2話 ギャルにラブホで告られる
松本 里花さん。16歳。
ぼくと同じクラスの女子だ。
とっても綺麗なひとだけど、ちょっと怖い。
ごりっごりに染めた金髪。
お尻が見えるくらいのミニスカート。
ちょっとケバいくらいの化粧に、きつい目つき。
誰かが言っていた。
松本さんは、学校1のギャルだって。
彼女にまつわるうわさは多い。
不良と友達だとか。
エンコーしてるだとか。
入学して学校の男子100人と、その……せ、せっく……あれをしたとか。
真偽のほどは不明。
けれど、学校でとても目立つ存在の、二人のうち一人だ。
……ちなみにもう一人は、ぼくの元カノ・中津川 妹子。
彼女は【タカナワ】っていう凄い大きな会社の社長令嬢なんだ。
どれくらい大きいかって言うと、デジマスっていう、今日本で一番有名な作品を出版している。
来年にはデジマスの映画【無限天空闘技場】編が公開予定。
一説によると、100億円は稼ぐだろうって言われてる。
そんなビッグタイトルを抱えるレベルに、妹子の親の会社は大きいんだ。
容姿端麗、成績優秀、そして社長令嬢……。
一説によると学校1の美少女らしい。
そんな美少女とぼくが付き合えていた時点で奇跡だ……まあ、もう捨てられたけどね……。
「で、なんで……ぼく……ここにいるんだろ……」
ぼくが居るのは、どこかのラブホ。
今はシャワーを浴びていた。
松本さんにいったん落ち着けって言われて、風呂に入りに来たのである。
驚いたことに湯船にはお湯がためられており、入浴剤まで用意しててくれた。
風呂に入って、ちょっと気分が落ち着いた。
ぼくは風呂から上がって、タオル地のガウンを着て出る。
「おっそい」
「ご、ごめんなさい……」
松本さんはベッドに座って、スマホを操作していた。
ちなみに彼女も同じガウンを着ている。
……あれ?
冷静になって、ぼくってクラスの女子と、ラブホに居る!?
え、ええ!? じゃ、じゃあえ? えっち……したの!?
「なんか変なこと考えてない?」
「うぇ!? べ、別にそんなぼくはそんな……」
はぁ……と松本さんが溜息をつく。
「座って。説明するから、状況」
松本さんの隣に座ると、彼女が説明し出す。
「あんた、気絶してたの。ゲロって」
思い出した。
ぼくは今日、恋人の妹子とデートする予定だったのだ。
けど4時間待ちぼうけ食らった後に、いきなり別れ話を突きつけられた。
その後、妹子をクラスの男子に寝取られたこと。
そのことがクラス中にバラされてしまったことを知って……。
気持ちが悪くなって、吐いて、倒れたんだ……。
「あんたをあのままおいてくわけにもいかないから、ここに来たわけ」
「な、なるほど……あ、ありがとう」
「もっと感謝しなさいよ、上田」
……あれ?
「でも……松本さんまで、なんでここに?」
ぎろり、と松本さんがにらんでくる。
「あんたにゲロぶっかけられたからに、決まってんでしょうが」
「あっ!」
そうだ、思い出した!
倒れそうになったぼくを、彼女が介抱してくれようとしたんだ。
でもそのままぶっかけて……うわぁああ!
「ご、ごめんなさいぃいいいいいいいい!」
ぼくはジャンプ&土下座する!
「ほんとごめんなさい!」
なんてことしてしまったんだ!
相手は女の子だぞ!?
なんてことを! ああ!
「…………」
顔が見えない。怒ってる……よね?
確実に怒ってる。
だって、あの、学校1のギャルだよ?
怖いあの松本さんだよ!?
こ、殺される……かも?
「はぁ……。ま、いいわよ」
「え……?」
ぼくは、恐る恐る見上げる。
彼女は不機嫌そうにはしてた……けど。
でも……怒ってるようには、見えなかった。
「いいっ、てのは?」
「だから、ゲロぶっかけたことは、水にながしてやるってこと。わざとじゃないんでしょ?」
「て、天地神明に誓って!」
「ぷっ……なにそれ。ウケる」
彼女が目を細めて笑う。
……不覚にも、ドキッとしちゃった。
だって松本さん、美人なんだもん。
足もすらっと長いし、おっぱいも大きいし、顔もめっちゃ小さいし……。
「ま、とにかくあの状況じゃしょうがないわよ。ここに運んだのはランドリーのついてるラブホだから」
「そ、そっか……ありがとう。本当に……ありがとう……いろいろ」
ゲロって迷惑かけただけじゃない。
気絶したぼくを運んでくれて、しかも服まで着替えさせてくれた……え?
