159話 ゴミ、屋上から投げ捨てられる
《妹子Side》
真司の元カノ、中津川 妹子は、追い詰められていた。
自分のこと好きだと思っていた真司の心は、とっくに離れていた。
彼の恋心を利用して、開田 高原に、今までのこと全部撤回させるよう頼むつもりだった。
泣き落としでもすれば、お人好しである彼のことだから、きっと助けてくれる……そう期待していた。でもその期待は裏切られたのだ。
もう、どうにもならない。
最悪の事態を想定して、不良を配置しておいたのだが……。
「逃げんなよー」
突然現れた、スーツの巨漢。
彼が不良を、軽々と持ち上げる。
「は、離せ! 離せよぉ!」
「高原様からさぁ、徹底的にやれっつわれてんだよー。ごめんなー」
不良はスーツ男から逃れようとする。
だが相手は両手で持ち抱えたあと……。
「そーい!」
「うわぁああああああああああああ!」
なんと、屋上から、不良を投げ飛ばしたのだ。
妹子は恐怖で動けなくなった。
……このスーツ男、簡単に人を、屋上から放り投げたのである。
「ひ、ひ、人殺しぃいいいい!!!!」
恐かった。
普通の顔して、人を投げ捨て、殺したのである。
屋上は、血でまみれていた。
外から誰かが、狙撃している。
そして、目の前の男は……。
「あそれ、ゴミはぽーいぽーい」
と、まるでゴミでも捨てるような気軽さで、不良達を捕まえては、ぽいぽいと捨てていく。
「うぎゃあああああああ!」「ひぎぃいいいいい!」「ままぁあああああああ!」
夜の闇に消えていく、不良達。
屋上から投げ捨てられた彼らが、どうなっているのか……見たくない。知りたくない。
ぐしゃっ! ぐしゃっ!
と何かが潰れる音、倒れていく不良達。
顔中、そして屋上中が……血まみれになっていた。
「一花さん、どこにいるの?」
「向こうのタワマンから、狙撃してる」
「狙撃……ねえ」
……だが、一番恐いのは、スーツ男じゃ無い。
真司だ。
彼は、スーツ男、そして狙撃手と知り合いのようだ。
知り合いというか、雇い主だろうか。
このスーツ男は、おそらく殺し屋だ。
だってこんな、殺し屋みたいな見た目してるんだし。
それに、人を軽々と屋上から投げ捨てている。
どう考えても、
「こ、殺し屋……」
「ほえ? おれのこと? いやぁ、照れますなぁ」
否定しない!
やっぱり、この男も、そして、ビルから狙撃している一花なる人物も、殺し屋。
そしてそんな殺し屋を雇い、不良どもを倒した、真司は……。
「一花さん、【こんなの】投げて……あとで掃除大変そう」
「掃除は大丈夫! おれがちゃんと片しておくからさ!」
「ほんとにぃ?」
「ほんとほんと!」
……殺し屋と気軽に話してる。
真司が……恐ろしくてたまらなかった。
(ひ、ひ、ひとが……人が死んで死んでるんだよ!? な、なに……そんな……たのしそうに……か、かいわしてるのよっ!!!!!)
もう、真司が恐くてならなかった。
殺し屋を使えること、そして、人が死んでも平然としてる彼が……。
恐ろしい存在に思えてしまったのだ。
「フッ……ざっとこんなもんよ」
三郎なる人物が、不良達を全員、屋上から外へと投げ捨てた。
屋上は、血の池地獄となっていた……。
狙撃手が不良を打ち抜き、倒れた不良どもを、三郎が外に捨てる。
「さて、あとはそこのゴミだけだね」
「ひぎ……!!!!!」
三郎と真司が近づいてくる。
地面の【それ】を踏みつけながら、ぐちゃ……ぐちゃ……という音を立てる。
何を踏んでいるのか、くらいのでよくわからない。
だが真っ赤なそれは、おそらく【人肉】だろう。
「いや……いやぁああ……いやぁあああああ……」
妹子は泣きながら、ずりずりと這って後退する。
だがすぐにフェンス際まで追い込まれた。
「おねがいしますぅ……真司様ぁ……どうか……どうか許して……」
恐怖のあまり、体の震えがとまらなくなってしまった。
もう体からは涙や鼻水、ありとあらゆる水分が漏れ出ている。
「おねがいだよぉ……ごめんなさい……ゆるしてください……真司様の大切な、松本里香さまを傷つけてしまったこと……心からおわびもうしあげますぅ……」
やっと、心から反省していた。
悔いていた。
……だが。
それは、里香を傷つけたことに対する後悔では無い。
去年の12月24日。
あのとき、真司を理不尽に捨てたことを、後悔していた。
もしもあのとき、真司が大富豪の孫だと気づいていたら。
もしもあのとき、キープでも良いから、手元に残しておけば。
今頃……こんなむごいことにならずにすんだ。
家から追放され、殺し屋に、殺されるようなことには……。
「ああ、駄目だこいつ」
真司は、妹子の目を見て、失望のまなざしをむける。
「もういいよ。反省してほしいこと、反省してないみたいだし。三郎さん」
「あいよー」
妹子の浅い反省は、真司に見抜かれていたようだ。
三郎は片手でひょいと、妹子を持ち上げる。
ふわりという軽い浮遊感を覚えると、カノジョの恐怖はピークに達した。
「いやぁああああああああああ! やめてええええええええええ! 離して! 離してよぉおおおおおおおおお!」
三郎は話さない。不良どもにそうしたように、振りかぶる。
「真司様ぁあああああああああ! お願いですぅうううううううう! もうこんなことしないです! もう絶対に人を傷つけたりしないです! だから……! だからぁ……!!!!」
「もう遅いよ」
三郎が、妹子を放り投げる。
体が木の葉のように舞う……。
そして……
頭から、地面に向かって……落ちていく。
「うぎゃぁああああああああああああああああああああああああ! ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
周りを見る余裕も、今までのことを振り返る時間も無い。
地面が、ドンドンと迫ってくる。
「いやだぁあああああああ! 死にたくないよぉおおおおおおおおお! いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
あまりの恐怖で意識がぶつ切れになる。
最後の最後で思ったことは……。
なんで……こんな……ことに……という、人生を振り返っての後悔の言葉だった。
真司への謝意も、里香を傷つけたことへの反省も……。
結局は、今際の際になっても、心から、にじみ出ることは……なかったのである。
……ぐしゃっ!
★
『GGから各員へ通達』
『次郎太、その女は連れてこい。ほかは手はず通り処理しろ』
『中津川妹子よ。屋上から落とされたくらいで、許されると思ったか?』
『孫が与えた最後のチャンスまで棒に振るなんて、なんと愚かな』
『貴様はもう、絶対に許さぬ』
『開田高原の孫を傷つけることが、何を意味するのか、死ぬまで味わわせてやるから覚悟しておくのじゃな』
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