26話 ぼくんちにギャルが泊まる
大雪の日の夜。
三郎さんと次郎太さんの運転するヘリに乗って、ぼくは自宅へと戻ってきた。
ヘリが、ヘリポートに到着する。
「はい真司くんち到着~」
「ちょっ……!? ええ!?」
正面に座るダリアさんが驚愕の表情となる。
「あん? どったのギャル子ちゃん?」
「いやギャル子ちゃんって。彼女はダリアさんね」
ダリアさんが三郎さんに言う。
「え、ちょ……ここドーテーくんちなの!?」
「え、そうだけど。え、なんで驚いてるの?」
「そりゃそうでしょうよ!」
ダリアさんが声を荒らげる。
「だってここ、ヘリポート着いてる超高層マンションじゃん!」
ぼくと三郎さんがそろって言う。
「「え、それが何か?」」
「なにかって……」
なぜか唖然とするダリアさんに、里花がポンポン、と肩をたたく。
「ま、そーゆーことだから」
ぼくらはヘリから降りる。
まだ吹雪いてる。さむっ!
「ほんじゃ!」
「え、ちょっと三郎さん。里花とダリアさんも送ってってよ」
ほえ、と三郎さんが首をかしげる。
「今日、真司君ちに泊まるんじゃあないの?」
「「はぁあああああああああああ!?」」
ぼくと里花が声を荒らげる。
「あれ~? おれなにか間違ってること言っちゃいました?」
「「言ってるよ!」」
え、嘘でしょ!?
ぼくんちにギャル二人が泊まる!?
「普通に送ってってよ!」
「いやそうしたいけどさぁ。二人の家って、ヘリポート着いてるの?」
「「あー……」」
そ、そうか……。
ヘリが着陸するとこがなきゃ、停泊まれないもんね。
里花の家はぼろアパートだし……。
「あーしんちもヘリポートなんてすげえもの着いてないよ~」
「だってさ。ほら、じゃお泊まりじゃん? 電車を含めた交通網全滅してるわけだし?」
「え、で、でもぉ~……」
まさか同級生二人、しかもギャルとはいえ美少女ふたりを、泊めるなんてそんな……。
「あ、あたしは……いい、わよ。てか、泊まりたい」
「え!? い。良いの?」
こくん、と里花が顔を赤くしてうなずく。
「か、勘違いしないでよね! 大雪で家に帰れないから、仕方なくなんだからね!」
ま、まあそうか……そうだよね。
そうじゃなきゃ、ぼくんちに泊まるなんてこと、しないよね。
「あーしも~。泊まらせて~」
ダリアさんもノリノリで手を上げる。
「ドーテーくんち拝見したいし~。どれくらい金持ちなのか、知りたいってゆーか」
「あ、は、はあ……」
あ、あれぇ?
二人とも、いいのかな?
ぼくだよ? 男だよ? しかも同級生だよ?
なんでこんなウェルカムなんだ……!
「ほら問題解決じゃん。くぅ~。このこの真司くん! ギャル二人と3Pじゃーん」
「ばかーーーー! さっさとかえれー!」
ぼくは失言ターミネーターの背中をぐいぐいと押してヘリに戻す。
「そんじゃ! 真司くん!」
「うん、ありがと。次郎太さんも!」
ぼくは二人に手を振る。
ぐっ、と次郎太さんは親指を立てると、ヘリを発進させた。
ヘリポートに、取り残されるぼくたち三人。
「え、ええっとぉ~……本当にぼくんちに泊まるの?」
ぼくは里花とダリアさんを見て言う。
「あ、当たり前でしょ……こんな寒空の元、放り出すっての?」
ぎろり、と里花ににらまれる。
寒いのだろう、顔がしもやけで真っ赤だ。
「だいじょーぶ。あーし邪魔しないから。いざとなれば別の部屋で耳栓してるから」
「「な、何の話だよ!」」
「え、3Pがいいの~? んも~♡ しょうがないなぁ~♡」
「「ちっげーよ!」」
何はともあれ、突発的なお泊まりイベントが発生する羽目となったのだった。
あわわ、ギャルとお泊まりなんて……!
