17話 プロローグ終わり、三学期へ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
翌朝。
「う、ううーん……」
ぼくが目を覚ますと、最初に感じたのは……。
「さむっ!」
猛烈に寒かった。
ぼくは布団の中に潜り込んでブルブルと震える。
「あ、しんちゃん起きたー?」
布団から顔を出すと、里花が笑顔で立っていた。
すでに私服に着替えている。
……というか、部屋の中でもコートでした。
「おはよ。もう朝ご飯できてるから、お着替えしてね」
「うん、わかった」
布団の中でもそもそと服を着替える。
ぷはっ、と顔を出す。
布団を折りたたんでしまおうとして、はたと気づく。
「あれ……? 誰か居る……?」
元々ぼくが使っていた布団がこんもり丸くなっていた。
「んがー……すぴー……ぷしゅるるるぅ~……」
ふわふわした髪の毛の、可愛らしい女の人が居た。
かなり童顔だ。
でも化粧してる。がっつりと。……って、あれ?
「ん? んんー? この人……ぼく、どっかで会ったこと、あるような……気がする……?」
「あさごはんできたよー。台所きてー」
「あ、うん」
ぼくは里花に呼ばれて台所へ行く。
布団が引かれてるから、テーブルが広げられないのだそうだ。
キッチンにご飯を置いてぼくらは朝ご飯を食べる。
トーストとハムエッグだった。
普通に美味しかった。
「ねえ……里花」
「ん? なに?」
「あの……さ。あそこで寝てる女の人って、誰?」
童顔のお姉さんを指さす。
「だれって、お母さんに決まってるでしょ」
「あ、そっか」
それ以外にここに人がいるわけないか。
お母さんは水商売してるっていっていた。
「明け方帰ってきたのね。いつも昼まで爆睡してるから、起きないわよ」
「そっか、挨拶したかったなぁ」
「よろしく伝えておくわよ」
……けど、なぜだろう。
どうしてぼくは、里花のお母さんを見て、どこかで見たことがあるんだなんて思ったんだ……?
わからない……。
ややあって。
ぼくは里花と一緒にアパートをあとにしていた。
駅まで送ってくれることになったのだ。
「ところでさ、しんちゃん。冬休みの予定って、どんな感じ?」
隣を歩く里花が、ぼくに尋ねてくる。
「残りは海外」
「か、海外?」
「うん。母さんと父さんに会いにいくんだ。残りはあっちで過ごす」
「そう……」
残念そうな里花。
「次会うのは三学期だね」
「うん、いよいよ本番ね。あたしたちの、復讐の」
そうだ、忘れるところだったけど、ぼくらには共通の目的があった。
ニセコイ関係になったのは、ぼくを馬鹿にしたやつらを見返してやるためだ。
「なんかそっちがメインだったのに、忘れたよ」
「奇遇ね、あたしも」
ぼくらは顔を見合わせて笑う。
「ここ数日すっごく楽しかったよ。ありがと、里花」
「ううん、こちらこそ、楽しかったわ」
気づけばもう駅に着いてしまった。
ああなんで、こんなに近いんだ……。
「あのね、しんちゃん。知ってた? 実は年末年始って、終電ないのよ?」
「へー……え、ええ!? そ、そうなのぉ!?」
え、だって……じゃあ別に、昨日泊まる必要なかったじゃん!?
「どうして黙ってたのさー!」
すると里花が頬を赤く染めると、小さくつぶやく。
「……あなたと一緒に、居たかったの」
……それだけで、ぼくは何も言えなくなってしまった。
一緒に居たかった、だって?
