41話 二人でまったりショッピング
ぼくたちは川崎にある、ショッピングモールに来ている。
ダリアさんとは途中で別れ、ぼくと里花は、ふたりでモール内を見て回ることになった。
「どこいこっか」
里花の元へと戻ってきて、ぼくが言う。
「どこでもいいよ♡ しんちゃんと一緒なら、それだけで幸せだもの♡」
えへへ、と里花がふにゃふにゃ笑う。
「ぼくも里花が居ればそれでいっかな」
「も~♡ しんちゃんってば~♡ これじゃあ相思相愛みたいじゃない~♡」
「あ、ほんとだ。一緒だねー」
「ねー♡」
ふふふ、と笑うぼくたち。
「まー、じゃー、適当に見て回ろっか」
「さんせーい! じゃあ……んっ!」
里花が手を差し出してくる。
「ん」
ぼくもすぐに意図を察して、彼女の手をきゅっと握る。
「しんちゃんの手、あったかいね♡」
「里花の手もすっごくあったかいや」
「手汗とか大丈夫かしら。すっごくドキドキしてるの」
「ぜんぜん。綺麗なもんだよ」
「そっか♡」
ぼくらは手をつないで歩き出す。
前みたいに、迷子にならないように……という意味合いももちろんある。
けど今は……違う。
ぼくたちは繋がっていたい。
少しでも彼女とふれあっていたい。
離れていると、とても落ち着かない。
いっしょに居るとこころが安らぐのだ。
「不思議ね。しんちゃんと手つないでるだけなのに、ずっとドキドキするの」
きゅっきゅっ、と里花がぼくの手を二度、三度と握る。
ぼくは里花の柔らかい手をきゅっきゅ、と答えるように握り返す。
「えへへ♡」
きゅっきゅっ。
ぎゅっぎゅっ。
「「えへへ」」
端から見れたら何やってるんだ状態で、ぼくらはずっとぎゅっぎゅしあう。
「あ、しんちゃん本屋だ。ちょっと見てきたいな」
「うん。いこっか」
ぼくたちは本屋に立ち寄る。
向かうのは漫画コーナー。
大きめのポスターが貼ってあった。
【劇場版デジタルマスターズ 天空無限闘技場編 2021年放映!】
「デジマス映画になるんだねー」
「たのしみね! 見に行きたいわ!」
「あ、ぼくも! じゃあ二人で行こうね」
「うんっ!」
しかしどこ見てもデジマス商品が置いてあった。
漫画の単行本は品薄で、入荷未定のポスターが貼ってある。
「里花はどういう漫画読むの?」
「いろいろかな。少年漫画も読むし、ラノベ原作も読むの」
「少女漫画は」
かぁ……と里花が顔を赤くする。
「え、なに?」
「その……少女漫画って、その……最近ちょっと過激な描写が多くて……苦手なの」
「過激って……セックスとか?」
「みゃ゛……! ば、ばかぁ~……もぉ~……」
ぽかぽかぽか、と里花がぼくの肩をたたいてくる。
え、これで恥ずかしくなっちゃうの?
「里花ってうぶなんですな」
「そうよっ。悪いっ?」
「ううん、可愛い」
「そ、そぉっかぁ~……♡ えへへ~……じゃあ許す~……♡」
またふにゃりととろけた笑みを浮かべる里花。
少女漫画コーナーへとやってきた。
立ち読みの冊子があったので、パラパラめくる。
「なるほど……結構やばいね描写が」
「でしょ? だからあたし、少年漫画のほうが好きね。デジマスとか。ラノベだったらAMOとか」
「あら意外。結構男物読むんだね」
「うん。AMOは作者の人も素敵じゃない?」
雑誌コーナーを指さす。
ラノベの情報雑誌の表紙には、【白馬 王子特集】とあった。
AMOの作者で、とってもかっこいいラノベ作家である。
「ふーん……里花はこういうイケメンが好きなんだ、ふーん」
……なんだろう。とてももやっとする。
……里花が他の男を褒めたから、かな。
「あらしんちゃん、もしかして嫉妬かしら?」
にまにまと里花が笑いながら聞いてくる。
「たぶんね。里花が他の男の人ほめるの、やだな」
「も~♡ そっかぁ~♡ 嫉妬しちゃうんだ~♡ えへへ~♡ そっかそっかぁ~♡」
里花がぼくの腕に、ぎゅーっと抱きついてくる。
「……大丈夫だよ♡ あたし、しんちゃん以外の男、興味ないから。大好きなの、しんちゃんだけだから♡」
耳に、吐息が拭きかかる。
ぞく……と背筋に快感が走る。
消え入りそうな声で、里花がつぶやいた言葉が、ぼくに安心をもたらす。
「あ、ありがと……」
「えへへ♡」
「で、でもなんですっごい小さい声だったの?」
