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5話 寝取りクソ野郎を見返す、第一歩


 ぼくらは体育館で終業式を終えた。


 これで二学期は終了、冬休みに入る。


「くっしゅん! うう……くしゃみが……」


「大丈夫、しんちゃん?」


 ぼくの隣には、いちおう恋人の松本 里花りかがいる。


 染められた金髪をハーフアップにしている。

 この寒いのにお尻が見えそうなほどのミニスカート。


 でも全然寒そうにしてない……しゅごい……。


「う、うん……くしゅんっ!」

「ああほら、これ使って」


 ミニスカートのポケットからポケットティッシュを取り出し、里花りかがぼくに渡してくる。


「ありがとう。まつも……里花りか


「ん。よろしい。……ふふっ♡」


 里花から受け取ったティッシュを使う。


 なんか、甘い匂いがする……気がする。


「体冷やしちゃ駄目よ。ポケットカイロ使う?」


 逆側のポケットからカイロを取り出す。


「い、いやそこまで甘えるわけには……くしゅん!」


「いいからはい、これあげる。ちゃんと体暖かくして、風邪引いちゃだめよ?」


「だ、大丈夫だよ。風邪なんてここ最近滅多にひいてないし……でも、ありがと」


 里花はニッと笑って、「どういたしまして」と言う。


 素敵だなぁ笑ってる姿……優しいし……。


「あ、そうだ。次ホームルームで、それが終われば学校終わりだけど、ちょっと待ってて。せんせーに呼ばれてるんだあたし」


「いいけど……待ってるって?」


「そりゃ、一緒に帰るためでしょ」


「ええー!? い、一緒に帰るぅうう!?」


 なんで!? そんな……彼氏彼女みたい……って、あ。


「そ、そっか……ニセコイ」

「そ、そうよ。か、勘違いしちゃだめだからね! あくまでこれは、偽の恋人関係なんだからね!」


 ……そっか。


 そうだよね。ちょっとさみしい。偽ってわかってても……ね。


 でも……里花のいたわってくれる気持ちは、本当だと思う。


 ありがたく、受け取っておこう。


 そうこうしてると教室に到着した。


「じゃ、あとでね」

「うん、あとで」


 ぼくらの席は離れてるので、いったん別れる。


「…………」


 クラスメイト達のぼくを見る目が、怖い。


 にまにましたり、ニタニタしてる……。


 そりゃそっか……。


 クラスのグループLINEでは、ぼくが別れてしまったことが、広まってしまっているからね。


 元カノの妹子が、背の高い男と楽しげに話してる。


 彼は一瞬こっちを見て、にちゃあ……と嫌な感じの笑みを浮かべてきた。


 いやだなぁ……絶対に関わりたくないよ。


    ★


 放課後、教室から出ようとしたところを……。


「いやぁ、オタクくーん。ちょーっと顔かしてくんなーい?」


 誰かが無遠慮に、ぼくに肩を回してきた。


 見上げるとそこにいたのは、妹子と親しげに話していた男だ。


「……だ、だれ?」


「おいおい、おいおいおいおい、誰はひどいんじゃなーいオタクくーん? 君のクラスメイトじゃあないか~。名前くらい覚えておけよなぁオタクくーん?」


 ……それ君にもいえることだよね?


 ぼくオタク君って名前じゃないし。


「おれは木曽川きそがわだよ。木曽川きそがわ粕二かすじ


 ……ああ、思い出した。

 クラスのカースト上位に入ってる、陽キャのひとだ。


 高い身長と甘いマスクから、女子達の人気が高い。


 確かお兄さんがスゴイ出版社に務めてるって聞いたことがある。


 いつもそのこと自慢してたっけ……。


 そして何より、木曽川きそがわ君は……ぼくから妹子を奪った人だ。


「ちょーっとちょーっと用事あんのよ。ついてこいって」


「……いや、あの、ぼ、ぼく……その……」


 くっ! 相手が陽キャだと上手くコミュニケーションとれないよ!


「いいからこいって! おまえさんにもいい話なんだぜぇ~?」


 いい話って、なんだろう……?