それは……ぼくもだったからだ。
「「…………」」
ぼくらは黙ってしまう。
お互い照れくさくて、目を合わせられない。
「いつまでもこうしてても邪魔だし、帰るよ」
「うん、そうね」
ぼくは改札をくぐる。
里花が微笑んで、手を振ってくれていた。
「里花ー!」
ぼくは大きな声を上げて、彼女に言う。
「三学期も、よろしくねー!」
里花は強くうなずくと、大きく手を振り返してくれる。
ぼくはきびすを返してホームへと向かう。
ここまでは、プロローグみたいなもんだ。
これから始まる……学園生活が。
いろいろあって辛い時期も経験した。
学校でも多分結構いろいろあると思う。
でも……大丈夫。
ぼくには里花って言う、心強い味方がいるから。
ぼくは臆することなく、前に進もうと、そう思ったのだった。
★
松本 里花は、上田 真司を駅まで送り届けたあと……。
自宅へと戻ってきた。
「……しんちゃん」
とくん、とくん、と心臓が高鳴っている。
一緒に彼とここで泊まったことがうれしすぎた。
今もまだ胸がドキドキしてる。
布団を片付けようとしたそのとき。
ぱしっ、と誰かが里花の足をつかむ。
「……なに、ママ?」
布団からゾンビのように両手を伸ばし、母が里花の足をつかんでいた。
「はにゃー……? ねーえー、しんちゃんは~?」
不満そうに母がつぶやく。
松本 山雅。
自分の母の名前だ。
「帰ったわよ」
「えー……? なぁんで起こしてくれないのさ~。やっちゃん、ひっさしぶりに再会できたのに~。挨拶したかったですにゃー」
やっちゃんとは、山雅の一人称だ。
もう三十うんさいになるのに、それはやめてほしい。切実に。
「しんちゃん少し見ない間に、かーっこよくなってたわねぇ~」
「当たり前じゃない。もう高校生だもん」
……そう。
真司が山雅を見て、見覚えがあるといったのは、当然だ。
なぜなら幼少期に、山雅は真司に会ったことがあるのだから。
里花の家に真司が遊びに来たとき、何度も顔を合わせているのである。
もしもさっき、山雅が起きていたら……。
「……ばれるところだったわ、小学校の、思い出の女だって」
「えー、なぁんで里花ちゃんは隠してるのかにゃ~ん?」
「……言えないわよ。今あたし、ギャルだもの」
里花がこの街に戻ってきて、アルピコ学園で彼と再会したとき……。
心からうれしかった。
だが正体を明かすことが出来なかった。
「別にいいじゃなーい?」
「いやよ……思い出は、綺麗なままのほうがいい。……再会して、こんなギャルになってたら、幻滅しちゃうわよ」
里花は一途に真司を思っていた。
だが自分が里花であるとは、どうしても、明かせなかった。
かつての自分は地味でおたくで、ださくて……。
引っ越しを機に、ぐれたこともあって、今のギャルファッションになった。
そしてアルピコで運命の再会を果たす。
だがそのとき自分は……こんな姿。
真司から気づかれないほど、自分は変わってしまった。
「こんなままじゃ、しんちゃんに言えないよ、本当のこと……」
だから、と里花は決意する。
「だから、今度は、今度こそは……言うんだ。綺麗になって、しんちゃんに……好きだって!」
ぐっ、と里花が拳を握りしめる。
「めざせ脱・ギャル! そんでしんちゃんのハートを射止めて、そこでちゃんと明かすの!」
「気の長い計画だねーん。ま、がんばれ~♡」
じろ、と里花が母をにらみつける。
「そういうわけだから、ママ? ぜーったいしんちゃんに、正体を明かさないこと。会うのも禁止!」
「えー……そんにゃー……やっちゃんもしんちゃんとご挨拶したーいー」
「だめ。ばれちゃうから」
母は10年経っても姿が変わっていない。
向こうは気づいていなかったが、何かのきっかけで思い出すかも知れない。
たとえば、写真とか見て思い出すかも……。
できれば、自分が鬼無里 里花であることは伏せておきたい。
そのための一番の不穏分子は、この母だ。
「いい、念を押すようだけど、しんちゃんには絶対内緒だからね」
「はいはーい♡ やっちゃん了解しましたにゃーん♡ 絶対確実に100%、内緒にしまぁす!」
……不安だ、と里花が独りごちる。
かくして、プロローグは終わり、いよいよ、彼らにとっての本番が始まろうとしていたのだった。
【★ 第一部完結までご覧になって頂きありがとうございます★】
ここまでが、第一部完結となります。
お読みいただき、ありがとうございます!
まさかこんなにたくさんの人に読んでもらえるとは思ってなかったので、本当にうれしかったです!
さて次回なのですが、少し間をあけさせていただきます。
現在、別作の続編作品の書籍化作業に追われておりまして、
なかなか更新作業にまで手が回らない状態です……
更新を空けるため、【一旦】完結設定にさせていただきましたが、
更新は続けるつもりでいますので、ご安心下さい!
第二部は、第一部よりも面白く出来るように頑張りますので、
引き続き応援と、ブックマークも是非そのままにお願いいたします!
※毎回、申し訳ないと思ってますが……。
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