23話 ギャルたちと昼ご飯
あくる日の、お昼休みの教室にて。
「しんちゃん、おひるたべよー♡」
里花がテーブルをくっつけながら言う。
みんなを見返す一環として、これから教室で、ご飯を食べようってことになったのだ。
「おいっすー」
「ダリアさん」
里花の友達、隣のクラスのダリアさんも教室へとやってくる。
やべ、とすぐに察したような顔になる。
「あ、ごめ。あーしお邪魔だったみたいだね」
ダリアさんが帰ろうとする。
「いや、いいよ。ね、里花?」
復讐という目的ももちろんある。
けど里花の友達を追い返すのは良くないって思った。
「もちろん。ほらダリア、座りなさい」
「お、せんきゅ~♡」
ダリアさんがもう一つ机をくっつけて、三人でご飯を食べることに。
……女子二人に囲まれて食事なんて、感激だなぁ。
里花とダリアさんが、テーブルの上にそれぞれ、弁当を出す。
里花は可愛らしい小さなランチボックス。
ダリアさんは銀紙に包まれたおにぎり。
「あれ? ドーテーくんお昼は?」
「いつもは学食なんだ。でも……今日は里花とお昼食べるから、弁当」
けれどテーブルの上をみわたし、里花が首をかしげる。
「しんちゃんの弁当は?」
「もうすぐ来ると思う」
「「来る?」」
と、そのときだった。
「へいおまちー!」
ぱーん! と教室のドアが開く。
「「「た、ターミネーター!?」」」
教室に入ってきたのは、黒服マッチョのサングラスお兄さん……。
「さ、三郎さん!?」
「やーやードーモ、ターミネーターサン、です」
三郎さんが頭を下げる。
「な、なんだありゃ……!?」「こええ……!」「映画の撮影!?」「殺し屋!?」
教室に激震が走っている。
ああ……はずい……。
「ちょ、ちょっと三郎さん! なんで教室に入ってくるのさ!」
ぼくは彼を廊下に追いやる。
「え、でも弁当頼んだの真司くんだよね?」
「そうだけど! 誰が教室まで持ってきてって言ったのさ!」
「いやほら、結構重いから、よかれと思って~ごめんね」
まあ悪気があった訳じゃあないから……。
「次から取りに行くから校門で待ってて。あとお兄さんによろしく言ってて」
「かしこま★(横ピース)」
三郎さんがのっそのっそと去って行った。
ぼくは渡されたお弁当を持って教室へと戻る。
「「「…………」」」
く、クラス中からの視線が……痛い……!
ぼくは机に戻ると、里花とダリアさんもきょとんとしてた。
「あ、えっと……ごめん驚かせて……」
里花は三郎さんと面識があったから、そこまで驚いてる感じはない。
一方でダリアさんは困惑顔してた。
「ど、ドーテーくん!? 大丈夫なの!?」
ずいっ、とダリアさんが身を乗り出す。
「借金!? 悪いところから親が借金したとか!? さっきのは取り立て人!?」
「ち、違うよ……」
「じゃあ誰!? 借金だったらあーし相談に……」
「だ、ダリア……ちょっとあんた落ち着きなって」
里花になだめられて、ダリアさんが席に戻る。
「えっと、さっきのは知り合い。ぼく自分で弁当作れないから、頼んだの」
「し、知り合い……あのターミネーターみたいなのが?」
「うん。ちっこい頃からの知り合い」
ほっ……とダリアさんが大きく安堵の吐息を着く。
「よかったぁ……。でも……ドーテーくん、お金は計画的に借りなきゃ駄目だよ」
「え、あ、うん……ありがと」
まあ別に借りるほどお金で困ってないけど……。
でもダリアさん、どうしたんだろう。
さっきのリアクション、ちょっと尋常じゃない感じだった。
借金に何か嫌な思い出でもあるのかな……?
「ま、何はともあれ、お昼にしよかった」
ぼくは三郎さんからもらったお弁当を、テーブルの上にのせる。
ドンッ……!
「「はぁ……!?」」
里花達が目をむいている。
ぼくは風呂敷包みを開く。
五重の弁当箱があった。
「いやちょっと……しんちゃん!? これなに!?」
「え、お弁当。あ、三郎さんのお兄さんがね、料理得意な人なんだ。その人にお弁当を頼んで作ってもらったの」
ぼくはテーブルの上に5つに重なった弁当を広げる。
「ちょっと張り切って作り過ぎちゃったみたい……コレやり過ぎだよね……」
まったくもう。
次郎太さんってば、ぼくが友達とご飯食べるって言ったら、張り切り過ぎちゃったみたい……
「いや……え? しんちゃん……なに……」
「ど、ドーテーくん……なんかこれ……い、伊勢エビとか入ってない?」
弁当の中身はごくごく普通のものだった。
伊勢エビのグラタンとか、アワビとか、あ、フォアグラも入ってる。
「そうだね。あ、でも特別な日とかいつもこんな感じだよ」
「いや、いやいや……いやいやいや! 特別な日だろうと関係なく、こんなの食べれないよ普通!」
あ、あれ……そうかな。
でも小さいとき……運動会とかで、こういうの出てたよ?
特別な日ならこれくらいは……ねえ?
