」
ダリアは、サポートがうまい。自分でぼくから貰うことで、里花が一口貰う流れを作っている。
「ちゃんと彼氏に言わないとほらほら。上目遣いで、物欲しそうに……あなたのぶっといのちょうだいって」
「あ、あなたの……ちょ、う、うー! 言えるかー! ばかー!」
ぽかぽかと里花がダリアの肩を叩く。でも別に力は入れてない。じゃれてるのと同じだ。仲の良い姉妹みたいで、ぼくはそれをやってるときの里花と、ダリアの笑顔が好きだ。
彼女はダリアと居ると凄く楽しそうに笑う。里花の笑顔は好きだ。ダリアもまた、釣られて笑う。そのときの彼女は、大人びた雰囲気を忘れて、ただの女の子に戻る。
ぼくは二人が幸せになって欲しいと思う。里花が貧しくて、苦労したことも知ってるし、ダリアが黒い過去を背負ってることも知っているから。
「なに縁側おじいちゃんみたいになってるのさお兄ちゃん」
「そーよ。ほら、分け合いましょ」
「だね」
ランチが3種類あって、ぼくらはそれぞれ別のものを頼んだ。
同じものを頼もうとしたけど、正解だったと思う。
「刺身うま!」
「焼き魚うま! 醤油いらないじゃん!」
「パエリアも最高だよ」
ぼくらはそれぞれ、分け合って食べる。思い出を、時間を共有するようにして。いつかこの日の思い出を、料理の味とか、写真とかで振り返る日が来るのだろう。
そのときに、彼女たちにも同じ思いがあるのは……なんだか、素敵だなってそう思いながら、お昼ご飯を食べるのだった。
【★お知らせ】
新作の短編、書きました!
「Sランクパーティの器用貧乏な俺は追放され、念願だった国家錬金術師となり、田舎で店を開きたい」
https://ncode.syosetu.com/n7507hp/
よろしければ是非!
広告下にも↓リンク貼ってあります!