かぁ……と里花が顔を赤くしてつぶやく。
「あ、あんな恥ずかしいセリフ……人前じゃ、言えないもん」
うちのカノジョさんは、とても恥ずかしがり屋さんなのだ。
照れてる里花が可愛いので、ちょっといたずら心が芽生えてしまう。
「でもさっきは言ってませんでした?」
「それは、しんちゃんだからいいんですっ」
ふんっ、と里花がそっぽを向く。
耳まで赤いのが本当に可愛いし、ぼくの手を離さずずっと握ってるのもまた、いじらしくて愛らしい。
「たいへんだぁ」
「どうしたの?」
「里花といっしょに居るとね、君への大好きって気持ちが、毎秒ごとに増えてって困る」
もうメーター振り切ってるね。
「そ、そ、そんな……は、恥ずかしいこと……よ、よくいえるわにゃ……♡」
かみかみであった。
里花はいじると可愛い。
でもあんまりいじると可哀想。親しきに中にも礼儀ありだもんね。
「ごめんごめん。からかって」
「なっ! しんちゃんってば、好きって気持ちうんぬんは冗談だったのっ?」
ぷくーっと頬を膨らます里花に、ぼくは笑って首を振る。
「ううん、そこは本当です。大好き」
「なら……よしっ♡ えへへっ♡」
あんまり本屋の中で突っ立ってても、周りに迷惑だと思って店を出る。
ふと、里花が気づく。
「あ! 見てしんちゃん、ゲーセンよ」
「ちょっと寄ってこうか」
本屋の真ん前にゲーセンがあって、ぼくらはそこに入る。
クレーンゲームの前でふと、カノジョが立ち止まる。
「デジマス……ちょびのクッション……」
里花がゲーム機の前に立ち止まる。
「ちょっとやってっていい?」
「うん。待ってるね」
ぼくは里花の後ろで、彼女の邪魔にならないようにする。
里花がお金を入れてクレーンを動かす。
「ぐぬ……意外とアームが弱いわ。これは長期戦ね……」
ぶつぶつ……とつぶやきながら、2度、3度と挑戦。
だが失敗してしまう。
「うー……むずい~……」
「そんなにこの、ちょびのクッション欲しいの?」
チョビとはデジマスに出てくるヒロインの名前だ。
シベリアンハスキーの耳と尻尾を持った、可愛い獣人の女キャラである。
「ううん。あたしじゃないの。ダリアが好きなの」
「ダリアさんが?」
「うん。ダリアちょび好きだし、とってあげたら、喜んでくれるかなって」
里花はまたお金を入れてゲームを開始する。
また失敗してしまう。
けれどまた挑戦する里花。
……とってあげたいんだなぁ。
友達が喜ぶから、それだけの理由で。
ふたりは、本当に仲いいんだな。
ぼくは……何が出来るだろう。
お金を貸してあげることも、もちろんできる。
でも……。
「里花」
ぼくは、空いてる彼女の手に、手を重ねる。
「がんばっ!」
里花が目を丸くして、ふふっ、と笑う。
「ありがとっ! よーし、気合いちゅーにゅー!」
里花はお金を入れて、再トライ。
クレーンが動いて、クッションが良い感じにかたむく。
「よしよしよしっ」
「がんばれっ!」
ぼくらの念が届いたのか、クッションが穴の中にスポッと落ちた。
「しんちゃーん!」
「里花っ!」
ぼくらはぱんっ、と手を合わせる。
「ありがとうっ! しんちゃんのおかげだよ!」
晴れやかな笑顔で彼女が言う。
友達の好きなものが取れて、本当にうれしいんだろうなぁ。
優しい子だなぁ。
「ううん、取ったのは里花じゃん。君がすごいんだよ」
「いいえ、しんちゃんがパワー注入してくれたからよ。ありがとう」
里花がクッションを持ち上げて、きゅっと抱きしめる。
「ダリア、喜んでくれると良いなぁ」
「きっとすっごく喜ぶよ」
里花にそういうと、本当にうれしそうにうなずく。
「あ、じゃあぼく店員さんに袋もらってくるね」
昨今のゲーセンは、商品を入れるビニールをくれるのだ。
「やー」
里花がぼくの手をつかんだまま、ふるふる、と首を振る。
「デート中は一時でも、離れたくありませんっ」
ぷくっ、と里花が頬を膨らませて言う。
なんだかいじらしくて、笑ってしまう。
「じゃあぼくがトイレ行くときはどうするの?」
「そ、れは……もうっ! いじわるっ」
ごめんごめん、というと、彼女もまた笑う。
結局ぼくらはそろって受付へ行って、ビニール袋をもらったのだった。
店員さんには、もちろん、バカップルを見る目で見られた。
まあ……しょうがないかなぁと。