「ど、ドーテーくん……も、もしかして……お金持ちなん?」
「えーまあ、ちょっぴり」
「どーみてもちょっぴりじゃあないんだけど~……わ~……すげ。ね、写真撮ってもいい?」
「どうぞどうぞ」
ぱしゃぱしゃ、とダリアさんが写真を撮る。
「インスタにあげても?」
「あ、うん。出来れば個人名は出さないでほしいかな」
「おk。いやぁ~スゴイお弁当だね~♡」
一方で里花が恐る恐る聞いてくる。
「あ、あの……しんちゃん。ごめんね……普通のお弁当で……」
スゴイ申し訳なさそうな里花。
「何言ってるのさ! ぼく里花のお弁当ちょー楽しみにしてたんだから!」
「そ、そぉ~?」
「うん! みんなで食べよ?」
インスタに投稿し終わったダリアさんが、ニコッと笑って、里花の肩をたたく。
「ほらりかたん、たべよーぜい♡」
「そ、そうね……いただきます」
ぼくらはおかずを交換しながら、弁当を食べる。
ぼくは里花のお弁当のなかから、唐揚げをチョイス。
サクッ!
「うまい! 里花のからあげ……ちょーおいしい!」
「ほ、ほんとっ?」
「うん!」
時間が経ってるはずなのにサクサクでジューシーだ。
「え、えへへ……♡ そ、そう……あ、朝から頑張って作ったの……♡ 自信作なんだ……♡ しんちゃんに食べてほしくって」
顔を赤くしながら、もじもじする里花。
ダリアさんはニヤニヤと笑う。
「大好きな彼のために早起きしておべんと作るなんて~♡ このこの~♡ りかたんって見た目に寄らず正統派ヒロインなんだから~」
「か、からかわないでよ! ……えへへ~♡」
ふにゃふにゃと里花がスゴイうれしそうにしてる。
「しっかしりかたん、ドーテーくんのお弁当もマジでやばいよ。料理人が作った料理だよ」
伊勢エビグラタンを食べながらダリアさんが興奮気味に言う。
「こんな美味い料理作る人と知り合いなんて、ドーテーくん何ものなん?」
「いやぁ……普通の高校生だけど」
すると……ぽこんっ♪ とダリアさんの携帯に通知が入る。
「んえ? な、なんじゃこの通知の量!?」
「どうしたのよ?」
ダリアさんが目を丸くしているところに、里花が尋ねる。
「な、なんかさっきインスタに写真投稿したんだけど……写真にめっちゃコメント着いてる……うわ、リアクションもやば」
ダリアさんのスマホには、ずらーっとコメントが並んでいる。
「【ロジータさんのお弁当ですか?】……だって聞かれてるけど、知ってる?」
ぼくが二人に尋ねる。
「「えぇ!? 知らないの!?」」
ギャル達から驚かれてしまった。
あれ? 知らないのぼくだけ……?
「ロジータっていえば、有名なインスタグラマーじゃないの!」
「料理動画とか写真とかめっちゃあげてて、超有名な人だよ! うわ、ロジータさんの弁当だったんだ! うわまじ? すげえ……」
そもそもロジータさんって誰だろう……?
「え、っと……人違いじゃない? 作ったのは三郎さんのお兄さん……次郎太って人だし」
あの人確かに料理はプロ級だけど、そんな有名なインスタグラマー? ってやつじゃないと思う。
「いやでもめっちゃコメント来てるし……本人なんじゃね~?」
「うーん……ちょっと本人に聞いてみるかな」
ぼくは次郎太さんに、お弁当のお礼のメッセージを送る。
いえいえ、とポムポムプ●ンが首を振ってるスタンプが送られてきた。
次にロジータさんって知ってる、って聞いてみる。
すると……。
「あ、本人みたい」
「「ほらぁ……!」」
里花たちが驚愕の表情を浮かべる。
「すご……ドーテーくんロジータさんと知り合いなんて~……」
「しんちゃん……ほんとお家凄いのね……」
ぼくも次郎太さんがまさか、ネット界隈で有名人だとは知らなかった……。
単に優しいお兄さんって印象だったし。
「ま、まあまあ……とにかくご飯食べよ」
「そうだよりかたん。ほらほら~。彼氏がいるんだから、あーんしてやりなよ、あーんって♡」
え、えええ!? そ、そんな……あ、あーんだなんて!
「そ、そそそ、そうね……!」
里花が顔を真っ赤にしてうなずく。やる気だ!
え、でもそんな……人目につくのに……。
「……に、ニセコイでしょっ」
「……あ、そ、そっか」
コレを見せつけるのも、ぼくらの復讐になるからね。
うんそうだ、復讐のため……うん……でもはずかしいなぁ。
「ほ、ほら……あ、あーん」
里花が卵焼きを手に取って、ぼくに向けてくる。
「あ、あーん……」
気恥ずかしい……と思いながらぼくは一口。ぱくんと。
塩っ気が少しきいてて、ちょうどいい。
「どう?」
「うん! とっても美味しい! 里花は良いお嫁さんに……なれるよ!」
「も、もぉ~♡ ば、ばかぁ~♡ きがはやいわよぉ~♡」
ふにゃふにゃ笑いながら、里花が照れてる。
「あー、お熱いねー、おふたりさーん」
そんな風にぼくらは和やかに食事をした。
「……なんだあれ」「……さっきのすごい黒服だれ?」「……しかもギャル二人をはべらせての食事だと?」「……上田のやつ、なんだよ罰ゲームじゃなかったのかよ」
……クラス中に波紋を起こす結果を伴って。