45話 ダリアさんとデート
上田 真司とデートすることになった。
今日は休校日。
黒姫ダリアは自宅にて、下着姿をさらしている。
「…………」
今日は待ちに待った、大好きな真司とのデート。
嫌でも、気合いが入る。
お化粧にも、おしゃれにも、入念に準備を行った。
「あは……なんだ、こんな真剣にデートするの、ちょーひさしぶりだなぁ」
ドキドキ、と昨日からずっと心臓が高鳴っている。
顔が熱くてしかたない。
早く彼に会いたいという気持ちと、緊張する気持ちとがぶつかり合って寝不足だ。
……こんな初々しい気持ちでのデートなんて、久しぶりだ。
だから、楽しみだ……。
PRRRRRRRRRRRRRRR♪
そのときスマホに着信が入る。
画面には、
【大家さん】とあった。
「…………」
楽しい気分が一瞬で霧散し、死んだ表情で、ダリアは電話に出る。
「はい……」
『ダリアちゃぁん? 今月の【支払い】がまだですよー?』
電話越しから粘ついた男の声がする。
このマンションのオーナーである。
『早く支払いにきてくださいよぉ。ぼくちん、待ち遠しくって暴発しちゃいそうなんですわ~』
「……もうちょっと、待ってください。お支払いに向かいますので」
『あ、そー。でもあーんまり遅いと、バラしちゃうからね~』
「っ……! わかって、ます。ちゃんと行きます……だから……お願いします」
『はいはーい。待ってるんでよろしく』
ぴっ、とダリアは通話を切る。
ぎゅっとスマホを胸に抱いてうずくまる。
「汚い……」
汚い、汚い……とダリアは何度も何度も繰り返した。
何で自分の体は、こんなにも汚いのだろう。
里花がうらやましい。
綺麗な体で、大好きな彼に、初めてを捧げることが出来る。
なんて、幸福なんだろう。
……自分の初めての相手は、さっきのキモい親父だ。
脅されて、犯されて……。
幸せな初めてなんて、迎えられなかった。
「…………」
せめて、里花には、親友には……同じような目に遭って欲しくない。
「大丈夫だよ、りかたん……。あーしは、君を裏切らないよ」
ダリアは立ち上がる。
その目には悲壮なる決意が宿っていた。
「さ、いきますかね」
ダリアは赴く。
心から好きになった相手との、
最初で、最後のデートへと。
★
真司がやってきたのは、隣にあるデートスポットの一つ、お台場。
ゆりかもめの駅の改札にて、ダリアを待っている。
「まだかなー」
どこで遊ぶか協議した結果、お台場でということになった。
真司はダリアが来るのを、改札の前で待っている。
しばらくするとたくさんの人が、改札をくぐっていく。
その中にダリアの姿はない。
「いれば一発でわかるんだけどなぁ」
こないだ、ダリアは中々に派手な格好をしていた。
胸元が大きく開かれたシャツに、超ミニスカート。
銀髪に日に焼けた肌。長いネイルにアクセサリーと、ハデハデな外見だった。
「おかしいなぁ」
「や、シンジ、くん」
ぽん、と肩をたたかれる。
振り返って……真司は目を丸くする。
「だ……りあ、さん?」
驚くのも無理はなかった。
そこにいたのは派手な見た目のギャル……ではない。
とても、清楚な見た目の女の子だったからだ。
膝まで隠れるロングスカート。
タートルネックの白いセーターに、白のダウンジャケット。
肌の露出は驚くほど少ない。
顔くらいだ。
しかも、黒く日に焼けてたはずの肌が、普通の肌色になっている。
アクセサリー類は全く身につけていない。
化粧も、ナチュラルに見えるくらいのメイク。
長かった爪も切りそろえられ、淡く微笑むその姿からは……。
とても、黒ギャルだった彼女と同一人物とは思えなかった。
「どう……かな?」
「うん! すっごい綺麗!」
何の飾り気もない言葉になってしまい、真司は申し訳なさを覚える。
