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32話 貸し切りデスティニー



 ぼくたちは学校をサボって、千葉にある【千葉デスティニーランド】へと遊びに来た。


 園内はとてもひろい。

 遠くにはお城があって、その周りには花畑が広がっている。


 まるで夢の国に迷い込んだようだ。


「まずはどうしよう?」

「写真撮りたーい!」


 里花が笑顔で手を上げる。


 普段よりも、ちょっとテンション高い?


「あー! 見てみてしんちゃーん! 【すたん】くんだよ!」


「すたんくん……?」


 誰……? 知り合い……?


 こちらに向かって二足歩行する、大きなネズミがやってくる。


「すたん・マウスくんだよ! わぁ! わぁ! すたんくーん!」


 里花が笑顔で大きなネズミに抱きつく。


 体毛は金色で、燕尾服を着ている。


 なぜか背中から大きな大剣を背負っていた。

 ファンタジーベースの世界観なんだっけ、ディスティニーランドって。


「え、記念写真? いいの! すたんくんと一緒に!?」


 すたん・マウスくんはこくんこくん、とうなずく。


「しんちゃん! 写真撮ってもらおう!」


「そうだね」


 やっぱり今日の里花は楽しそうだ。


「わぁ! 見てみて! すたん・マウスくんの仲間達がいっぱい来てくれたよー!」


 ぞろぞろ……と着ぐるみたちが、こちらにやってくる。


「【るーてぃ・マウス】ちゃんに、【ふぃりあ・ダック】ちゃん! あ! 【うっどろう】くんに【こんぐまん】! 【りおん】&【まりあん】ちゃんのペアまでー! すごーい! 勢揃いだぁ!」


 どれも聞いたことない名前だ。

 かろうじて、すたん・マウスくん知ってるくらい……。


「よく知ってるね、キャラの名前」

「全部知ってるわ! あたしデスティニー大好きだもん!」


 そりゃあ良かった。


「えっとじゃあ……写真撮ろうか。スマホスマホ」


 近くに居た【こんぐまん】くんという、ゴリラのキャラクターに、ぼくはスマホを渡そうとする。


「…………」びくんっ!


 こんぐまんくんは、何だか知らないけど過剰に、体を硬直させた。


「え、えっと……どうしたの?」


「…………」びくんびくんっ!


「その、写真お願いね」


 ぼくはこんぐまんくんにスマホを渡す。


「…………」ははー!


 こんぐまんくんは平伏して、何度も頭をぼくに下げる。


 ええー……なにこれ?


「じゃ、えっと……写真とろっか。お城をバックでいい?」


「しんちゃん」


 ずいっ、と里花が怖い顔で近寄ってくる。


「な、なんでしょ……?」


「お城、じゃないわ。【デュナミス】城よ」


 お、お城に御名前がおありでしたか……。


「じゃ、じゃあその……デュナミス城をバックに、写真お願いね」


 こんぐまんくんにぼくが言う。


 こくんこくん、と着ぐるみがうなずく。


 すたん・マウスくんを真ん中に、ぼくと里花が立つ。


 ぞろぞろ……。


 ぞろぞろ……。


「あ、あの……みなさん?」


 デスティニーランドのキャラクター達が、後ろで全員並んでいる。


 しかもなんか跪いてる!?


「ど、どうしたの?」

「みんなで写真撮ろうってこと?」


 ぐっ、とキャラクター達が親指を立てる。


「わぁ! わぁ! 夢みたいだわ! デスティニーのキャラ全員と写真撮ってもらえるなんて!」


 里花がきらきらした笑顔でぼくに言う。


「ありがとうしんちゃん!」


「あ、いや……ぼくの力じゃないんですけど……」


 ないよね?


 貸し切ったのは本家のじいさんだし……。


 ややあって。


 デスティニーキャラ全員との記念撮影を終えたぼくたちは、売店へと向かう。


「まさか全キャラと記念写真できるなんて~♡」


「そんな凄いことなの?」


「そうよ! 普段人がたっくさんいて、記念撮影自体がまずできないんだから!」


 まあデスティニーって人気だっていうし、客一人一人に写真撮影なんてできないのだろう。


「貸し切り、申し訳ないとは思ったけど、とっても良い思い出ができたわ! 本当にありがとしんちゃん!」


 まあ喜んでくれて良かった。


「ところでどこ向かうの?」

「デスティニーに来たら、まずは買うものがあるでしょっ?」


 まず買うもの……? 

 なんだろう……?


