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34話 居なくなった里花



 ぼくはデスティニーランドの帰り道……。


 りかちゃんの母親、山雅やまがさんと再会した。


 そして……

 里花りかが、ぼくの思い出の少女、鬼無里きなさ りかちゃんであることが判明した。


 それから、数時間後。


 ぼくは自宅にいた。

 ベッドに仰向けになって、考え事している。


「……りかちゃん」


 小学校の頃、仲良くしてくれていた、大好きだったりかちゃん。


 田舎に引っ越していって、それきり、ぼくらは会うことがなかった。


 ずっと、ぼくは彼女に会いたかった。

 また会いたいって思ったからこそ、サークルの名前を【Rika】にするほどだ。


 やっと……ぼくはりかちゃんに会うことができた。


 ぼくはうれしかった。

 再会を喜びたかった。

 なのに……。


『……ごめん、しんちゃん……ごめんね』


 里花りかは、自宅へとこもってしまった。


 ぼくとの会話を打ち切って、まるで引きこもるように。


「なんで……謝るんだよ……」


 謝ることなんて何もないのに、どうして。


 ぼくは彼女の気持ちが知りたかった。

 話したかった。

 この数年の空白を、埋めたかった。


 でも……里花りかは何で、こもってしまったんだろう。


「…………」


 山雅やまがさんは仕事があるからといって、あのときあまり会話できなかった。


 明日……また里花りかの家に行ってみようかな。


 そう思っていた、そのときだ。


 PRRRRRRRRRR♪


「誰から……? ダリアさん?」


 スマホを手に取って通話ボタンを押す。


「はい」

『ドーテーくん! 大変だっ! りかたんが、居なくなったって!』


「なっ!?」


 なんだって!?

 どういうこと……? いなくなった?

 どうして……? わからないよ!


『あーし何度か電話かけたんだけど出なくって。ママさんにも連絡したんだ。様子見に行ったら……家にりかたんいなかったって……』


「そんな……」


 何で居なくなる必要があるんだよ。

 わけがわからない……。


『ドーテーくん、探すの手伝ってくれない?』


「もちろん……! ……あ」


 ふいに、ぼくは思い出した。

 里花りかとの……ううん、りかちゃんとの思い出を。


「…………」

『ドーテーくん? どうしたの?』


「……心当たり、あるかも」

『ほんとっ!?』


 里花りかが本当に、りかちゃんなら。


 彼女は……きっとあそこに居る。


『どこ!? どこなの!?』


 ダリアさんが声を荒らげている。

 里花りかが居なくなって心配なのだろう。


 でも……。


「ごめん、場所は言えない」

『なっ……!?』


 ダリアさんが驚いている。

 こんな緊急事態で、何をバカなことをと言いたいのだろう。気持ちはわかる。


「ごめん、秘密の場所なんだ。ぼくと……りかちゃんの」


 そこは秘密の場所。

 小学校の頃、ぼくたちが決めた……秘密基地。


 二人で共有した思い出だからこそ、誰にも知られたくない。


 向こうも、多分そう思ってる。


「ぼくが行ってくる。だから……ダリアさんは家に帰って」


『…………』


 電話越しにて、ダリアさんは無言だった。

 いちはやく里花りかのもとへ行きたいのだろう。


 里花りかの親友だからこそ、当然だ。


 ……けれど。


『わかった。ドーテーくんを、信じるよ』

「ありがとう」


 良かった、話のわかる人で。


『そのかわり、ちゃんとりかたんを連れて帰ること』


「もちろん。わかってるさ」


 ぼくはコートを身につけて、マンションを後にする。


 里花りかとぼくの思い出の場所……。


 秘密基地へと、足を運ぶ。


    ★


 松本 里花りかはひとり、夜の公園のなかにいた。


 それは里花りか真司しんじの暮らす高級マンションからほど近い、公園。


 大きなドーム状の滑り台があり、中が空洞になっている。


 ドーム内部はかなりの大きさがあって、内壁の一部が出っ張っている。


 ちょうど二階建てのカマクラのようであった。


「…………」


 里花りかがいるのは二階部分。

 膝を抱いて丸くなっていた。


「…………」


 真司しんじに知られてしまった。

 自分が、小学校の頃に出会った、鬼無里きなさ りかであることを。


 真司しんじに、真実を知られたとき……。


 里花りかが感じたのは恐怖だった。


 失望させると、そう思ったのだ。


 人間、過去は得てして美化されるものである。


 真司しんじの中での【りかちゃん】は、とても大事な存在であるようだ。


 冬コミの時、里花りか真司しんじの思い出話を聞いた。


 サークルの名前を里花りかの名前にしたのは、いつか彼女と再会するまで。


 ずっと、彼は自分に会うのを切望してくれていたのだ。


 大好きな彼が、ずっと思っていてくれたことがうれしい判明、申し訳なさがあった。


 会えるわけがない。


 自分は今……こんなだから。


 里花りかは田舎に引っ越したとき、一時期ぐれてしまった。


 髪の毛を金色に染めて、素行も悪くなり……気づけば周りからギャルのレッテルを貼られていた。


 東京に再度戻ってきても、彼女はぐれたままだった。


 どうせ、もう二度と彼と会えないのだ……。


 だが2020年。

 高校に進学し、やっと、真司しんじと会うことが出来た。


 あのときのことは鮮明に覚えている。


 うれしくて、泣いてしまうほどだった……。


 すぐに声をかけたかった。でも……できなかった。


 自分は、こんな姿で、何よりも……彼の隣には……元カノがいたのだ。


 里花りかは絶望した。


 悲しかった。すべてがもう遅いのだと……嘆いた。


しかしだからといって、里花りかは彼女を奪うようなまねはしなかった。


 それが真司しんじの幸せになるとは思えなかったから。


 真司しんじが、幸せならそれでいい。


 そう思って身を引いたつもりだったのに……。


 しかし12月24日、真司しんじはフラれてしまった。


 彼女のもとにチャンスが巡ってきた。


 でも……すぐに自分がりかちゃんであるという、伏せたカードを明かすことは、できなかった。


 だって……。だってそれは……。


里花りか!」


 はっ、と里花りかが顔を上げる。


 ドームの中、秘密基地に……真司しんじが現れたのだ。


「しんちゃん……」


「この遊具、まだあったんだね……なつかしいなぁ」


 どうして……ああ、どうして……。


 ぽろぽろ……と里花りかの瞳から涙が流れる。


 悲しいから? 違う、うれしいのだ。


 彼は居なくなった自分を、探しに来てくれたのだ……。


 でも……でもやっぱり、怖い。

 会話するのが怖い。逃げたい。

 彼に失望されるのが、嫌だ。


「りかちゃん」


 真司しんじは……微笑んでいた。

 里花りかに対する失望なんてものはまるで感じさせない、優しい笑み。


「久しぶりだね。元気そうで……良かった」


 ……自分を見つけてくれたことを、里花りかは喜ぶ。


 そして何よりも……彼が笑顔を、まだ自分に向けてくれていることに。

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