18話 三学期スタート
第二部スタートします!
皆様からたくさん応援してもらえたおかげです!
年明けから数日経ったある日。
今日から学校が再スタートする。
ぼくは待ち合わせ場所へと向かっていた。
「はぁ……寒い……」
この寒さは去年のクリスマスイヴに匹敵する。
ぼく……上田 真司は去年、恋人である中津川 妹子から、手ひどい裏切りを受けた。
深い悲しみに沈みそうになったぼくに、手を差し伸べてくれたのは、彼女。
「あ、里花……!」
待ち合わせの公園の前に、ひとりの女子高生が立っている。
背は女子にしては高く、長い金髪をしている。
大きな胸にくびれた腰、むちっとした太もも。
大きな猫目が特徴的。
彼女は松本 里花。
一応、ぼくの彼女……である。
「や、しんちゃん。久しぶり」
にっ、と笑うと里花が手を振る。
ふわふわもこもこのマフラーと耳当てがキュートだ。
「うん。正月ぶりだね」
新年会があってから昨日まで、ぼくは両親の居る海外にとどまっていたのだ。
学校があるから昨日帰国した次第。
「あれ、里花……なんか、変わった?」
まじまじと彼女を見ると変化が見える。
「髪の毛が……プリンみたいになってる」
髪の毛が少し伸びている。
そして頭頂部が黒くなっていた。
「染めてないからね、今」
「それと……スカートがなんか少し長くなったし、タイツもはくようになったんだ」
前はお尻が見えそうなほど短いスカートに生足だった。
「まー最初はこれくらいの変化からかなって。本当は真っ黒に染めようって思ったんだけど、髪が傷むかなって」
「それがいいよ。せっかく綺麗な髪の毛なんだもん」
かぁ……と里花が顔を赤くして、マフラーに顔を埋める。
「あ、ありがと……」
「う、うん……」
照れてる里花が可愛らしくて、ぼくもつられるように照れる。
「いこっか」
「そうだね」
ぼくらは並んで、学校へと向かう。
1月の寒さがぼくらの体をむしばんでいく。
北風が吹くと、ぶるりと体が震えた。
「しんちゃん……寒い?」
「うん、ちょっと」
「手袋は?」
「忘れちゃった」
昨日までハワイにいた。
寒いのをすっかり忘れていたからか、防寒意識が低下していた。
「それじゃ……ん。しんちゃん」
里花がぼくに手を伸ばしてくる。
「え?」
「もうっ、鈍いわね!」
ぼくの手をはしっとつかむ。
「ほ、ほら……あったかいでしょ……」
「う、うん……」
里花の手は温かい。
じんわりじんわりと体温が、彼女から伝わってくる。
「これ、端から見たら誤解されちゃうね」
「か、勘違いしないでよね! これは、え、演技なんだから! 恋人の!」
ぼくと里花は共犯関係にある。
偽の恋人……ニセコイってやつだ。
ぼくらは学校へ向かって歩き出す。
「現状を整理するわよ。現在、あんたは元カノ……中津川 妹子に浮気されてフラれた」
「あ、はい……辛かったです……」
「しかし浮気され、クラスの木曽川 粕二に取られたってことが、クラスのグループLINEに出回ってしまってる状態」
「で、そこで……ぼくに罰ゲームとして、女と付き合わせようって流れがあるんだよね」
「そう。傷心のしんちゃんに女をあてがって、最後に実は嘘でしたーって明かすんだってさ」
クリスマスイヴから2週間くらいが経過していた。
「LINEの会話を見てる限り、あたし……松本里花が罰ゲームで、しんちゃんと付き合ってるってことが、クラス中には浸透したみたいね」
クラスメイト達はぼくが騙されて絶望してる様を見て、楽しもうとしているんだろう。
けれど残念、里花は内通者。
彼らの企みはまるっとお見通しなのである。
「これが現状。じゃこれからどうするかだけど……」
「ぼくは何も知らない状態を装って、里花に騙されてるふりをするんだね」
