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44話 ダリア、助けてもらう



 中津川 妹子が後悔している、一方その頃。


 黒姫くろひめダリアは、屋上に呼び出されていた。


 ダリアの前には、オタクっぽい男子がいる。


 彼に付き合って欲しいと頼まれたのだ。


「ごめんね、無理」


「え……? む、無理って……」


 オタク男子が動揺してるところに、ダリアは頭を下げて言う。


「あーし、あんたとは付き合えないってこと」


「そ、そんなぁ……」


 彼は同じクラスの男子だった。

 少し話したことがあるくらいの仲だ。


 ダリアはかなりモテる。

 背が高く、モデルみたいに手足がすらりと長い。


 特筆すべきはその大きすぎる胸だ。

 きつすぎてシャツのボタンが閉まらないほどである。


 シャツの襟からのぞく巨乳、そして派手なブラに、男達は皆目を奪われる。


「ごめんね。そういうわけだから」


 ダリアは屋上を出て行こうとする。


「じゃ、じゃあ! や、やらせてよ……!」


 ぴたり、と立ち止まり、ダリアは振り返る。

「はぁ?」


「やらせてよ。ねえ、黒姫さん、誰でも、頼めばやらせてくれるんでしょ……?」


 ダリアは不快そうに顔をしかめる。


 この派手な見た目は色んな悪いうわさを生む。


 その中の一つに、【黒姫ダリアは頼めば誰とでもやらせてくれる】、というものがあった。


 無論デマである。

 ……だが、金をもらえば誰でもやるのは事実。


 そこから尾ひれがついたのかもしれない。


「……それ誰から聞いたの?」


 以前なら、こんなうわさどうでも良かった。

 さらりとスルーしていた。


 だが……今は、許せなかった。


 こんなうわさ、【彼】に聞かれたくない。


「え?」

「だから、誰から聞いたんだって言ったの?」


「ふ、ふひひ……教えても良いよぉ? やらせてくれるならぁ……」


「……ざけんな。殴るぞ?」


 軽く脅してみたが、オタク男子は下卑た笑みを浮かべる。


「やってみればぁ? そんなことができるならねぇ。ねえほら、やらせてくれよぉ、なぁ~?」


 男子が無理矢理、手をつかんできた。


「ちょっ、辞めてよ!」


 思った以上に、強く拒んだ。


 嫌だった。

 こんな、好きでも何でもない男になんて抱かれるのも、触られるのも……。


 それを、彼に見られるのも……嫌だ。


「ふひひっ、い、いいじゃん。いやいや言ってるけど、本当はいいんでしょぉ? 誰とでもやるきみビッチなんでしょぉ~?」


「……っ」


 違う、と否定できなかった。

 金さえもらえれば誰とでもやるビッチというのは、確かに……その通りだから。


「ひひっ。ぼ、ぼくエロ漫画を読んで知識豊富だから、きも、気持ちよく出来るよぉ」


 ……一度やらせたら、うわさの出所を吐いてくれるだろうか。


 ああでも……いやだなぁ。


 前は気にしなかったけど、今は……。


 と、そのときだった。


「何やってるの!」


 屋上の扉が乱暴に開く。


 そこにいたのは、小柄な少年だった。


「……シンジ、くん」


 意中の彼が、そこに現れたのだ。


 彼は憤りの表情を浮かべながら、ダリアたちに近づいてくる。


「やめなよ、君。ダリアさんいやがってるだろ!」


 真司は大人しい男子なはずだった。


 けれど、そんな彼が自分のために怒ってくれている。


 ……きゅんっ、と甘く胸がしめつけられる。

「な、なんだよぉ……」

 

