3話 ふたりの復讐、と彼女の恋
ぼく、上田 真司。
元カノに裏切られ、クラスメイトたちから馬鹿にされて……。
ギャルの松本さんと一緒に、ラブホテルに居る。
「ま、松本さんの……恋人?」
ラブホのベッドに腰掛けてるぼくたち。
「そ、恋人」
「ば、罰ゲームってやつ……?」
さっき言っていた。
クラスメイトたちは、ぼくを使ってさらなるいじめを画策してるって。
クラスの女子にぼくに告白させて、あとでドッキリだったとバラすいじめって……。
「勘違いしないでよね。別にあんたをいじめる気はないわ?これは復讐よ」
「ふ、復讐?」
「そ。むかつかない? あのくそ女」
「妹子のこと?」
こくん、と松本さんはうなずく。
「あたしね、あの女が、だいっきらいなの。さも優等生って面しながら、他の男と浮気して、平然とあんたを捨てた……あいつが許せない!」
だんっ! と松本さんが、ベッドをたたく。
「……怒って、くれてるの? ぼくのために」
「ば、ばか! 勘違いするんじゃあないわよ! 別にあんたのためなんかじゃこれっぽっちもないんだから!」
「それなんてツンデレ?」
「あ゛? ぶっ飛ばすわよ!?」
「ひぃ! さーせん!」
そ、そうだよね……。
ごりごりのギャルの彼女が、ぼくなんかのこと、好きなんかじゃないよね。
「じゃ、なんで手を貸してくれるの? 復讐に」
「単純にむかつくの。あの女。胸くそ悪いことしてくれてさ」
……なんだろう。
松本さんが、妹子にたいして悪口を言ってくれて……。
少し、心がすっとしている自分がいた。
「こんなことくらいですっきりしてんじゃないわ。復讐はこっからなんだからね」
「ぐ、具体的にどうするの?」
「まずね、あたしとあんたが付き合うの。んで、偽の恋人関係を続ける。あいつの前で、ラブラブしまくるの」
「ら、ラブラブっすか……」
かぁ……と松本さんが顔を赤くする。
「だ、だから! 偽の! 恋人だから! 偽でもラブラブしてりゃ、向こうとしても腹が立つだろ」
「そういうもん……かなぁ」
「普通振った相手にはショック受けててほしいでしょう? でもけろっとしてる。しかも新しい女と付き合ってる」
「それは腹立つ」
「でしょ?」
なるほど……そういうことか。
「しかも復讐するなら徹底しましょ」
「と、いいますと?」
「このあたしが、見違えるくらいの美人になる」
松本さんが自分の胸に手を置いて、にやっと笑う。
「え、何言ってるの? 松本さん十分に美人じゃん」
「にゃ゛……!」
かぁ……! と松本さんがめっちゃ顔真っ赤にする。
え、なに? なに?
「ば、ば、ばかぁ! 変なこと言うなあほ! 話の腰を折るな変態!」
「え、ええー……」
何で切れてるのこの人……。
情緒……。
「と、とにかく。今あたしはほら、いろいろケバいでしょ? 化粧とか、髪の毛とかさ」
「うーん……そうかなぁ。ぼく普通に綺麗だと思うけど。ケバいなんて思わないし……って、どうしたの?」
「な、なんでもねえ! ぶっ殺すわよ!?」
こわっ!
「と、とにかく……今あたしと付き合ってるふりしても、あんまくそ川も動揺しないでしょ。そこで、美人になったあたしと付き合ってたら、さらに悔しいぃ! ってなるでしょ」
「た、確かに……そう、かも」
自分よりも綺麗な女と付き合っていたら、さらに嫌な気分になる……かも?
「あんたはあたしと付き合うの。そしてラブラブするの。その間に、あたしは綺麗になるわ。そんでざまぁ見ろ、って言ってやんの。あのくそ女に!」
にかっと彼女が笑う。
一緒に復讐するっていうのに、すごい……明るい? むしろ楽しそう。
「しかもこの作戦の上手いところは、クラス全体で、罰ゲームするって思ってること」
「あ、そっか。松本さんとぼくとが結託してることは、みんな知らないんだね」
「そう。だから、あたしとあんたが付き合ってても、別に何も言ってこない。むしろ、みんなクスクス笑ってるわけ。馬鹿めってね」
裏で結託してることを知らないクラスメイトたちは、ぼくが松本さんにだまされて付き合っているって思ってるわけだ。
「期限は、1年生が終わる3学期まで。それまでにあたしらは付き合って、ラブラブして……で、終業式の日、お披露目してやるの。美人になったあたしと、あんたがキスして、マジでつきあってまーっすて」
「な、なるほど……! って、ええええええええええ!? き、キスぅううううう!?」
そんなキスするなんて!
「か、かかか、勘違いしないでよね! こ、これはあくまで作戦! 復讐のいっかんだから!」
「そ、そっか……そうだよね」
うん、演技ってことだ。
ですよねー、ぼくみたいな陰キャおたと、優しいギャルとが付き合うみたいなこと、ありえないわけだし。
「で、どう上田。復讐……やる?」
……前のぼくなら、断っていた。
でも……でも!
今回のことは、正直許せないよ!
「やるよ、復讐。やってやろう!」
「ああ、そのいきよ!」
彼女が手を出してくる。
ぼくはその手を握る。
「度肝ぬいてやりましょ?」
「うん! よろしくね!」
こうして、ぼくは元カノとクラスメイトたちに復讐するため、松本さんと、偽の恋人になることにしたのだった。
★
上田 真司と、偽の恋人関係をすることになった。
松本 里花はというと……。
「やったぁーーーーーーーーーー! しんちゃんと、付き合えるぅーーーーーー!」
里花は家に帰ってきた後、ベッドに倒れ込んで、ぱたぱたぱた! とバタ足する。
「ふへへ~♡ やったぁ♡ しんちゃんと恋人~♡ えへへ~♡ やぁったぁ~♡」
里花は、先ほど見せていた強面から一転。
幸せそうにふにゃふにゃと笑っている。
「しんちゃん……ごめんね。つらかったよね……でも……大丈夫、だよ?」
里花は学習机の上に乗っている写真を見やる。
そこには、幼い頃の上田と、そして、隣には女の子が写っている。
とても、ダサく、地味な女だ。
前髪で顔を隠して、服装も地味で、真司の後ろに隠れている……。
地味で、引っ込み思案な……。
【かつての自分】。
「しんちゃんと恋人……恋人、かぁ……ふふっ♡ ふふふふふっ♡」
ぽふんぽふん、と里花はベッドの上で飛び跳ねる。
「せいぜい利用させてもらうよ、くそ川……くそクラスメイトたち、それに、浮気くそ野郎ども」
乙女モードから一転、強面ギャルモードへと、一瞬で変わる。
「あたし、めっちゃ綺麗になってやる。そんで、しんちゃんといちゃらぶしまくってやる。そんで心から、後悔させてやるわ」
里花がにらみつけるのは、ここにはいない、元カノ……中津川 妹子。
「あんたがしんちゃんの良さに気づいて、後から泣きついてきても遅い。あたし、しんちゃんをメロメロの骨抜きにして、ラブラブしまくって……あんたの入り込む余地のないくらいの、恋人関係になってやるから!」
かくして、それぞれの思惑をかかえたまま、彼と彼女の復讐がはじまるのであった。
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