「そう。その間にあたしといちゃいちゃしまくる。三学期の最後に、種明かししてやるの。綺麗になったあたしを抱いて、本当に付き合ってるんです、ざまぁみろってね」
見返してやる相手の中には、ぼくを捨てた元カノ……妹子がいる。
「というかメインは妹子に後悔させることよね。あんな家が金持ちなだけのクズなんかより、あたしの方が何倍もいい女だって知らしめてやるんだから」
服装チェンジも、髪をのばしてるのも、その一環だそうだ。
確かにちょっと服装と髪型がかわっただけで、今でも普通に可愛いし。
「どうしたの?」
「あ、えっと……今でも十分可愛いよって思っただけ」
「~~~~~~~~~! ば、ば、ばかぁ~♡」
ふにゃふにゃ、と里花がとろけた笑みを浮かべる。
「そ、そういうのは、教室で言いなさいよぉ♡ 人前で褒めないと意味ないじゃなーい♡」
「それもそうだね」
ぼくらのラブラブっぷりを見せつけて、クラスメイト、ひいては妹子を悔しがらせないといけないわけだし……。
「そ、そうよ……ま、まあ? 練習って大事だし? 本番直前になってあわててだと、ぼろが出ちゃうだろうから?」
こほん、と里花が咳払いをして、ちらちらぼくを見やる。
「教室の外で、今みたいに思ったことは素直に言うといいと思うわ?」
「そっか。なるほど。じゃあ……今日も可愛いよ里花は」
「~~~~~♡」
ふにゃふにゃと、お湯に入れたとろろ昆布みたいにとろけた笑みを、里花が浮かべる。
「笑ってる君はとってもキュートだね」
「あぅ……♡」
「照れてる君もとっても素敵だよ」
「た、たんま……ちょっとたんま……」
ぜえはあ……と里花が息を切らしながら手を上げる。
「どうしたの?」
「そ、そんな一気に言われたら、処理が追いつかないわ」
「? ごめん」
里花が小さくつぶやく。
「……こ、これは心臓が持つかしら。死んじゃいそうなくらい幸せだけれども」
ほどなくして、ぼくらは学校へと到着する。
「さ、本番ね」
「うん、がんばろ」
手をつないだままのぼくらは、ニッと笑う。
そのまま教室へと向かう……。
がらっ、と里花がドアを開ける。
「「「…………」」」
クラスメイト達の視線がぼくらに集まった。
目を丸くして、けれど、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべる。
「……無視よ無視」
「……りょーかい」
クラスメイト達からああいう目をされても、ぼくは気にしない。
だってぼくには心強い味方がいるんだから。
ぼくの席まで二人で行く。
一番後ろの窓際の席だ。
「どこまでついてくるの、里花?」
「あきれた。あんたのとなり、あたしの席よ?」
そういえばそうだった。
里花がぼくの隣に腰を下ろして、やれやれと首を振る。
「今まで気づかないなんて、彼氏失格ねぇ~」
これはもう演技入ってる……のかな?
「ごめんって」
「いーや、ゆるさないんだから。帰りにどっかよっておごってくれないと」
「いいよ。帰りにどこかいこうか」
「やった~♡ しんちゃんやっさし~♡」
里花がぼくに抱きついて、頬にキスをしてきた……。
って、えええええええええええ!?
き、きすぅ~~~~~~~~!?
「……ば、ばか。勘違いしないでよっ。こ、これは演技! 演技だからっ!」
「……あ、そ、そうか」
そうだよね、うん、演技、演技ですよね……。
で、でも頬にキスはやり過ぎでは……?
「こ、これくらいは、と、当然でしょ。あたしたち……もっとスゴイこと、し、したんだからっ!」
がたんっ。
「す、スゴイことって……?」
「ば、ばか……恥ずかしいこと思い出させないでよ~♡」
それは年始のことを言ってるんだろうか。
確かに一緒に彼女の部屋で泊まったけど……!
と、そのときだ。
「ねえ、ちょっと」
ふと、誰かが声をかけてくる。
左隣を見上げると、そこには……。
元カノ、中津川 妹子がいたのだった。