 でもそのニタニタ笑い見てると、すごい嫌な感じがする。


 結局断れず、ぼくは木曽川きそがわくんに連れられて、屋上へと向かう。


 ガチャン……。


「あー、おせーしぃ、粕二かすじ~」


「おー、かるみ~。待たせたなぁ!」


 屋上で待っていたのは、これもまた、クラスの女子だった。


塩尻しおじりさん……?」


「そ。【塩尻かるみ】だよ、オタクくん」


「どーもぉー」


 塩尻さんは、背の高い女の子だ。


 そして、ギャル。

 里花が今風のギャルなら、塩尻さんはステレオタイプなギャル。


 肌を焼いてるし、髪の毛は明るい色に染めて、ウェーブかかっている。


 服装とかもだるんだるんしてる……今時こんなギャルギャルしいギャルっているんだ……。


「で、な、なんのよう……? 木曽川きそがわくん。それに、塩尻しおじりさんも」


 彼はぼくの肩に腕を回して、にまぁ……と笑う。


 一瞬でわかる、ぼくを、見下してるって。


「おれぁよぉ、謝りたかったのよ。オタク君に」


「謝るって……?」


「ほら、妹子のことだよ。なんつーか……わり! おまえの女と、付き合うことになって!」


 悪い、っていうわりに、全然申し訳なさそうじゃないなこの人。


「なんつーか、タイミング悪かったよな。別れたと思った次の日に付き合うことになっちまって。なんかこれじゃあ、オタクくんから女を寝取ったみたいに誤解されるんじゃあないかって、心配しててさ~」


 ……みたい、じゃないだろ!


 おまえがぼくから妹子を寝取ったんだろう!?


 しかもなにそのいいかた。

 浮気してたの、知ってるんだぞ!


 ……でも、向こうは浮気の事実を、ぼくが知らないと思ってる。


 グループLINEにぼくは参加してないから。


 でも……ぼくには協力者が、里花がいる。


 だから……おまえの悪事は、ぼくに筒抜けなんだぞ!


 ……って言ってやりたいけど、まだ言えない。


 ぼくと里花は約束したんだ、リベンジは、3学期終了のときだって。


 それまでは、無知なオタクくんでいないといけないんだ。


 ぼくの胸中なんてつゆ知らず、木曽川きそがわくんが続ける。


「さすがに悪いって思ってよぉ、そこで、おまえに女紹介してやるよ! ってことで、かるみを用意しました!」


「用意ってひどくなーい、粕二かすじ~」


「まーまー、いいじゃあねえか、かるみ。ほら、な? どう? かるみ。付き合えよおまえら」


 にたにたと笑う木曽川きそがわくんに、ぼくは問いかける。


「……なんで木曽川きそがわくん、この人とぼくをくっつけようとしてるの?」


「だから善意だよ、ぜ・ん・い。傷心のクラスメイトをたすけてあげよーっつー、おれの心意気、わっかんないかなぁ~」


 ……何が善意だ。


 ぼくはすべて悟った。


 そうだ。グループLINEで、偽の恋人をぼくにあてがって、あとで嘘だったとバラすみたいな流れがあった。


 たぶん、それだ。


 塩尻さんは木曽川くんとグルなんだ。


 あとで、実はどっきりでしたって、やるんだ。

 

 そうじゃなきゃ、カースト上位の木曽川くんが、ぼくに優しくするわけがない。


 ……ようするに、弱いものいじめじゃないか。


「な、かるみおっぱいもでっけえし、結構優しいし、おまえにぴったりだと思うんだよぉ~。もったいないくらいの美人だしよ? な? 付き合っても損はないんじゃあないか~?」


 ……ここでやつは、ぼくが喜んで飛びつくことを期待してるんだろう。


 あとで、馬鹿め、うそだよーん、ってバラし、ぼくが落ち込んでいる姿を見て悦に浸るんだ。


 なんて野郎だ……! 

 だが……その手には乗らないぞ!


