43話 元カノの後悔 その4
上田 真司が、ダリアからデートに誘われた。
週明け。
中津川 妹子は、クラスへと登校。
「おはよ、みんな」
以前は自分を女王様のように扱ってきたクラスの男子達。
だが……。
「もうすぐ試験休みか~」「たのしみだねー」「平日に学校休みとかさいこー」
……妹子をまるで、空気のように扱う。
挨拶をしても、誰も返事してくれない。
誰も認識してくれない。
それが妹子の自尊心を傷つける。
「……っ!」
ぎりっと歯がみしながら妹子は自分の机へと向かう。
「なっ! ちょっと……なによこれ!」
妹子の椅子がなくなっていたのだ。
「誰よ隠したの!?」
だが、それでもなお、クラスメイト達は無視をする。
……さもありなん。
妹子はすでに、クラスメイト達から軽いいじめを受けていた。
経緯としては、この間の大雪の日。
自分が送っていくと大口たたいておいて、結局、迎えの車が到着せず。
くわえて、今まで散々金持ち自慢してきたのだが、自家用ヘリを持っていた真司に完全敗北。
今まで金があるからすり寄っていた男子達からは、ちやほやされなくなった。
しかも……。
【なぜか】知らないが、木曽川 粕二を転校に追いやったのが、妹子によるものだという情報が流れていたのだ。
真実では、ある。
父親に頼んで、木曽川が転校するように仕組んだのだ。
ばれるわけがない。
父親の会社の持つ権力でもみ消したはず……なのに。
結果、木曽川を転校に追いやった女という情報も加わり、男子からも女子からも無視、あるいはいじめを受けていた。
「…………」
妹子は腹を立てていた。
今までちやほやしていたやつらが、急に冷たくしてきたことに。
イライラしながら、妹子は廊下の外に出されていた、自分の椅子を取ってくる。
「おはよー」
そのとき真司が教室へと入ってきた。
「あ、しんちゃーん! おはよー!」
先に席に座っていた、松本 里花が笑顔で手を振る。
真司もまた笑顔をうかべ、彼女の元へと向かう。
「ちっ……いいよなぁ松本さん」
「……ちょーお金持ちの上田くんが彼氏なんだもん」
「……ニセコイだったとしても、いいよなぁ」
そう、まだクラスメイトは、里花が罰ゲームで、真司と付き合っていると誤解したまま。
つまり里花の心に真司は住んでいないと、好きではないと、そう思っている。
(あの女がいなければ……今頃……)
自分は、父を凌駕する金を持った男の彼女でいられたのに。
優しくて、金を持っているなんて知っていたら、浮気なんてしなかったのに。
「里花あのね、今度の試験休みなんだけど」
「どこかお出かけしましょっ?」
ふるふる、と真司が首を振る。
「ごめんね、ダリアさんから、誘われてて」
「え゛!? う、浮気?」
不安げな表情を、里花が真司に向ける。
「まさか。こないだの誕生日にお世話になったから、そのお礼したくって」
「あ、なるほど。わかったわ」
さっきの暗い表情から一転、里花が安堵の息をつく。
「いいの?」
「うん。ダリアはお友達だもの」
ダリアとは隣のクラスの黒ギャルのことだろう。
ギャル同士で仲が良いのだろう。
「ありがと」
「その代わり、浮気しちゃだめよ?」
「わかってるってば~」
「ほんとに~?」
里花がじとーっと見てくる。
「じゃあ指切り!」
「いいよ」
「えへへっ♡」
……二人が小指をからめて指切りをしている。
その様子を、クラスメイトたちがうらやましそうに見る。
「くそっ! 演技のくせに……!」「上田くんに気に入られて……いいなぁ」
クラスメイト達が里花と真司に羨望のまなざしを向けている。
それを見て、歯がみしながら見ている妹子。
(なんなのよ! 真司くんはあたしのものだったのに! くそっ! くそぉ……!)
真司を手放していなければ、自分はクラスで居場所を失うことなんてなかった。
それどころか、金持ちのボンボンを手に入れて、今以上にちやほやされ、クラスメイト達からの羨望のまなざしをゲットできたというのに……。
周りが楽しそうにおしゃべりしている中、ひとりさびしく、妹子は溜息をつくのだった。