★
「なんじゃこりゃーーーーーーーー!」
ヘリポートから降りて、ぼくは彼女たちを部屋に連れてきた。
「で、で、でかすぎるでしょー!?」
玄関を見てダリアさんが驚いている。
「ど、ドーテーくん何コレ!? どこのホテルのスィートルーム!?」
ダリアさんが詰め寄ってくる。
むわ……とむせ返るような、南国の花のような匂いがする……えっちぃ……。
「え、っと……どこかへん?」
「変ていうか、なにこれありえないでしょ。ふっつーに、あーしの家の何倍もでっけえんだけど……」
ぽんぽん、と里花がダリアさんの肩をたたく。
「こんなことくらいで驚いてたら、体が持たないわよ」
「は、はぁ~……? ん?」
ダリアさんがハテ、と首をかしげる。
「ん~? んぅー……りかたんさぁ」
「なによ?」
「んー……ま、いいや。なんでもない」
「気になるじゃないの……」
ふるふる、とダリアさんが首を振る。
「あ、じゃあ二人は中で待ってて。今食器とか取ってくるから」
ぼくは【出入り口】のドアに手をかける。
「え、しんちゃん、どこいくの?」
「え、だから食器をとりに。ここそんなにないからさ」
はて、と二人ともが首をかしげる。
「食器を取りに……どこいくの?」
「? だから、母さんの部屋に」
「「? ?? ???」」
あ、あれぇ~?
なんで通じないんだろう……。
「お義母さんの部屋にいくのに、なんで部屋から出てくの?」
「え、だって母さんの部屋、下のフロアにあるから」
「「はぁあああああああああああ!?」」
里花とダリアさんが、そろって驚く。
あ、あれぇ? ぼくまた変なこと言ってる……?
「ま、待て待てドーテーくん。今、下のフロアって言った?」
「うん。母さんの部屋がこの下のフロア。父さんの部屋は上のフロア。このマンションの上3フロアが、ぼくんちだから」
ぽかーん……とダリアさんが口と目を開いている。
「わ、わけわかんない……え、ど、どーゆーこと……?」
里花が呆然とつぶやく。
「このでっかいお部屋が、しんちゃんの部屋じゃないの?」
「? 違うよ。このフロアまるごとぼくの部屋。ここはその一画……だけど、え? どうしたの二人とも……?」
二人が目玉が飛び出るんじゃないかってくらい、目を見開いている。
「つ、つまり何……? この超豪華な部屋は、しんちゃんの持ってる部屋の、1つでしかないの?」
「え、うん。あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないわよぉおおおおおおおおお!」
里花がぼくの肩をつかんでぐんわんぐわんと揺らす。
「え、うそ!? ここしんちゃんの家族が住んでるって【ずっと】思ってたけど、え、部屋の一つでしかなかったわけ!?」
「う、うん……そうだよ……」
「な、んてこった……」
がくん、と里花が肩を落とす。
するとダリアさんが言う。
「てかさー。りかたん。ちょーっとおかしいなって思ってたんだけどさ~。あ、ドーテー君ちはおかしいけど」
おかしい?
「りかたん、さっきからちょいちょい発言おかしくね? なーんか、ここ来たことあるような発言してるし~?」
ぎくり、と里花が体をこわばらせる。
「ああ、それは前に風邪引いたときに、来てくれたんだ」
「ふーん……ふーん……ふーーーーーーん……?」
じろじろ、とダリアさんが、里花の顔をのぞき込む。
里花が気まずそうに目をそらす。
「ほんとにそれだけ~?」
「そ、そうよ……」
「……あ、っそ。ま、詮索はしないよ~」
ほっ……と里花が安堵の吐息を着く。
「いやしかし……さすがドーテーくん。金持ちだって思ってたけど、ここまで異常だとは……」
異常?
「あ、ちょっと家が狭いってこと?」
「「広すぎるってことだよっっっ!」」
二人が綺麗に、ぼくにツッコミを入れるのだった。