「悪いけど、結構です」


「そうかそうか、結構ですか~………………え?」


「へ? どゆこと……?」


 木曽川くんも、塩尻さんも、ぽかーんとしてる。


 そりゃそうだ。

 ここでぼくみたいな非モテ陰キャなら、塩尻さんみたいな美人と付き合えるってなったら、飛びついただろう。


 実際、ぼくが何も知らずにいたら、罠に引っかかってたかもしれない。


 けど……ぼくは知ってる。


 この男が、ぼくから彼女を寝取っても平然として、しかも人に自慢するような、くそ野郎だってことを。


 そして、ぼくは知っている。

 ぼくの背後には、優しいギャルが支えてくれてることを……。


「木曽川くんには悪いけど、ぼく、塩尻さんとは付き合えない」


「お、おいおい! 冗談きっついぜ? おまえみたいなのが、こんな美人と付き合う機会なんて、もう2度とないんだぞ?」


 なんで断定口調なんだよ……。


 はぁ、まあいいや。たぶんそうだろうし。


「とにかく、ごめん。無理だから。それじゃ」


「えー、無理ってなんでだし~。ちょーきになるしぃ~?」


 塩尻さんが興味津々な様子で聞いてくる。

 いちおう振られた? のに、あんまショック受けてる感じがしない。


 まあそうだろう。

 裏で木曽川と絶対に、確実に、100%結託してるだろうし……。


 むしろ木曽川く……ああもういいや。


 木曽川のほうが焦ってるようだ。


「なぁおい! 無理ってなんだよ! ひとがせっかく良いことしてやってるのによぉ!」


 良いことって。はっ、笑わせるよ。

 ぼくをだまして、楽しもうって魂胆なくせに。


 計画が上手くいかずにいらだってるんだね。

 よくわかるよ……くそったれ。


「ごめん。ぼく、もう付き合ってる人がいるんだ」


「はぁ!? 嘘つくんじゃねえぞ! 誰だよ!」


 木曽川がぼくの胸ぐらをつかんでくる。


 はは、なにそれ。怒ってるの?

 嘘だと思った? 残念! ……嘘だけど。


「里花だよ。松本 里花」

「り、りかだぁ~!? て、てめ……嘘つくんじゃあねえ!」


「嘘じゃないよ。なんだったら、呼ぶ?」


 ぼくはスマホを取り出して、LINE通話してみせる。


 てててんてててんててててん♪


 ぴっ……♪


『どうしたの、しんちゃん』


 ぼくはスピーカーモードにして、木曽川にも聞こえるようにする。


『おそいよ。いつまで待たせるの? 一緒に帰ろうって言ったのに』


「んなっ!?」


 木曽川が衝撃を受けてる。

 ぼくと里花が本当につきあってるみたいだったからだ。


「あ、ごめん里花。今から行くから」

『うん♡ 待ってるね♡ ずぅっと待ってるから♡』


 甘ったるい声で里花が言う。

 まるで恋人との通話に喜ぶ、女の子みたい!


 演技ばっちしだ! さすが里花……ってえ、あれ? 向こうは近くに木曽川がいるって知らないんだよね?


 ……まあいいや!


「とにかく、これでわかったでしょ?」


「うそ……だ。てめえみたいな陰キャのゴミが……女と付き合えるわけない……」


 あ、そっか。

 まだ里花が生贄として、ぼくと付き合ってるって、グループLINE内で伝わってないんだ。


 だから純粋にぼくと里花が付き合ってると、勘違いしたんだ。


 妹子と同様に。


「じゃ、彼女待たせてるんで。それじゃ」


「ぐ……ぎ……!」


 ぼくをハメて遊ぶつもりが、上手くいかなくって悔しいんだね。


 残念だったね。君の浅い企みは、もうばれてるんだよ。


「くそ! なんだよ! せっかくの計画がパーじゃねえか! くそが!」


「あー……粕二かすじだっさぁーい……うける~……」


「ぐ……!」


 ……ちょっとだけ、すっとした、かな。

 でもまだ彼に受けた精神的なダメージは回復してない。


 復讐は、これからだ。

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[一言] こんな陰キャが女と付き合えるはずないって主人公言われてるけど、妹子と付き合ってたんでしょ?w それだけのポテンシャルはあるはずなのにここまで舐められてるのか、そもそもどうやって妹子と付き合え…
[良い点] もう木曽川って名前で穴松想像出来て笑える
[一言] Oh,,,KISOGAWA きたか...
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