だが真司の言葉を聞いたダリアは、ふにゃ……と普段は学校では見せないような、幼い笑みを浮かべた。
「そっか♡」
「うん!」
「君の好みに合わせたつもりだったから、喜んでもらえてうれしいよ」
ダリアがえへへと笑う。
「肌は化粧で顔だけは誤魔化せたけど、髪はごめんね。これ、地毛だから」
「へえ、地毛で銀髪なんだね」
「うん。あーしハーフなんだよね」
「なるほど! どうりで綺麗なわけだ!」
真司は結構思ったことを口にする。
また素直に言ってしまったと真司は言ってから後悔した。
けれどダリアは、本当にうれしそうに笑う。
「ありがと♡」
「あ、でもね」
真司はニコッと笑って答える。
「いつものダリアさんも素敵だよ。別にぼくの好みに合わせて無くっても、ダリアさんはいつだって綺麗だよ」
ダリアは一瞬真顔になる。
耳の先まで真っ赤になると、うつむいてしまう。
「……ずるいよ、そういうの。ますます、好きになっちゃうじゃん」
ダリアの小さな声は真司には届かない。
「じゃ、いこっか」
「うん」
真司と肩を並べてダリアが着いてくる。
「今日はお礼だから、ダリアさんの行きたいこと、したいことしよう」
「あんがと。そんじゃ……お言葉に甘えて♡」
ダリアは真司の腕に、ぎゅっ、と抱きつく。
「だ、ダリアさん!?」
突然のことに驚く真司。
そのリアクションを楽しむかのように、にまーっと笑って、ダリアが言う。
「あーしのしたいこと、してくれるんでしょ~?」
「で、でもぉ……」
美人に腕を抱かれると恥ずかしいきもちになる。
とはいえ言い出したのは自分だし、今更駄目なんて言えない。
「あはっ♡ 顔真っ赤だねぇ~シンジくん」
「うう……ダリアさんと違って、ぼくこーゆー経験少ないから」
「ん。そんなことないよ……」
真司がダリアを見る。
間近にある彼女の顔は、真っ赤だった。
潤んだ目が自分を見つめている。
腕に当たる大きな乳房からは、どきどき、どきどき……と鼓動を感じられた。
「あーしもね、今すっごいドキドキしてるの」
「それは……どうして?」
「シンジくんが相手だからだよ。君以外のときは、こうはならないかな」
年が近いからだろうか、と真司は解釈する。
わかってないのを察せられたのか、少しダリアは切なそうな表情になるも、しかし笑顔で首を振る。
「今日一日はあーしの恋人になってね♡」
「だ、ダリアさんの……恋人っ?」
「そ。それがあーしのお願い。今日はさんづけ禁止ね♡」
「うう……」
ちょっとためらうが、しかしお礼がしたいと言ったのは自分である手前、従わざるを得ない。
「わかったよ、だ、ダリア……」
「ん♡ 100点♡ さ、行こっか♡」
ダリアは真司の手を引いて歩き出す。
その足取りは軽い。
まるでダンスのステップを踏んでいるかのようだ。
「ふふ……♡ ありがと♡」
「え、どうしたの? まだ何も始まってないけど」
「あーしね、ずっとずぅっと、憧れてたんだ。こういう……普通のデートってやつに」
真司はダリアの表情が、どこかさみしそうにしていることに気づいた。
デートにあまりいい思い出がないのかもしれない。
真司には想像できないくらい、色んな経験を彼女はしているのだろう。
自分が彼らと比較して、ダリアの目にはどう映ってのるかはわからない。
でも……デートが嫌いにならないよう、せいいっぱい、頑張ろうと思った。
「なに終わりみたいな雰囲気だしてるの? まだ始まったばっかじゃん!」
真司が笑って言うと、ダリアもまた小さく微笑む。
「そだね。ごめん。なんかもう……この時点で胸いっぱいで」
「まだまだだよ! ぼくらのデートは始まったばかりじゃん。ね?」
そうだね……とダリアはうなずくのだった。
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