51話 後始末と仲直り
数日後。
上田 真司のマンションにて。
「ダリアーーーーーーーーーーーーー!」
真司の恋人・松本 里花が走ってくる。
マンションのリビングには部屋着に着替えたダリアがいた。
「りかたん……」
ダリアのその豊かな胸の中に里花が飛び込む。
「ダリア、大丈夫っ? 大丈夫なのっ?」
里花が本当に心配そうにダリアを見てくる。
クズ大家との一件から数日。
彼女は役所へ行ったり、引っ越したり、病院で検査したりと、忙しかった。
里花には既に、ダリアの無事を真司が伝えていた。
……だがダリアと顔をつきあわせて言葉を交わすのは、数日ぶりだ。
「なんでもっと早く顔出してくれないのかなっ!」
「それは……」
里花に会おうと思えば会えた。
だが忙しいから、と……会うのを避けていたのだ。
「まあまあ、里花。忙しかったんだよ。ね?」
真司がフォローを入れてくれる。
真司は、あらかじめダリアから聞いてるため、知っている。
ダリアが里花に対して負い目を感じていることを。
「ごめんねりかたん。心配かけて」
「ほんとよっ! すっっっっごい心配したんだからぁ……」
里花がぐすぐすと鼻を鳴らす。
よく見れば、親友の目の下には隈ができていた。
多分すごい不安で、眠れなかったのだろう。
……本当に、申し訳ないことをした。
「でも……ダリアが無事で良かった……」
心からの安堵の表情を浮かべる里花。
ダリアは愛おしい気持ちに包まれ、心が温かくなる。
……だがどうしても、抱き返すことができなかった。
ややあって。
「それでしんちゃん、あのあと何があったのか、ちゃんと説明して」
真司達はソファに座って話している。
あのあと、とはクズ大家との一件があったあとのことを差しているのだろう。
「大家は、捕まったよ。詳細は省くけど、もうこれ以上、ダリアが苦しむことはなくなったみたい」
ほぉ……と里花が安堵の息をつく。
「でも……ダリア大丈夫なの? その……親がネグレクトしてるって。学校とか、生活費とか……」
ダリアは両親が離婚し、母親はネグレクト状態。
ダリアが体を差し出し、エンコーなどの仕事をすることを条件に、学費・生活費はあの捕まった大家が払っていた。
だが大家がいなくなった以上、ダリアが生活していく上でのお金が無い状態にある。
「あ、そこは問題ないよ。ダリアは今、ぼくの妹だから」
「は……?」
ぽかーん……と里花が口を大きく開いている。
「い、今……なんて?」
「だから、ダリアは戸籍上、ぼくの妹ってことになってるんだ。上田 ダリア」
「え、えええええええええええええええええええええええ!?」
自分の口からは中々言いづらいことを、真司が言ってくれてダリアはほっとする。
「どどど、どういうこと!? ダリアがしんちゃんの妹って!」
「養子縁組って知ってる?」
真司はいきさつを説明する。
ダリアと真司は他人同士だ。
彼女を養うための大義名分が存在しない。
そこで真司が提案したのは、ダリアが上田家の養子になること。
「本当はぼくの養子ってことにしようとしたんだけど、ぼくの父さんと母さんが、それは早いって」
「あったりまえじゃないの! その歳でパパだなんて……あ、でもそうすればダリアは娘になるわけかぁ……」
「え?」
「な、なんでもないわっ! もうっ!」
顔を真っ赤にする里花を見て、内心ほっとする。
拒否反応を示されるかと心配ではあったからだ。
「あれ? でも養子になるっていうけど、ダリアのお母さんはまだいるのよね? 賛成したの?」
「うん。なんか【不自然なくらい】あっさり快諾された」
……ダリアは思い出す。
とても久しぶりに見た母。
彼女は青い顔をしてガクガクと震えながら、ダリアに土下座した。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! もう二度とダリアの前には現れない! だから許して! ごめんなさぃいい!』
……何があったのか、真司はダリアに教えてくれなかった。
知ってて黙っているのか、それとも、ダリア同様、そもそも知らないのか……判然としない。
だが母が了承したことで、ダリアは晴れて、上田の家の子供となった。
「今はダリアうちで一緒に暮らしてるんだ。学校も今まで通り通えるよ」
「そ、そっかぁ……」
里花がほぉ……っとまた息をつく。
「よかった!」
なんてまぶしい、光みたいな笑みを見せるのだろう。
ずきん、とダリアは胸に痛みを覚える。
……やはり、言っておきたい。
里花には自分の口から。
……真司が、好きであることを。
彼に告白をしてしまったことを。
「……あ、あのね、りかたん」