「あ。あのさ……松本さん。ぼくの服って……」
「あたしがひんむいた」
「ですよねぇ……!」
え、び、美少女に服を脱がされるなんて……それなんてエロゲー!?
……って、駄目だ。
こういうとこが駄目で、嫌われたんだ……妹子に……。
「はぁ~~~~~~~~うっざ」
松本さんが不機嫌そうに言う。
「……ご、ごめん」
「謝るなし。別にあんたにいらついてるわけじゃないから」
「……? どういう、こと」
松本さんは足を組み替える。
ち、ちらって太ももが見えた。
え、あれ……もしかして、下着とかも洗ってる……?
「上田」
「あ、はい」
「なんであたしがここにいるのかって、疑問に思わなかった?」
「そういえば……」
そうだ。松本さんがぼくを助ける義理もない。
そもそも、あの場に、ぼくに会いに来てくれる理由もない。
「あのね、上田。あたしね……あんたに告りに来たの」
「告りにって、………………へ…………? ええええええええ!?」
告るって、告白!?
なんで!? どうして!?
「あ! も、もしかして……振られてぼくがフリーになったから、今がチャンスって思って……とか……? あいたっ」
松本さんがぼくの額をつつく。
「おめでたいやつね?女に裏切られたばっかだってのに」
……そうだ、裏切られたんだ。
妹子は、ぼくのこと、オタクだから嫌い、だから別れたいっていった。
でもクラスのグループLINEで、妹子はクラスの男子に寝取られたってことが、知れ渡ったらしい。
つまり妹子はぼくに黙って浮気をして、そいつと付き合っていた。
で、不要になったから、ぼくを捨てたってこと、だよね……。
「じょせいこわいよ……」
「そう、女は怖い存在なの。そんなオメデタイ頭だからだまされるの」
「はい……すみません……返す言葉もございません……」
はぁ~……と松本さんが溜息をつく。
「話の続きね。あたしがここに来たのは、罰ゲームのため」
「罰ゲーム?」
「そ。グループLINEではね、こんな流れになってるの。【振られたオタクくんをからかってやろうぜ~】って」
「からかう……?」
こくん、と松本さんがうなずく。
「クラスの女子から1名、イケニエが選ばれる。そいつは傷心のオタクくん……つまりあんたね。あんたに告って、偽の恋人となる」
「偽の恋人……」
「で、最後にドッキリでしたー! ってやるんだってさ」
……地獄ですか、ここは?
え、なんで……そんな地獄みたいなことを……?
「ぼく……そんなことされる、理由あったかなぁ……」
「……あんた気づいてないの? だいぶ嫌われてるわよ、クラスで」
「え゛? まじ?」
「うん、マジ」
うそぉ~……。
え、なんで? 比較的目立たないように、地味に生きてきたつもりなのに!?
「学校1の美少女と付き合っといて、何が地味よ。ウケるわ」
「あー……」
つまり、妹子と付き合っていたことで、不興を買っていたってことか……クラスメイトたちから。
「あんたが振られてみんなざまぁみろって思ってるのよ。んでもっとひどい目に遭わせようってさ」
「そ、か……。あれ?」
だとしたら、おかしなことがある。
「なんで、松本さん……そのこと暴露してるの?」
そうだよ。クラスで結託して、ぼくをいじめようとしているのなら……。
彼女がネタバレしちゃだめじゃないか。
だって仕掛け人は彼女なんだから。
「あたしね……嫌いなの」
「嫌い……?」
「こういう、陰湿ないじめが、だいっっっっっっっっっっっきらいなの!」
憤怒の表情を浮かべる、松本さん。
……あれ?
普通に……いい人?
「上田。あたしは別にあんたのことなんかこれっぽっちも好きじゃないんだからね」
「ツンデレ乙」
「あ゛?」
「ひっ……! すみません!」
そ、そうだよね……。
松本さんみたいな、ゴリゴリのギャルが、ツンデレなんて……おたっきーなこと、絶対知ってるわけないもんね。
それに、ぼくみたいなくそ陰キャのくそおたくのことを、好きだなんて……100%確実に、あり得ないもんね。
「……そんなに謝らなくて言いのに、しんちゃんのばか」
「え、なんだって?」
「な、なんでもない! 殺すわよ!?」
なんで!? こわっ……!
こほんっ、と松本さんが咳払いをする。
「さて……じゃ本題に入るわよ」
びしっ、と彼女がぼくに指を指す。
「あんた、あたしの恋人になりなさい」