 たじろぐオタク男子に、真司はにらみつけて言う。


「嫌がる女の子を無理矢理なんて最低だよ。先生にいいつけようか?」


「なっ、ななんだよ! べ、別になにもしてねえし! くそっ! 助っ人呼んではめやがって! このビッチが!」


 オタク男子は捨て台詞を残すと、去って行った。


 あとには真司とダリアだけが残される。


「大丈夫? 乱暴されてない……わぷっ」


 ……気づけば、ダリアは真司を抱きしめていた。


「だ、ダリア……さん?」


 困惑する真司。

 だがダリアは彼を離せなかった。


 ……うれしかった。


 自分のために、彼が守ってくれたことが。


 真司が自分をかばってくれたことが、たまらなくうれしくて……。


 そんな彼が、たまらなく、愛おしかった。


 大人しい真司の男らしい一面を知り、彼女はより一層真司が好きになってしまった。


 好きで、好きで、たまらなくて……。


 だから、抱きしめていた。


 この瞬間だけは、親友のこととか、目の前に居るのが、親友の彼氏であることとか……頭になかった。


 否、考えるよりも体が動いていたのだ。


 女としての本能が、理性を飛び越えていたのだ。


「あ、あのぉ……?」


「…………あ」


 ようやく、ダリアは正気に戻る。


 かぁ……と顔が赤くなる。


「ご、ごめん! シンジくん!」


 顔が、熱い。

 まるで処女みたいにな反応をしてしまう。


 仕事相手にも、さっきのオタク男子にも、胸の高鳴りは感じないのに。


 真司に対してだけは、うぶな女みたいな、反応になってしまう。


 ……里花りかを茶化せないな、とひとりごちる。


「その……えっと……な、なぁんちゃって。ほ、ほんきにしちゃった? ん?」


 そうやってお姉さんぶって、茶化した、ということにした。


 真司も「あ、そういうこと」とあっさり納得していた。


 ……地味に、それが傷ついた。


 本気にしてもらえなかったことを、がっかりしてしまう自分がいた。


「あんがとね、シンジくん」

「ううん、君が無事で良かったよ」


 ……胸が甘くしめつけられ、下腹部が……熱くなる。


 ああ……好きだ……と。


 ダリアは彼のすべてが好きになっていた。


 少し幼い顔つきも、でもちゃんと男らしく守ってくるところも、声も、優しさも……全部好き。


「さっきのやつ、ひどいね。ビッチだなんて」


「いや……別にいいよ。なれてるし」


「よくないよ! ダリアさんにひどいこと言って!」


 真司しんじが、大好きな彼が、自分のことで本気で怒ってくれている。


 泣きたいくらいうれしかった……。


 ……けど。


 ダリアは、否定できない。


 そう、あのオタク男子が言っていた、ビッチという言葉は、真実だから。


 金さえもらえれば、彼女は誰にでも抱かれる。


 キモい親父だろうと、同級生だろうと。


 ……だから。


「だ、ダリアさん!? どうしたの!?」


「あ……え……? あ……」


 ダリアは泣いていた。

 悲しかった。申し訳なかった。


 せっかくかばってくれたのに。


 かばってもらえる資格が、自分にないことに。


 ……なんで。


 なんであたしは、里花りかじゃないんだろう。


 どうして、里花りかみたいに、綺麗な体じゃないんだろう。


「ダリアさん……? 大丈夫? やっぱりさっきのやつに、謝らせようか?」


「……い、いいの。コレ……ただ、目にゴミ入った……だけだから」


 ごめんなさい、とダリアは謝る。


 こんな素敵な男の子に、かばってもらえる資格なんて、自分にはないのだ。


「ほんとに?」

「……うん、ほんと」


「そっか。良かった。はいこれ」


 真司しんじがハンカチをさっと取り出す。


 やめてほしかった。

 優しくしないで欲しかった。


 ……これ以上、優しくされた、夢中になってしまうじゃないか。


 今はまだ、ギリギリ、里花りかという存在がストッパーになっている。


 親友の彼氏が相手だからということで、自制心を保てている状態。


 しかし、先ほどの、衝動的なハグがそうだったように……。


 真司しんじのことをこれ以上好きになってしまったら、もう、頭で気持ちを制御できなくなってしまう。


 いっそのこと……嫌われたい。

 

 でも……大好きな彼に嫌われたくないとも思う。


 矛盾した思いに、ダリアは悩まされる。


「ありがと、シンジくん。助かった」

「どういたしまして。またああいう変なのがきたら、すぐ言って」


「あ……でもあーし、連絡先知らない……」


「あ、そうだったね。ID交換しようか」


 ダリアはスカートのポケットからスマホを取り出して、真司とラインのIDを交換する。


里花りかがデートしていいって」

「……そっか。良かった」


「うん! じゃあどこ行くかは、あとで相談しようね! そろそろ昼休み終わるし!」


 あと10分もすればチャイムが鳴る。


「ごめん、ちょっと先に行ってて。あーし、ちょっと電話するから」


「あ、そう……。分かった! じゃあね!」


 真司が屋上を出て行く。


 ダリアはスマホを胸に抱いて、屋上のフェンスに寄りかかる。


「…………」


 真司の連絡先を、手に入れた。

 それが……うれしすぎて……。


 ぎゅーっ、と自分のスマホを抱きしめる。


 連絡先をもらっただけで、もう体全身に、幸福感であふれていた。


「……好き」


 知らず、言葉が口をついた。


「好き、好き……大好き……」


 甘くささやきながら……。


 しかしダリアは……また泣いていた。


「なんで……あーし……こんなんなんだろ。なんで……君は……りかたんの、彼氏なんだろ……」


 己の運命を呪わずには居られなかった。


 もしも、ダリアが普通の家庭に生まれて、真司の隣に里花が居なかったら……。


 今頃、何も気兼ねすることなく、思いを伝えていた。

 

 昼休みが終わる前に告白していただろう。


 ……でも、現実は違う。

 

 彼の隣にはもっと好きな子がいて、自分は……こんな生まれ、こんな見た目。


「…………」


 もう、隠しきれない。

 この思いを、胸の内にとどめておくのは無理だ。


 さっきのハグも、ギリギリだった。

 あのまま押し倒してしまうところだった。


 連絡先を交換したときも、やばかった。


 里花りかへの罪悪感が、頭から完全に消えていた。


「だめ……だめだ……。ダチは……裏切れないよ……」


 胸が、苦しくて苦しくて仕方なかった。


 真司へのあふれんばかりの大好きな気持ちと、親友に対する友情とがぶつかり合っている。 


 これ以上、真司と関係を続けていたら。


 きっといつか……里花りかを恨むようになる。


 妬むようになる。

 なんで、真司の隣にいるのが、自分ではないのだろう……と。


「…………」


 ダリアは目を閉じて、自分の胸を押さえつける。


 そして、再び目を開ける。

 その目には、【ある決意】が宿っていた。


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― 新着の感想 ―
細かいことなのですが、2話前を見直すのがよいかと
[気になる点] 21話でID交換してるし、ここまでに何度も連絡してる。 他の作品と混同したのかもしれないけど、お話の管理ガバ過ぎない?
[良い点] またハーレムになるのかな 純愛が好きだけど 新作も見てみるか
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