「ん? なぁに?」
でも……怖い。
さしもの里花でも、自分の彼氏を好きになったとしったら、許してくれないかも知れない。
だってこれは、明確な裏切り行為なのだから……。
「大丈夫、ダリア」
真司が後ろから肩をぽんっ、と乗せてくれる。
「里花は良い子だもん。話せばわかってくれるよ」
「シンジくん……」
真司の言葉に、ダリアは勇気をもらう。
「あ、里花。ダリアがちょっと二人で話しあるんだって。ぼく、外出てるね」
「え、あ、うん。わかった」
真司はダリアの肩をまたぽんぽん、とたたいて部屋を出て行った。
女同士のほうが、話しやすいと思っての配慮だろう。
やっぱり、怖くはある。
これから里花に言った言葉で、彼女を傷つけてしまうかもしれない。
ののしられるかもしれない。でも……。
ここで逃げたら、自分を勇気づけてくれた、真司に、申し訳が立たない。
ダリアは意を決して前を向く。
「……あ、あの、あのね……りかたん。今まで……黙ってたこと、あんの。聞いてくれる?」
こくん、と里花がうなずく。
彼女もダリアの真剣な表情から、本当に大事な話なのだろうと察していたようだ。
「あーし……ね。シンジくんのこと……好きなんだ。兄として、じゃなくて……男の子として、大好きなの」
ダリアは語る。
もうそこそこ前から真司のことを気になり始めていた。
気づいたときには彼に夢中になっていた。
「……ごめん、ごめんね……りかたん……」
里花の顔がまともに見れなくて、ダリアはうつむく。
「あーし……最低だ。君が、シンジくんのこと好きで、愛してるって知ってるのに……好きになっちゃって、そのこと、ずっと隠してて……ごめんなさい……」
どんな罵倒も受け止めよう。
裏切っていたのは事実なんだ。
これで友情が途絶えても……。
そのとき、ふわ……と里花が自分を抱きしめてくれた。
「謝らないで、ダリア」
「りかたん……」
里花が切なそうな顔で、ダリアを見てくる。
「薄々……わかってたから。あなたがしんちゃん、好きなんだろうなって」
どうやら察しがついていたらしい。
「い、いつから?」
「んー、誕プレ選んでくれてたころ、かな」
そんな前から……。
でも……それはおかしい。
「じゃ、じゃあ……あ、あーしが裏切ってるの知ってて、なんで普通に接しててくれたの?」
誕プレの件があってから今日まで、時間が空いていた。
それでも里花は変わらず友達で居てくれた。
「何言ってるのよ」
里花が微笑んで言う。
「アタシとダリアは、親友でしょう?」
友達の言葉に、ダリアは涙を流す。
その間里花がよしよしとあたまをなでてくる。
「このくらいじゃあなたのこと、嫌いにならないわ」
「でも……でもぉ……。シンジくんはりかたんの彼氏でぇ……」
「女の子が素敵な男の子を好きになっちゃうのは、しょうがないわ。しんちゃんかっこいいし、頼れるし」
全面的に同意だ。
今までたくさん男を見てきたけれど、真司以上に素敵な男の子はいない。
「他の……よく知らない女の子が、しんちゃんのこと好きになるのは……いやよ。でも……あなたならいい。知ってるモノ、ダリアが、アタシとの友情を大切にしてくれてたこと」
真司とのデートで、完全に、真司とは関係を切るつもりだった。
里花と真司の邪魔をしないために、身を引こうとした。
そこすらも……お見通しのようだ。
「あたしはしんちゃんが好きよ。でもダリアのことも……大好き」
里花の顔を見れば、わかる。
その澄んだ瞳に陰りはない。
本心から、自分のことを好いてくれている。
裏切っても、嘘をついていたとしても……。
隠し事をしていたとしても……。
彼女は、本当に自分と友達で居てくれる。
「う……うぅ~……」
……何もない人生だと思っていた。
運にも親にも見放された、何もかもがない……最低最悪な人生だと。
……あーしは、バカだ。
ダリアは涙する。
こんな素敵な友達が……自分にはいたというのに。
「あたしは大丈夫だから。気にしなくて良いから。ね? 今までもこれからも、ずっと友達でいて?」
こくこく、とダリアは何度も涙を流す。
そして……。
「ありがとう、りかたん。あーしも……君が大好きだよ!」
ダリアの表情にはもう一点の曇りもない。
彼女が抱えていた闇は、すべて、取り除かれた。
外的な問題も、内的な問題も。
結局のところ、彼女を闇から救い出してくれたのは。
愛する男性……大好きな兄……真司がいてくれたから。
ありがとう……とダリアは何度も言う。
彼に、ありがとうって。
何度も何度も。
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