50話 クズ大家の末路
上田 真司が友達、黒姫 ダリアを救出した。
その翌日。
ダリアの住んでいるマンションの大家はというと……。
「ぐ、ん……ここは……?」
大家はぼんやりとした意識の中覚醒する。
そこは、自分の持つマンションの一室だ。
「おれは……たしか、そうだ。ダリアのやつが楯突いてきやがったんだ!」
ゆっくりと昨日の事を思い出す。
ダリアが仕事を辞めたいとぬかしていた。
もちろんそんなのは許さなかった。
そしたら、謎の黒づくめ集団が乱入。
大男に頬を思いきり殴られた。
「いてっ! ちくしょお……顔がいてえ……」
洗面所へいって、鏡を確認する。
左の頬が陥没していた。
ぐーで殴られたあとが、ありありと残っている。
「ちくしょおぉ! あいつらなんだよ! 今度あったらぶっ殺してやる!」
素性がわからないからこれ以上なにもできないが。
「しかし……くそ、ダリアのやつ調子乗りやがって。あのメス豚がよぉ……」
その目にはどす黒い怒りの炎が見て取れた。
「女の分際でおれに逆らいやがってぇ! 見てろよあのくそ女。あいつの写真全部ばらまいてやる!」
こちらには、ダリアが他の客とやっているときの画像や動画がたんまりと持っているのだ。
「ひひ! ネットに流出させてやるぜぇ……」
大家はポケットからスマホを取り出す。
ロックを解除して、画像を確認しようとして……。
「あれ? おっかしいな……ダリアの画像も動画も、見当たらねえ」
【おかず】用に保存していたはずの、スマホ内の画像がないのだ。
それどころか、ダリア以外の女のも、ない。
「っかしいな。まあ、パソコンにバックアップとってあるから問題ねえか」
しかしパソコンのフォルダーをいくらさがしても、取ってあったデータが全て、紛失していたのだ。
「なっ!? ど、どうなってやがる……!」
と、そのときだった。
ぴんぽーん……♪
「んだよ、こんな忙しいときに!」
大家は玄関へと移動。
……おかしい。
ドアは謎の黒男集団たちによって、破壊されたはずだった。
しかしきれいに元通りになっている。
ぞくっ!
写真がなくなったことといい、嫌な予感が頭をよぎる。
『警察だ! 出てきなさい! 王滝 馬司鹿!』
「なっ!? け、けーさつだとぉ!?」
ありえない、なんで、警察がここに!?
『未成年との淫行疑惑が貴様にはかかっている! おとなしく出てきなさい!』
「そんなバカなぁ!?」
未成年との淫行。
確かに、自分はおこなった。
ダリアだけじゃない、彼女と同じような、不幸な境遇の女たちとやり、またダリアと同じように無理やり働かせていたのだ。
それが、ばれた。
本来ならばれるはずがなかった。
彼女たちを写真や動画で脅していた。
さらに自分の背後には、反社会団体がついていた。
彼らがいれば自分は安泰であるはずなのに!
『出てきなさい!』
「くそ!」
とにかく見つかるわけにはいかない。
そう考えた大家は、スマホと財布を片手にベランダへ出る。
ここは幸いにして1階。
生垣を超えてすぐ逃亡するが……。
「いたぞ!」
「なっ!?」
かなりの数の警官が、大家のマンションを取り囲んでいたのだ。
「おいおいおいおい! なんだよ! なんだよこの数はぁ!?」
まるでテロリストを捕まえるほど、大量の警察官たちが周りにいた。
「くそ! くそぉ!」
必死になって大家は逃げる。
この辺に詳しい彼は抜け道を知っていた。
あわや逮捕されるというところで、何とか逃げおおせたのだが。
「ひっ! へ、ヘリまで!?」
警察のヘリが上空を飛んで行った。
ありえない事態に戸惑うしかない。
「や、やばいやばい! 【上】の人らに守ってもらわないと!」
裏家業の元締めである団体に電話をする。
だが一向に電話がつながらない。
「どうなってんだくそ!」
近くにその団体の事務所があったはずだ。
まずはそこへと逃げることにしよう。
そう思って逃亡したのだが……。
「なぁっ!?」
事務所の周りにもまた大量の警察官が押し寄せていた。
事務所から構成員が出てきて、パトカーに連行されていく。
これで、自分を守ってくれる組織が消えた。
「どうなってやがる……どうなってやがるんだよぉお!」
「! いたぞ!」
「ひぃいいいいいいい!」
またしても逃げる、大家。
彼は逃げた。
逃げた、逃げて……。
裏路地に一人、壁に背を預けてしゃがみ込んでいた。
「はぁ! はぁ! くそぉ! なんだよこれはよぉおお!」
今日までうまくいっていたはずだった。
だがなぜか知らないが、すべてが瓦解した。
搾取相手も、自分を守ってくれる存在も、なにもかも。
PRRRRRRRRRRRRR♪
「ひっ!? な、なんだぁ……?」
非通知で電話がかかってきたのだ。
恐る恐る電話に出てみる。
『貴様が王滝……いや、大家か』
聞いたことのない、老人の声だった。
「何だよてめえ!」
『貴様のような屑に名乗る名は持ち合わせておらん』
「ああ!? 爺のくせに調子乗ってんじゃねえぞ!」
『ほぅ……威勢がいいな。だがいいのか? 周りを見てみろ』
周囲を黒服たちが包囲していた。
「なっ!? い、いつの間に!?」
よく見れば、先日自分の家に強襲した男たちではないか。
『貴様は愚かにも、わしの大事な孫の【妹】に手を出したのでな』
「い、妹だと……?」
『まあ、今から捕まる貴様には何も関係のないことだがな』
警察関係者が黒服たちの脇をとおりすぎて、大家を確保する。
「くそ! 離せ! 離せぇえ!」
落ちたスマホから老人の冷たい声が響く。
『ああ、貴様が関わっていた黒い部分は、わしが全て消しておいたから安心するが良いぞ』
先ほど反社会団体の事務所が、警察に捕まっていた。
あれもこの老人が仕組んだことなのか……?
『しかるべき法の裁きを受けてくるが良い。もっとも、運よく外に出れたとしても、貴様に社会的な居場所が、あると思わない方がいい。わしが生きてる限り、貴様は絶対に許さん』
「くそぉ! 離せぇ! くそぉおおおおおおおおおおおおお!」
全部、上手くいってたはずだった。
なのに、ダリアを犯そうとしたとたんに、すべてが崩れた。
自分が築き上げてきた、金儲けのシステムも、強力なつながりも、すべて一瞬で消えてしまった。
『さらば愚者よ。貴様こそが、その暗い闇の中で、永遠に苦しむのがお似合いぞ』




