59話 熱海旅行、同じ部屋にて
ぼく達は試験休みを利用して、熱海に旅行に来た……。
けどなぜかぼくは恋人の里花と、同じ部屋に泊まることになって……。
うう……。
「「…………」」
ぼくたちがいるのは、ホテルの部屋の前。
里花もぼくも動けないで居る。
「「あの……」」
「「ど、どうぞ……」」
緊張しているのが、里花の声から伝わってくる。
彼女は顔を真っ赤にして、何度もチラチラ、とぼくの表情をうかがってくる。
こっちも同じだ。
彼女がどう思ってるのか気になりすぎる。
目が合うと、慌てて目をそらす……もう何度目だよ……。
「…………」
里花とおんなじ部屋で、寝泊まりする。
恋人と初めての旅行で、しかも同じ部屋。
……何も起こらない、わけがない。
親も友達も居ない、二人きりの空間に、恋人と一緒に泊まることに対して、抵抗はない。
ただ……恥ずかしいというか……。
「あら、なーに二人とも~」
「ダリア」
自分の部屋からひょこっと、義妹のダリアが顔を出す。
部屋の前で立ち往生してるぼくらを見て、あきれたように息をつく。
「やれやれ、りかたん、かもーん」
ちょいちょい、とダリアが里花を手招きする。
ぼしょぼしょ……と、里花がダリアに耳打ちする。
ダリアは苦笑すると、今度は里花に話す。
「だいじょうぶ、りかたん。がんばって」
「……うんっ」
里花は意を決したようにうなずくと、ぼくのもとへ来る。
「しんちゃん」
「は、はい……」
「入りましょ?」
彼女が手を引いて、中に入る。
ぼくは里花に誘われて部屋に足を踏み入れた。
「…………」
ぱたん、と扉が閉まる。
部屋の間取りとか、室内の様子とか……よくわからない。
ただ、目の前に居る可愛い彼女に目が行ってしまう。
手をつないでいる状態で、ぼくらは玄関先で立っている。
「緊張、してる……?」
里花が唐突に聞いてきた。
「あ、当たり前……だよ」
大好きな人と、密室で二人きりなんだ。
妙な気を起こしそうになるし、そんなことして、彼女に拒まれたらどうしようって不安にもなるし……。
すると里花が微笑む。
「良かった」
「良かった?」
「うん。ダリアの言ったとおりだった。しんちゃんも緊張してるのね」
里花がぼくの手を握ったまま、自分の胸に押しつけてくる。
「ちょっ……!? り、りかぁ……!?」
きゅ、きゅ、急に!?
まだついたばっかりなのに……ああ……。
「ね、しんちゃん……伝わってくる? あたしの……どきどき……」
あ、アア……そういうことか……。
確かに、手のひらから、里花のはげしい鼓動が伝わってきた。
よくよく見れば、彼女の手もじんわりと汗でにじんでいる。
「えへへ……♡ 恋人と同じ部屋なんて、緊張して、ドキドキしちゃってます」
「そ、っか……同じだね」
「うん♡」
……里花の鼓動を感じてると、すごい落ち着いてくる。
なんでだろう……?
自分と同じく、緊張してる人を見ると、緊張がほぐれるから?
いや、違う。
里花もまた緊張していてくれたからだ。
ぼくだけの一方的な感情の暴走じゃなかった。
そうだよ……当たり前だ。
大好きな人と二人きりになったら、誰だって緊張する。
それに緊張してくれてるってことは、里花もまた、ぼくを強く思ってくれてるってことだ。
拒むわけが、ないじゃないか。
彼女が、ぼくを。
「そ、そろそろ……いいかな。さすがに……恥ずかしくなってきた」
「あ! ご、ごめんんぅう!」
里花のおっぱいから手を離す。
ふーふー、と里花が深呼吸した。
「そういうのは……さ。暗くなってからが……いいなぁ……」
「! り、里花……」
赤い顔をして、彼女がぼくを見上げてくる。
い、今のってもしかして、せ、セックスのこと……?
「…………」
こくん、と里花がうなずいた。
か、彼女も期待してくれてるんだ。ぼくと……一夜を、過ごすことを。
「里花……」
「しんちゃん……」
こんな可愛い女の子が、ぼくを受け入れようとしてくれている。
潤んだ目で、顔を赤くして、はにかんでいる彼女がかわいくて……。
ぼくは……思わず肩に手を置く。
「あ……」
驚いた彼女だったけど、
「ん……♡」
小さくうなずいて、目を閉じ、唇を突き出してくる。
ぼくはそのサクランボみたいな唇に、自分の唇を……。
『もしもーし』
「「おわ……!」」
そのときドアの向こうからダリアの声が聞こえてきたのだ。
『良い雰囲気じゃましてわるいけど、そーゆーのは夜にね~』
「「わ、わかってるよっ……!」」
とりあえず、ぼくらは荷ほどきをして、ダリアと合流することにした。
【★お知らせ】
昨日の短編が好評だったので、連載版、投稿してみました。
→ https://ncode.syosetu.com/n7299hm/
広告下↓にもリンク貼ってますので、よろしければぜひご覧ください。