 近くの売店へと到着。


「これよっ!」


 ラックに置いてあったのは、耳付きのカチューシャだった。


「あー、よくコレつけて電車乗ってるひと見る」


「買いましょ!」


 ネズミ耳のカチューシャを指さしながら、里花が満面の笑顔で言う。


 う、う……なんかちょっとはずい……。


「……だめぇ?」


 しゅん……。


「問題ないよ! おそろいの、つけよっか」


「うんっ!」


 里花が輝く笑顔でぼくに答える。

 ちょっと恥ずかしいけど、でも彼女が喜んでくれるなら、いっか。


「あの、すみません」


 店員さんにぼくが話しかける。


「へ、へい! ら、らっしゃい!」


 デスティニーのスタッフさん(人間だ)が、びくんっ、と体をこわばらせながら答える。


「えっと、カチューシャほしいんですけど」


「か、かか、かしこまりましたぁ! ど、どど、どのカチューシャがよろしいでおじゃるか!?」


 おじゃるって。


 え、何この人、緊張してるの……?


 そういえば、さっきのキャラクターたちも、どこかぼくにたいしておびえていたような……。


「どれがいい?」

「すたん・マウスくんとるーてぃ・マウスちゃんの!」


「じゃあすたんとるーてぃので」


「しんちゃん?」


 ずい……と里花が、怖い顔を近づけてくる。


「な、なんでしょ……?」


「すたん【くん】と、るーてぃ【ちゃん】、よ? もしくはフルネームで」


「あ、はい……」


 どうやらこだわりがあるそうだ。


 さすがデスティニーオタク。


「ど、どど、どうぞぉ!」


 ぼくはスタッフさんからカチューシャ二つを受け取る。


「おいくら?」

「ひぃい! こ、ここ、高原こうげん様のお孫さまから、お金なんていただけませんぅううう!」


「こうげん、さま……?」


 はて、と里花が首をかしげる。


「本家のじいちゃんの名前。開田かいだ 高原こうげん


「ああ、この間新年会であったおじいさんね」


 ぶるぶる、とスタッフさんが震えている。

 そうか、ぼくじゃなくて、背後にいるじいちゃん……ひいては、開田グループにびびってる、のかな?


「あ、あのタダでもらうわけには……」


「いいえ! いいんですぅ! 高原様には大変、たいっへんお世話になっておられますのでぇ! お金なんてもらったら罰が当たりますぅうううううううううう!」


「いやでも……」


「いいからもらってくださぃ! お願いしますぅ! お金なんてもらったらなんていわれるかぁ!」


 そこまで!?


 じいちゃん、そんなやばいひとだっけ……?


「えっと……じゃあ、本当にただでもらっていんです?」


「もうどーぞどーぞ! なんだったら売店の商品ぜーんぶただで持っていいくらいです!」


「いやさすがにそれは……」


 スタッフさんちょーびびってる。

 じいちゃんの孫ってことで、粗相がないように振る舞ってるのだろう。


 さっきのマスコットキャラも同じか。


「じゃ、じゃあ失礼します」


「はぃいいいい! 楽しんでくださいねぇええ!」


 ぼくらは並んで歩きながら、売店を離れる。

「しんちゃんの家って……改めて思うけど、すごいのね。デスティニーランドにまで影響力あるなんて」


「うーん……どうしてだろう?」


 気になって調べたところ、日本のデスティニーリゾート……。


 全部、開田グループの傘下でした。


 ……うん、見なかったことにしよう。


「ま、まあとりあえずいこっか」


「ちょっとしんちゃん。待って」


 里花がぼくからカチューシャを受け取って、ぼくの頭に乗っける。


 体が……ち、ちかい!

 ちょー甘い匂いがするぅ!


 里花が離れて、ニコッと笑う。


「うん! 似合う似合う! ね、ね、しんちゃん? あたしも似合うかな?」


 里花がるーてぃ・マウスちゃんのカチューシャを身につけて、ぱちんとウインクする。


 ……普段は大人びてる彼女が、幼子みたいにはしゃいでるのが、可愛らしい……。


「うん、ちょーかわいいよ」


「ほんとっ♡ ふふっ♡」


 ……まあこの笑顔が見れれば、なんかもうどうでもいっか。

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― 新着の感想 ―
[一言] おじいさん。気を利かすんだったら普通の貸切じゃなくて一般入場客に見せかけたスタッフを動員するべきだったのう。 そして行くところ行くところがちょうど運良く空いているラッキーさを演出するべきじ…
[一言] 私ウヲルトデズニーの正体を知ってるから余り行った事ないので乗れませんよディズニーは酷いレイシストの外道ですよ?民主党と連み日本に対して酷い攻撃をした外道出し有色人種排斥の旗手だよ?その心情は…
[一言] 「高校生WEB作家」の方では分からなかった衝撃の事実!!
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